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英雄武装士  作者: sora
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第八話  スカウト


「もうひどいなー」


 結構本気で殴った筈なのに、橘司令官はものの数秒でケロッとした。


 ……この人何かやだな……。



 人として何かがこの人から失われている気がする……いや、この人元々持っていないのか。幾つか人に必要な感情を。


「さて、そろそろ本題に入ろう」


 おもむろに秋宮さんがそう言うと、先程俺の手錠を外したリモコンを操作すると、俺たちが座っているソファーの間にあるテーブルの上の空中に何も映っていないモニターが投影された。


「まずはマリスについてだ」


 秋宮さんは再びリモコンを操作すると、モニターに黒い靄……マリスが映った。


「マリス。詳しくは解らないが、こいつらは人間の人間からは触れられず、逆にマリスから普通に人間に触れられる」


 やっぱりか。……ん?


「あの、橘の刀はマリスを斬っていましたけど」


「ああ、姫夜……正確に言うと、姫夜が持つ刀が特別なんだ」


 やっぱりか。あんな雷をバチバチと出せるんだ。実はアレ普通の刀なんだ。なんて言われたら俺の常識はかなり崩れるだろうな。


「所でー柊君。君はマリスの根幹源は何だか知っているー?」


「橘。その話は無しだ」


 橘司令官を秋宮さんが制した。


「済まない。話を戻そう」


 秋宮さんがそう言い、今度は橘の方を向いた。


「姫夜。アレを出してくれ」


 橘は頷き、何か取り出して、机に置いた。


「これって……」


 それは刀の柄だった。(つば)はついているが、刀身は無かった。


「是が英雄武装(ヒーロー・ギアーズ)の一部だ」


 秋宮さんはそう言うと、再びリモコンを操作した。


 モニターに映っていたマリスは消え、今度はあの侍姿の橘だ。


「少し、話が逸れるが柊君は英雄というのを知っているかな?」


「英雄……?」


 英雄って一体……。


「英雄とは神話や伝承に出てくる者達の中で偉大な功績をあげた者達の事の総称だ」


 秋宮さんは橘が取り出した刀の柄を手に取った。


「これはかの立花道雪が雷を斬ったとされる雷切りの剣……雷切の柄だ」


 ……はい?


「いや、ちょ待ってください。それ本物なんですか?」


「ああ。信じられないかと思うけど、これは間違い無く雷切だ」


 おいおい。マジカヨ。俺は今結構すごい物見ているんじゃ無いのか? 何せあの伝説の、雷を斬ったとされる雷切だ。


「我々神代機関はこういう遺産……聖遺物を回収している」


「何故、そんな事を」


「それが英雄武装(ヒーロー・ギア―ズ)の発動するのに必要なんだ」


 秋宮さんそのまま話を続けた。


英雄武装(ヒーロー・ギア―ズ)とはある特定の因子を持った人物が聖遺物と共鳴。その聖遺物の完

全再現することなんだ」

 

 うーん。何か、すごい壮絶な話なってきたな。

 

 それに、完全再現って事は最早英雄の再誕といっても過言ではないな。


「マリスは簡単に言ってしまえば、悪霊みたいなモノなんだ。そして、マリスにはありとあらゆる現代兵器が通じない。それこそ核でもだ」


 人が触れられない上に人類の叡智の結晶とも言える兵器が通じないとは。悪霊とはよく言った物だな。


 ……橘司令官が言おうとした事とは何か違う気がするな。とはいえ、この人達が教えてくれるとは思えないけど。


「そして、聖遺物は名前の一部が入っている通り聖なるモノ。マリスに唯一対抗できる力を持っている。だからこそ我々神代機関は聖遺物を回収するんだ。マリスに対抗するために」


 そこで秋宮さんは一旦口を閉じると、またリモコンを操作した。


 今度はモニターに映ったのは、


「俺……?」


 俺だった。唯、普段と違うのは、白銀の鎧を身にまとっており、手には黄金の剣を持っている。


「これは、君が英雄武装(ヒーロー・ギア―ズ)した時の姿だ」


 ……はい? 今何て言ったこの人は?


「あの、英雄武装(ヒーロー・ギア―ズ)って確か聖遺物が無いと反応しないんじゃないんですか?」


 先程の話通りなら、俺は聖遺物なんて持っていないんだが……。


 そんな俺の考えに気がついたか分からないが、秋宮さんは話を続けた。


「そうなんだが……これを見てくれ」


 そう言うと、秋宮さんはまたリモコンを操作した。


 すると、今度は何やら人型をした画像が出てきた。


「先程、君の体を検査したものなんだが……実は君の体全身から聖遺物の反応が出てきた」


「はあ? どういう事ですか。それって……」


「分からん。どうも聖遺物が粒子化して君の体に溶け込んだみたいなんだ。柊君、何か心当たりは無いか

?」


「そう言われても……正直……心当た……」


 ……いや、アレか? 嫌でもそれは無いだろう。


「柊君……?」


「いや、何でも無いです」


 心当たりが無いわけでも無い。だが、それを説明するにはあの人との関係を話さないといけない。それだけは避けたい。


「……ふーむ」


「……何ですか?」


 唯、橘司令官は俺を見てニヤニヤしていた。


 まるで、俺の心の奥底まで見られているような気分だ。


「いやあ? 何でも無いよ?」


 そう言いながら、まだニヤニヤしていた。


 ……やっぱり駄目だ。俺はこの人のことが好きになれない。外見とか、外面で判断しているのでは無く、こう、内面の中が好きになれない物を持って居るんだ。人として当たり前の感情を持っていない代わりに。


「……現在英雄武装(ヒーロー・ギアーズ)を使える人間は姫夜を入れて三人。そこでだ」



 秋宮さんは俺の目をちゃんと見つめた。


「柊君。うちで働いてくれないか?」








「ふう……」


 何だか久しぶりに見たような日差しを浴びながら俺は家への帰路に着いていた。歩いている中、俺は先程のやり取りを思い出していた。


『柊君。うちで働いてくれないか?』


『……どういう事ですか?』


 そんな風に言ったが、正直、俺はこの質問の意図に気がついていた。


 英雄武装(ヒーロー・ギアーズ)を使えるのは僅か三人。そこに何の聖遺物を使うか分からないものの、英雄武装(ヒーロー・ギアーズ)を使える者が新たに現れたんだ。そこから考えられることは。


『……マリスと戦って欲しいだ』


 マリスのと戦闘。


『秋宮さん……!』


 橘がソファから立ち上がって険しい表情で秋宮さんを睨む。


『何を考えているんですか!? いくら聖剣使いだからって何も関係無い一般人である柊君をスカウトす

るなんて……!』


 ふむ。そう言えば……。


『あの……聖剣って……』


『ああ。聖剣使いってのは、英雄の中でも特別な聖属性をもつ剣の使い手の事で、現在は君だけだ』


 成る程。だから俺は聖剣って言ったのか……でも何で知っていたんだ? 俺。


『ああ、でも聖剣を使う英雄って随分限られるから君の英雄武装(ヒーロー・ギアーズ)の英雄も神代

機関に入れば分かるかもしれないな』


『だから! 何で柊君をスカウトする前提で話を進めているんですか!?』


 あー、何だか橘がどんどんヒートアップしているな。ていうか、普段の物静かな性格とは随分違うな。これが本当の姿かな?


『大体……』


『落ち着くなよー姫夜』


 もはや叫び声になりそうになりかけた所で、橘司令官がストップを掛けた。


『あのさ-? お前がいくら叫んだところでさー、柊君の事なんだから柊君が決めることなんだよー?』


『っ!』


 橘が恨めしそうに橘司令官を見るが、橘司令官の言葉は正しい。


 結局の所、今回のスカウトに橘はあまり関係無い。飽くまで俺のスカウトだからだ。


『まあ、取り敢えず柊君返答どうかな?』


 秋宮さんは険悪なムードになりかけている兄妹を尻目に俺に聞いてきた。


 マリスとの戦闘か。何となく興味はあるけど、


『少し……考える時間をいただけますか?』


 少し、考えたい。


『……理由を聞いても良いか?』


『正直な所、色々な話があってついて行けないってのが実のところです。だから、少し頭を冷やして考え

たいんです』


 とにかく時間が欲しい。考える時間が。


 秋宮さんが橘司令官の方を見た。


『良いんじゃない? いきなりそんな事言われても戸惑うだけだし、少し頭を冷やした方が良いだろうし

ね』


 そして、橘司令官は一端口を閉じ、次の瞬間、俺が忘れ……意図的かどうか自分でも分からないが……ていたことを強制的に思い出させた。


『……それにご家族の人が心配するだろうし』


 一瞬俺の思考はフリーズした。今なんて言ったこの人は? 確か。


『……あの、今何時ですか?』


『ん? えーと』


 秋宮さんは左手に付けている電子型腕時計のスイッチを入れて、時間を教えてくれた。


『ちょうど、日曜日の朝十時だな』


 帰りたくなくなった。




「はあ……」



 俺は自分の家の玄関で何度か分からない溜め息をついた。


 結局あの後、俺は秋宮さんに家まで送られることになり、神代機関を後にした。


 唯、神代機関を出る際に、目隠しと耳栓をされた。


 理由を聞くと、現段階ではまだ俺は一般市民で、神代機関は一般市民には絶対に場所をしられてはいけないところらしい。


 そして、なんやかんやで、家の近くまで乗せてってもらい、そこで秋宮さんとは別れた。


「家、入りたくないな……」


 正確に言えば、中にいるであろう香織里と志織里の顔を見たく無いのだ。まず香織里は俺に対して関節技を決めてくるだろう。


 志織里なんてハサミ持って俺に切りかかって来るだろう。


 ……どうしよう。ホントにこの玄関くぐりたくない。


「……ええい! 男なら当たって砕けろだ!」


 俺は、玄関の鍵を開け、引き戸に手を掛けた。それではいざ!


「……ただいま〜」


 ……ボソッと、それこそ玄関にいて漸く聞こえる程度の声で俺は呟いた。


「あり……?」


 俺は思わず拍子抜けしてしまった。


 何故ならば、家に帰ってきた時に絶対と言っても過言ではない香織里からの暴力という名の洗礼がないからだ。


 というより、家族の中で一番耳が良い香織里が俺の帰宅に気がつかない筈が無いのだが……。


 それに、家が誰もいないように静かだ。


 こう言っては失礼だが、香織里と志織里にはぶっちゃけあまり友人が居ない。それこそ、日曜日に一緒に遊びに行く人が居ないくらいに。


 だから、日曜日に誰もいないのはあり得ないのだが……。


「……どうなってのこれ?」


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