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八月一三日①

 午前一〇時。事務所にアナウンスが流れた。

「東原事務官、お客様がお見えです」

 コーヒーカップを片手に休憩室から覗くと、カウンターの向こう側を、ブラウスにタイトスカート姿の東原が歩いていくのが見えた。受付カウンターの脇には観葉植物が置かれているので、様子は窺えないが、その陰から程なく東原とともに女性が姿を現した。彼女が陣内の娘。白いブラウスにカーキーのパンツという出立ちはともかく、明るめのブラウンのパーマがかかったロングヘアーは、昨日見た彼女の自宅付近の航空写真から受けた印象からは違和感を禁じ得なかった。二人が第三聴取室に入っていくのを目で追っていると、再びポーンという呼び出し音とともに、「本橋監督官、お客様がお見えです」とアナウンスが流れた。

 案内カウンター前の待合席には誰もいないのに、フレグランスの強い香りが、周辺を包んでいた。本橋が受付係の遠野を見ると、遠野は「さっきの女性よ」と、東原達がいる第三聴取室の方に軽く視線だけを向け、口角を少し下げて呆れた様子でつぶやいた。本橋も、遠野と視線の先を併せて冗談めかして言った。

「あっちじゃ、ああいう派手なヘアカラーが流行っているのかな」

「そんなわけないでしょ。東北には色白の美人が多いのよ。一度行ってみたら」

 遠野は、上目遣いで本橋の方を見ながら涼しい笑みを浮かべ、鳴り出した電話の受話器に手を伸ばしながら、「本橋さんのお客様は、第四聴取室にご案内したわ」と右手に持ったペンでその方角を指しながらいつもの親しみのある口調で本橋に告げた。

「ありがとう」と、本橋がファイルを軽く上げて礼を言うと、どういたしましてという風にペンを左右に揺らし、「杉並労働基準監督署でございます」と、気取りがない落ち着いた声で電話に出た。

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