六十一話 待ち時間
今にも走り出さんとする小鳥遊さんを抑制しながら、列に並ぶ。さっきゆっくりがいいって言ってたけど『楽しみ』って気持ちは隠せないんだろうな。
「三十分待ちだね」
列の傍に立っているボードを確認しながら、小鳥遊さんが呟いた。
「ゆっくり待とうか」
そう言い、せっかく二人で楽しみたいと言ってくれた彼女を退屈させないためになにか話題はないかと考えた。
「そういえば、小鳥遊さんは何でうちの高校に来たの?自分で言うのも何だけど、めちゃくちゃ賢いところだと思うんだよ」
「んー…………私、勉強は大学まで終わってるんだ」
小鳥遊さんは特に自慢するでもなく、さらっとそう口にした。
「えっ」
「びっくりした?」
そりゃ、驚くよね。
「でも、何でそんなに勉強したの?」
「あー……そっか、覚えてないんだもんね……えっと、その、りょーくんに…………憧れたから……なんだけど……」
「ごめん、最後の方もう一回言ってもらっていいかな」
だんだん声が萎んでいき、最後が全く聞こえなかった。僕に……までは聞こえたんだけど。
「や、やっぱりヒミツ!」
「え、そ、そう」
なにを思ったのか小鳥遊さんは急に大きな声を上げ、その後をゆっくりと紡いだ。
「学力どうのは置いといて才王に入ったのはもし大人になったときに自分のやりたいことが出てきたらそれをやれるようにっていうのが理由かな。もらえるなら高い学歴の方が良いしね」
なんというか、天才の発言だ。
「あと、りょーくんに会えるとは思ってなかったから、嬉しいな」
「そ、そう」
どう返したら良いのか分からず、随分素っ気無い返事しかできなかった。頑張れよ僕!もうちょっとなんかあったろ!
「ねえりょーくん」
「なに?」
「ずばり聞くけどさ……」
な、なにを聞かれるんだろう。ずばり、という一言だけで緊張してきた。そして、問われたことはそれだけ緊張するにふさわしいものだった。
「白撫さんと、どういう関係なの?」
「へ?」
「だから、白撫さんとりょーくんはお付き合いしてるのっ?」
「い、いや、してないけど」
相手の父親に任されはしたけど白撫さんが僕のことをどう思ってるかなんてわかんないし、可能性も少ないんじゃないだろうか。悪くは思われてないと思うけど……
「じゃあ、どんな関係なの?」
「どんな関係って言われても……」
隣の部屋に住んでて、毎日一緒に勉強してたまにお菓子食べたりするくらい…………あとは、教室でよく喋るかな?
それをそのまま伝えると、小鳥遊さんは血相を変えて再び質問を投げかけてきた。
「とっ、隣に住んでるのっ!?毎日一緒なのっ!?」
どうやら、お菓子は気にならないらしい。
「あー、うん。色々あってね」
「ちゃんと説明して!」
ちゃんと、か……どこから話せば良いのかな。長くなるし、また今度にさせてもらおう。
「ごめん、長くなるから今度時間があるときでもいいかな」
「…………そういうことなら」
それでこの話は終わり、別の話題に映った。聞いたのはモデルの話だとか、声優の話や最近みた映画など。
「あとね、最近ストレッチにハマってるんだー!りょーくん、今度一緒にやろうよ!」
こうしていつのまにか次の約束をとりつけられつつあれやこれやと話をしていると、やがて列は僕たちが先頭になった。




