八月一八日④
「でも、労災の保険金は、陣内さんの娘さんに支払われるのよ。仮に他殺だとして、事件の首謀者ってこと?」
「その可能性は否定できないが、今回陣内さんと娘の両方を知っていた人物、つまり白岩が首謀者と仮定するのが一番合理的だとオレは思う。そう仮定した場合、陣内さんの娘に支払われる保険金を、奴が手にするためにはどうしたら良いと思う?」
「陣内さんの娘さんと結託する?」
「もしくは、本人にはそうと分からないように利用するか。どちらの可能性も否定できない」
「どちらにせよ、まずは陣内さんの娘さんが本人なのか確認する必要があるってことか」東原は、ふと気付いた。「この間、私が会った女性は本人じゃなかったってこと? 運転免許証まで確認したわよ」
「普通は、労災の保険金のために運転免許証まで偽装しようって思う人はいないよな。だけど、運転免許証を偽造したっていう可能性も否定できない」
「彼女の連絡先電話番号は、携帯電話だったわね。固定電話だったら、実際に住んでいる可能性が高いって言えるけど……。でも、確か保険金の振込先金融機関も、山形中央銀行の山形県内の支店だったはず」
「ずっと山形に住んでいた人間が、こっちの金融機関の口座持っていたら変だろう。それ位の工作はするさ」
「それで、これからどうするの」
「とりあえず、警察が動けるようなネタをこっちで探してやるしかないな」
「それは警察の仕事じゃない。その刑事大丈夫なの?」
「桐生刑事っていうんだけど、なかなかいい奴だと思うよ」
「あんたが褒めるってことは、変人ってことね」東原はコーラを飲み干すと、缶をゴミ箱に投げ捨てた。「ところで、可能性を否定できないって、ひょっとしてその刑事さんの受け売り?」
「そんなに言ってたか、オレ?」
「言ってたわよ。別にいいんだけど、人の口癖が感染るなんて、あなたには珍しいわね」
可笑しそうに笑って東原は本橋の背中を叩いた。激しい痛みが走り、反射的に本橋は顔を歪めた。
「それで、何かいい考えあるの?」
東原は本橋の苦痛に全く気づいていないようだった。
「陣内さんの娘の住所を当たってみるしかないな」
「今度は山形まで行くの?」
「流石にそれは難しいな」
「じゃあ、どうするの?」
「山形の同期に頼んでみるさ」




