表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/32

リセット


 ......少年は顔に風を受けながら高層ビルの屋上に立った。





 彼は誓い、願った。


 もしも次に目を覚ますことがあったら自分だけを愛し、慈しむと。

 次がなくてもせめて、この真っ暗な人生の最期に少しでも安らぎがあるようにと。




 (まあ来世があったらだけど......。)

 そう思い、軽く口の端を歪める。

 何もかも諦めたように地上を見下ろす、暗く痩せて落ち窪んだ目とは裏腹に顔に清々しい笑顔を浮かべて。


 



 




 ****



 その少年は虐げられていた。母親に、周りの人達に、クラスメイト達に。

 父親は幼い頃に借金を残して死に、母親は育児と貧困のストレスで我が子に強く当たる。そんな本人は家の事情を知っているために抵抗はせず、徐々に受け身で気弱い性格が形作られていった。

 人間と言うものは残酷な生き物で、多くの場合、弱者は何か圧倒するための武器を持たない限り虐げられる。

 少年も同じく武器を持たないがゆえに虐げられ、今や抑圧されることに馴れつつある日々を過ごしていた。



 しかし無意識下の自己防衛本能はエスカレートする.

外部の抑圧に、知らないうちに肥大化、現実を否定し始めた。





 「死んでしまえばなにも感じないですむのかな。」


 ついにダムは決壊し、馴れに押さえ込まれていた本能は意識に滲み出て、現状を打破し自我を守る方法を強く求めた。

 そして出た結論はどうしようもない人生全てのリセット。自己の否定。少年は既に壊れていた。


 それは自分を苦しみから逃がす、一種の自己愛でもあった。





 ****

 

 「もし次に目が覚めたときは、他の誰でもない、自分だけを守ろう」

 




 そう口に出して少年はリセットへの一歩を踏み出す。

 




 さようなら、過去の僕。

 



 

 (ようやく......逃げ――――)

 ゴッ。ビチャァァァァァァ。







 

 月明かりに照らされて浮かび上がる紅い死体。

 そして時は逆行する

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ