七十二話 ふおっ……
「すまん遅れた」
二人をひっぺがすことを諦めて頭を撫でながら相模川さんからよくわからない視線を向けられていると、お化け屋敷から翔太と春原君が戻ってきた。
「……大変そうだな」
「ねえニヤニヤしながら言ってるけど本当にわかって言ってる?」
「いやわからん」
そう言いながら近寄ってくる翔太に後で何か奢らせようと心の中で企みながら「次はどうする?」と聞く。現在時刻は二時五十分頃。もう少しで気温が下がり始める時間だ。
「んー…………もうホラー系も絶叫系もこりごりみたいだし……次はこれだ!」
翔太はどこからか持ってきたパンフレットの一面を僕らに見せつけるように開いた。
「……あ、これか」
僕はUSJにあまり興味が無いので敏感に反応することはできなかったが、聞いたことくらいはある。
「そうっ!『planet wars』!誰もが一度は聞いたことがあるだろう超名作!ファストパスはもう取ってある!行くぞっ!」
「えっなにそのテンション怖いわ」
相模川さんが無表情でつっこむ。まあ、翔太はあのシリーズ好きだからな……ああなるのも仕方がない……と思う。
「ほら急げっ!時間は待ってはくれないぞっ!」
「ははは…………」
「…………意外な一面ってやつだね……ちょっと怖いかも」
相模川さんが引き気味に、というか数歩後ろに下がって露骨に顔を歪ませて言った。みんなその言葉に共感しながら、距離を取りつつ翔太についていく。
「こっちだっ!」
翔太に誘導されてカウンターまで行き、ファストパスを渡してそのまま会場の方へ。
「ちなみに吾野君、これってどんなアトラクションなんですか?」
「うーん……アトラクションってよりかは4D映画みたいなもんかな。こう、場面に合わせて椅子が揺れたりするんだよ」
え、なにそれ楽しそう!
「まあ、百聞は一見にしかずだ、とりあえず見てみりゃわかるよ」
僕らは前から二番目の真ん中あたりに一列で座ることに。左から春原君、小鳥遊さん、僕、白撫さん、相模川さん、翔太の順だ。
ワクワクしながら待っていると、ぞくぞくと人が入ってきて席はほぼ全て埋まった。
それから程なくして場内の電気は全て消え、映画が始まった。
「おおお…………」
『planet wars』は多くの国が惑星を巡って宇宙戦争を繰り広げる物語……って翔太に聞いた。この映画では、作中の飛行機による戦闘シーンが描かれているようだ。
映像に合わせて、どどどど…………と座席が揺れる。
「おお…………おおおお!?」
だんだん傾いてきたと思ったら、急に逆に傾いた。
「きゃっ」
「わあっ」
戦闘がどんどん激しくなってくるにつれて、座席の動きも激しくなる。右に行ったり上に傾いたり、背もたれ側部から風が吹いてきたり。
「うお……」
だが、僕はまったく違うところに意識が持ってかれていた。
僕の左右には、白撫さんと小鳥遊さん。座席は、左右に揺れる。つまり、二人の髪が僕の周りを縦横無尽に駆け回る。
「ふおっ……」
その時に、ふわっといい香りがするのだ。
…………落ち着け僕、そんなことに気を取られていたらただの変態じゃないか。落ち着け、落ち着いてアトラクションに集中––––
「きゃっ」
「ふぅっ」
できるかあっ!
そのまま終わるまで、僕は精神を乱され続けるのだった。




