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八月八日⑭

「被害者の陣内一雄さんは、地上で倒れているのを発見されたんですが、位置的にはそこの足場の上から墜落したようなんです。あそこです」

桐生が指差したのは、足場の一角だった。足場は、建物の外周に沿って整然と組み立てられ、外側には一面に目隠し兼防音用のシートが取り付けられていた。しかし桐生が指差したところだけ、シートの一部が外れひらひらと風にそよいでいた。桐生は続けた。

「あちらにいる現場代理人の方の話では、シートは台風とか強風の時には足場にかかる負担を減らすために、取り外したり捲り上げたりするらしいんですが、昨夜は風吹いていなかったんで特に何もいじらなかったと。それと昨夜帰るときに巡回した時には、シートはああいうふうに外れていなかったと言っています」

「毎晩、シートの取付状況を点検していたんですか」

「そうらしいです。大きい音を立てると近隣から苦情が来るんで防音を兼ねてシートで囲っているらしいんですけど、風が通らなくて暑いっていうんで、作業員が勝手に外したりしたことがあったそうなんです」

「発見したのは、現場代理人ですか?」

「いえ。二四時間ぶっとおしで施工しているんで、現場代理人と補佐役の係員の二人が二交替で詰めていたようです。で、昨夜は係員の方が詰めていて、朝巡回しているときに発見したと言っています。現場代理人の横にいる、彼が第一発見者です」

桐生はここで急に声を潜めた。「ところで……ちょっと解らない点がありまして。一段下の足場まで一緒に来てもらっていいですか?」

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