六十七話 もやもやご飯
「………………あの、春原君」
「なに?」
「あ…………いえ」
なぜ今私は春原君に話しかけたのでしょうか。お昼ご飯になにを食べるか聞くため?それとも…………辛くなったから話を聞いて欲しいって?自分がわかりません。
「ならいいけど」
「それより……もう気分は良くなりましたか?」
「ああ、おかげさまで」
「では、ご飯にしましょう。なに食べます?」
「向こうにパンケーキ屋があったのと、あっちにカレー……みたいなのあったけど」
「なら、パンケーキ食べましょう!」
私たちはパンケーキ屋へ向かいました。するとそこには。
「おっすー」
「やっほー!」
吾野君と未亜がいました。
「お二人もお昼ですか」
「そだよー!」
二人はソファと椅子の二人がけの席で食事を摂っていたのですが、私たちに合わせて隣の四人がけの席に移動してくれました。
「お二人はさっきまでなにをしていたのですか?」
「あ、あー……」
私が聞くと、二人はあからさまに困った表情で視線を交わらせています。
「まー、ぼちぼちと、色々、回ってた、かなー?」
なぜ疑問形なのでしょう?
「そ、そっちはどうだったの?ジェットコースターとか乗った?」
「ええ、一回」
「どうだった?」
「私は楽しかったですけど……春原君が」
帽子を取っている春原君が一度こっちを向きます。
「ああ…………正直、キツかった」
「す、すみません……」
「や、こういうとこに来た以上乗りたいのが普通だと思うから、気にしないで」
そう言い、彼はマスクも外しました。が、外から見てちょうど一番奥に座っているため、見えにくくなっているので特に問題はないのでしょう。
「まあ、何か頼もうか」
「そうですね」
注文するメニューを決めて、春原君が呼び鈴を鳴らします。
「はい、ごちゅ…………えっ」
やってきた女性店員さんは、春原君の方を見ると固まって動かなくなってしまいました。
「えっ……本物?」
「まあ、一応」
「えっ、あっ……サインください……」
「じゃあ、ペン貸して」
……………………春原君って、そんなに人気な人だったんですね……
彼がサインを描き終えた後、私たちが注文すると店員さんはぱたぱたと去って行きました。
そして、しばらくすると。
「あ、みんないるー!」
小鳥遊さんと一ノ瀬君もまた、同じテーブルにやってきました。
「お、良夜!こっちこいよ!」
「う、うん……」
どうしてか、私は一ノ瀬君と目を合わせることができませんでした。
二人は隣の二人がけの席に座り、仲良さそうに二人でメニューを眺め始めました。
「あ、これにしよー!」
「んじゃ、僕はこっちにしようかな」
「……ねえりょーくん、これ飲みたいなー!」
「いや、これは……」
何を見ているのでしょう……?
「そういえば、俺ら飲み物頼んでなかったよね。見てみようか」
「あ、そうですね」
そんな私を見て気を利かせてくれたのか、春原君はメニューを開きました。二人が見ているのは、このページの……え、このページ?
今開いているのは、カップル用のページでした。そして、そこにある飲み物は一つ。一つのカップに二本のジュースがささっているもの。
「……だめ?」
「…………ごめん、これは流石に」
その言葉を聞いて、私はどこかホッとしました。なぜ、とは思いませんでしたが、そんな自分に少し嫌気がさしました。自分の好きな人が別の女性との距離を少し置いたことに安堵しているなんて…………人として、どうかしています。そう思いつつ、私は普通にジュースを頼みました。
その時に小鳥遊さんもサインを求められており、春原君と小鳥遊さんが近くのテーブルにいたからか、私、一ノ瀬君、春原君、小鳥遊さんの料理はほぼ同時にきました。
「ね、りょーくん」
「ん?」
何を思ったのか、小鳥遊さんはフォークにさしたパンケーキを一ノ瀬君の方へ差し出しました。
「あーん」
「え?」
「…………あーん!」
「あ、あーん……」
な…………なあっ……!
「どお?おいし?」
「う、うん……」
なんですかなんですかなんなんですかあれ!私もやりたいです!
でも、私と一ノ瀬君のテーブルは別のものですし間に吾野君と未亜がいるのでどうあがいてもできません。それに…………一ノ瀬君も、小鳥遊さんとの方が嬉しいのでしょう。
そんなふうに心の内で密かにいじけつつ、私は昼食を済ませたのでした。




