表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/156

八月二一日③

「それは光栄だな」桐生はヒロがカウンターに置いたグラスを右手で軽くかざした。それから、本橋に「あれから、何か進展あったか?」と尋ねた。

「特に何も。山形の同期に被害者の娘の自宅を当たってもらったんだが、本人を確認することはできなかった。さっき東原とも話していたんだが、免許証、住民票、預金口座が揃っているんだ、本人じゃないって疑う方が難しいよな」

「免許証の偽造ってのは無い話じゃないけどな」

桐生は、シャツの胸ポケットからラッキーストライクを出して、東原に吸ってもいいかジェスチャーで尋ねた。東原が頷くと、いつものように慣れた手つきでタバコに火をつけた。

「そうだ。免許証のコピーとってるんだったら、番号教えてくれないかな。それと一応保険金の振込先口座も。もちろん、ここだけの話ってことで」

「じゃあ、明日にでも連絡するわ」東原が頷いた。「でも、保険金は明日支払うことで手続き済みなの」

「そうか」桐生は残念そうに呟き、「でも、こいつが随分熱心みたいだから、オレも出来るだけ当たってみるよ」と本橋の脇腹に軽く拳を当てた。

「痛っ」

本橋が顔を歪め、桐生の拳が当たったところに手を当てて呻いた。それを見たヒロが「大丈夫か」と、慌てて近寄ってきた。

「どうしたの? 何かあったの?」

東原がヒロに尋ねた。ヒロは本橋が打ち明けていなかったことを察して一瞬躊躇したが、「実は、この間桐生さんと一緒に来た日の帰りに暴漢に襲われて、一晩入院していたんです」と告白した。

「なんで、そういうこと教えてくれないのよ」

東原は驚いた様子で、本橋に詰め寄った。

「楓さん、こいつは昔からそういうやつなんで勘弁してやってください」ヒロが諭した。

「昔からそんなに水臭い嫌なやつだったの?」

東原はヒロを見上げて咎めた。

「まあ、そう貶さないで、せめて強情とか意固地って言ってやってください。」

ヒロは苦笑いした。

「誰にやられたのか分からないのか?」

桐生も本橋の方に身を乗り出した。

「分からない。だが、白岩の息のかかった奴らじゃないかと思っている」

本橋は、大丈夫という風に手を軽く挙げた。

「何故そう思うんだ」

「推測だよ。最近、他にいきなり襲われるようなことをしてないからな。なあ、」本橋は桐生の方を見た。「手遅れかも知れないけど、免許証の番号照会だけでもやってくれないか。この間から言っているように、オレは白岩は筋金入りの悪党だと思ってる」

「わかった」

桐生の目に憤りの色が浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ