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七十話 お化け屋敷②ー怖いものは怖い

「それじゃ、健闘を祈る」


 そう言った翔太と春原君が最初に扉をくぐっていった。次に出たのは相模川さんと小鳥遊さんのチーム。


「じゃねー!」

「死にたくないよ……」


 二人の表情は真逆だった。どっちがどっちかは言うまでもないだろう。


「じ、じゃあ、僕たちも行こうか」

「そ、そうですね」


 白撫さんにすぴーどを合わせながら、扉を開ける。


「おおう…………」


 扉の先は、長い下り階段に繋がっていた。あまり明るくはなく、それっぽい雰囲気が漂っている。


「降りられる?」

「は、はい」


 僕が先行し、白撫さんが後からついてくると言う形で進んでいく。が、特に変わった事は……


「ひいっ」


 あった。壁に飾ってある絵画が僕らについてくるのだ。それも、人物画。なにやら目も動くようで、じっと一点を見据える事はなく、あちこちキョロキョロしている。


「うう…………」

「大丈夫?」

「……はい」


 さっきより僕との距離を狭めつつ、白撫さんはうなずく。本当に大丈夫かな……?

 そんなくだりを数回ほど繰り返し、長い時間をかけてやっと階段を降り切った。


「ふー、ふー……」


 最後の段差を降りたときには、白撫さんは腕をたたんでキュッと縮こまって僕の影に隠れるようにしていた。


「…………進みましょう」

「う、うん」


 そうしてゆっくりと、一歩、二歩と踏み出して行く。その度に床が軋む音が聞こえ、白撫さんの身体がビクッと反応する。

 途中でドアはあったものの、全てオブジェクトで開く事は無かった。残りは、正面にあるものだけ。


「多分、開くならあそこかな?」

「お、恐らく」


 僕はドアノブに手をかけ、ゆっくりと押した。


「あ、開くみたいだよ」

「そ、そうですか」


 ドアを完全に開き、そーっと中に入る。


「い、いませんか?なにもいないですよね!?」

「多分大丈夫だよ」

「………………行きます」


 白撫さんはわざわざ宣言して、深呼吸して、とんとんと胸を叩いて……もう一回深呼吸して、入ってきた。


「………………ふぅ」


 そして、白撫さんが安心し切った次の瞬間。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 え!?


 左からよくわからない悲鳴が聞こえたかと思ったら、もうそのときには白撫さんの姿はなかった。


「ええ…………」


 後ろのドアが開いていることから、どうやら戻っていったようだ。それを追いかけて、僕も前に戻る。


「白撫さーん?」


 戻ってみると、階段の真ん中あたりで人が倒れていた。


「だ、大丈夫……?」

「ひぐっ……んぐっ……」


 近くまで寄って姿勢を低くしてみると、白撫さんが泣いているのがわかった。


「えっと……」


 こういう時はどうするのが正解なんだ!?背中を摩ってあげたらいいのか?それとも頭を撫でてあげたら?うーん……

 そうやって僕が悩んでいると。


「一ノ瀬、君……ひぐっ」

「え?」


 いつのまにか、白撫さんは僕に抱きついていた。


「し、白撫さん!?ちょ、ちょっと……」

「ひうっ……んう……」


 僕は引き剥がそうとするのをやめて、そっと抱きしめてやった。


「大丈夫、大丈夫」

「……はい…………」


 背中を優しくとんとん、と叩く。

 それから白撫さんが落ち着くまではずっとそうしていた。


「…………すみません、もう大丈夫です」


 すっかり泣き止んだ白撫さんはゆっくりと僕から離れた。


「じゃ、キャストさんにきてもらおうか」


 怖いのであれば無理してこのまま進む必要はないからね。

 僕がボタンを押そうとすると、白撫さんはそれを止めた。


「いえ、大丈夫です」

「……無理しなくていいんだよ」

「いえ、大丈夫、です」


 彼女はすっと立ち上がる。


「……じゃ、行こうか」


 それにつられて僕も立ち上がり、ドアの方を向いた。


「でも、キツかったら言ってね」

「はい」


 そうして、階段を降りて行くと……


「あ、あの」

「ん?」

「その…………」


 どうしたのだろう、白撫さんはその場でもじもじしている。


「て…………」

「て?」

「手を……貸してもらえないでしょうか。その…………やっぱり、怖いものは怖い、ので」


 手を繋いでくれ、ということなんだろう。


「あ……うん、どうぞ」

「あ、ありがとうございますっ」

「わっ」


 あろうことか、白撫さんは僕の腕にギュッと抱きついてきた。


「え、えっと……」

「じゃあ、進みましょう」

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