四十四話 父とまどかとその他もろもろ
......え?今…………
「どうして、お父様がここに…………」
––––お父様。つまり、白撫さんのお父さん。これは、挨拶しとくべきなんじゃ?と、一瞬は思ったものの––––
「なにをしているんだと聞いている」
そんなことが許されそうもない、剣呑な雰囲気だった。
「い、いえ、これは、その……」
「昨日会長から連絡をいただいてここまできてみれば……!お前は!こんなところでなにをしているんだ!答えろ!」
その怒声に、白撫さんはビクッと肩を跳ねさせた。
「あの」
直後、相模川さんが白撫さんの前に出た。
「そんなに怒鳴ってはいかんよ、優純」
そう言って、もう一人、お婆さんが車から降りてきた。うーん、どっかで見た気がする……っていうか、車の扉って開いてたっけ?ま、いいか。
「すみません、会長」
優純さん––––いまお婆さんがそう言ったから白撫さんのお父さんは優純さんという名前なんだろう––––は拳をぎゅっと握り、歯を食いしばりながらお婆さんに頭を下げた。多分、お婆さんには逆らえないんだろう。
「……で、なんだ相模川」
優純さんは振り返り、相模川さんを見た。どうやら、相模川さんと白撫さんのお父さんは知り合いらしい。
「お嬢様がここにおられるのには少々理由がありまして。そのことについてお話ししたく思いますので、一度宿泊している旅館までご足労いただけないでしょうか」
それを聞いた優純さんは、
「……わかった」
と、渋々といった様子で返事をした。
「では」
そう言ってこちらへ歩いてこようとした優純さんを、おばあさんが引き留める。
「ちょいちょい、私もいっていいかね?」
ああ、それは助かる。なんて言うか、良き理解者っぽいし。
そして、お婆さんがついてくることはやっぱり優純さんにとっては嫌な事だったようで、
「………………はい」
と、長い沈黙の後で了承した。
が、お婆さんが味方な訳だから、白撫さんが悪いように言われて終わることはないだろうと思ったのに、相模川さんと相模川さんは少しの間だけ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「……こちらです」
相模川さんがそう言って二人を案内する。その次に、黒服の人––––なんか、車からぞろぞろ出てきた––––そして、僕らもそれに続く。
とはいえ、僕、翔太、お姉さんは完全に蚊帳の外だ。どういう状況なのか、あと、なぜいつもは明るく振る舞っている相模川さんの表情が大真面目で、背筋をピンと伸ばし手を前で軽く握っているのか––––その様子は、さながらメイドのよう––––この二つが全くわからない。
トントン、と階段を上る音だけが響く。
「こちらへ」
入ったのは僕と翔太が泊まっている部屋。なんでこっちなんだろう……
何やら雰囲気が重いことを悟った店員さんが、お茶を出してそそくさともどっていった。ごめんなさい。
「では、説明させていただきます」
そうして相模川さんが説明を始めようとした時。
「いえ、それは私から」
と、白撫さんが言葉を遮り、口を開いた。
説明したのは、僕の成績が壊滅的だったため、白撫さんが教務委員として僕に勉強を教えるようになったこと、翔太の提案で、ゴールデンウィークの間ここで勉強しているということ。
「……そうか」
優純さんは腕を組んで目を瞑ったあと––––さらっと暴言を吐いてきた。
「つまりまどか。お前は自分のことを棚に上げて下の者に拙い教鞭を振るい、さも自分が頭脳明晰であるかのように振る舞っているわけだな。それがどれだけ無様であるかを自覚しなさい」
その言葉を聞いた白撫さんは、下を向いて押し黙っていた。
こいつ、いくら親だからって流石に言い過ぎだろ。
「すみま––––」
白撫さんが謝ろうとしたところで、言葉が遮られた。いや、白撫さんが謝るところじゃないだろうに。
「まだだ。なんだそのおちゃらけた格好は。そんなものはすぐに捨てろ。私の顔に泥を塗るつもりか。
この前、休日は脇目も振らずに勉学に励めと言っただろうこのろくでなしが!」
優純さんは、はぁ––––とため息を吐いた。
「全く––––出来の悪い娘を持ったものだ」
その一言で、僕はキレた。
まあ、自分よりも上で、かつ親しくなって尊敬の念を抱き始めている人が侮辱されたら誰だってキレるさ。
「なんなんだよあんた」
一言言ったらもう、僕の口は止まることを知らなかった。
「さっきから無様だの出来が悪いだの‼︎テメエが見てねえだけだろうが‼︎白撫さんは頑張ってんだぞ‼︎別に嘘でもなんでもない、正真正銘の頭脳明晰だ‼︎」
「……君こそなんなんだ」
「ああ僕か‼︎さっき説明で出てきた、白撫さんに勉強教えてもらってるヤツだよ‼︎あんたの言う下の者ってヤツだね‼︎」
それから数十分ほど、僕と優純の間で言葉の応酬が続いた時。
「……いい加減にしなさい。もういいかね。私は君の様な低脳と––––間違えた、訂正しよう。君の様なサルほどの知能も持たない者にかけられる時間はないのだ。まあ、わからないか。学力も同じようにサルより低いのだろうな」
ここで、僕の怒りが限界を超えた。短期間ではあるけど、ほんの数週間ほどではあるけど、白撫さんと––––ついでに翔太とお姉さんと相模川さんと––––培ってきた学力を馬鹿にされたのが嫌だったのかもしれない。よくわからないけど、とにかく腹が立った。
「……っざけんなよ‼︎上等だ、東大の入試問題でも世界トップの試験でもメンサ入会テストでもなんでも持ってきやがれ‼︎全部まとめて返り討ちにしてやる‼︎」
僕がそこまでいったところで、優純が再び口を開いた。
「面白い。そこまで言うなら……そうだな、全国模試で一位でもとってもらおうか」
次の模試は七月のはずだ。
「そうだな……今月の二十日……つまり、十七日後に模試をしよう」
…………何言ってんだこいつ。
「ああ、まだいっていなかったな。私は、株式会社アイドアナライズの社長、白撫 優純だ」
エイドアナライズ……………………
「「「え」」」
僕、翔太、お姉さんの声が重なった。
「私が掛け合えば、それくらいのことはできる」
あーこれ、もしかして喧嘩売る相手間違えたヤツ?はっはっは…………
冷静になると、ヤバイね。
「どうした、怖気付いたか?」
「…………」
僕は、校長室で僕が補習を受けることを伝えられた時の様に、言った。
「やってやりますよ」
「じゃあ、私は手続きがあるのでな、今日はこれで失礼するよ……あぁそうだ、あそこまで啖呵を切ったんだ、もし一位が取れなければ……覚悟はしておきなさい」
そう言うと、優純は部屋を出ていった。
「ウチのがすまないね。じゃあ、私も失礼するよ」
お婆さんは、そう言うと白撫さんの肩をトンと叩いた。
ビクッッ!
「ああ、ごめんね」
「び っ く り さ せ て し まっ た ね」
お婆さんは、黒服の人と一緒に部屋を出ていった。
なんだったんだろう、今の白撫さんの驚きようは。
そうして、全員が出ていったあと、いつの間にか立ち上がっていた僕は、ぺたりと床に座り込んだ。
「ふぅ……」
「…………みなおしたぜ、良夜!」
そう言った翔太が、僕の背中を強く叩いた。
「でもよ……」
「うん……」
「「バカだ」」
僕と翔太の声が重なった。
さてと。
「えーっと、白撫さん、大丈夫?」
「え、ええ…………」
白撫さんの視線が少し泳いだ。それを見かねた翔太のお姉さんが白撫さんの隣に座って、背中をとんとんと叩いた。
「で、相模川さん」
僕は、机を挟んで左側に座った相模川さんの方を向いて座り直す。
「………………………………はい」
かなり長い沈黙の後、相模川さんは敬語で返事をした。
「どういうことなのか、最初から教えてもらいたいんだけど」
「それはできません」
僕が聞くと、彼女ははっきりと拒絶した。
「それは……なんで?」
「私は契約して雇われている身ですから」
そこで、僕はふと気になったことを聞いた。
「そういえば、相模川さんは白撫さんとどういう関係なの?」
「私は、白撫 優純様に雇われており、お嬢様––––白撫 まどか様の身の安全を守るように言いつけられています」
あー、なるほど。ってことは、この旅行(?)に相模川さんがついてきてたのも、ちゃんと目的があったわけだ。
「話を戻しますと、契約内容に『家族内の問題は口外してはいけない』と記されているんです」
「そっか……そういうことなら、しょうがないね」
そう、諦めようと思ったら。
「私から話します」
と、白撫さんが口を開いた。
「と、いっても、何から話したらいいのでしょうか……」
僕としては、最初から最後まで話して欲しいものだけど。
「まず、私は白撫 優純の娘で、現段階では株式会社エイドアナライズの次期社長……らしいです」
白撫さんの口調は段々と弱くなっていった。
そしてちょっと待って!……エイドアナライズ?……エイド……アナライズ…………おい!
「エイドアナライズ!?」
「え、ええ」
説明しよう。エイドアナライズとは。
幼児が使うようなおむつから、大人が着るような革ジャンまで。
最先端のゲーム機、ゲームソフトから生鮮食品まで。
道路整備から、自動車の生産まで。
電化製品から、数多のデザイン、日用品まで。
なんかもう、いろんなことを手掛けすぎて何がなんだかわからない会社だ。手掛けるジャンルはおそらく日本で一番、いや、世界でも一番広いんじゃないかと思うほど大きい会社。
「白撫さんが?エイドアナライズの?次期社長?社長令嬢ってこと?」
「……そうなります」
………………へー。ふーん。ほぉー?
「…………こわっ」
「なんでですか!?」
いや、冷静に考えてみて?大手株式会社のご令嬢様が毎晩僕の部屋で勉強教えてたわけですよ?いやー、手出さなくてよかった。出してたら今頃どーなってたか…………出せなかっただけだろって?ああそうだよ悪かったねヘタレで!
一瞬吹き飛んだ思考を引っ張って戻してくる。
「いや……ごめん、なんでもないよ。でも、らしいって言うのも、なんで?」
「…………前に社員の方が話していたのを聞いたのですが、父はこう言っていたらしいです。『出来損ないの娘は捨てて、養子を取る』と」
––––っ!あいつ!
「……大丈夫ですよ、一ノ瀬君」
「っ!何が、大丈夫なのさ!」
「大丈夫、です」
「………………わかった」
強く訴える白撫さんの瞳を見て、僕はそれ以上何言えなかった。実際、彼女にとって何が大丈夫なのか、彼女が何に対して大丈夫だと言ったのかはわからない。
「あ、後ひとつ。お婆さんは何者なの?なんか、良き理解者みたいな感じだったけど」
僕がそのことを聞いた時、あからさまに白撫さんと相模川さんの表情が曇った。
「それは……私からも言えません」
何か事情があるんだろうか。
「そっか、わかった。ありがとう」
「で……だ」
そこまで話したところで、話を聞いていた翔太が口を開いた。
「実際、どうすんだ?模試で一位とか白撫さんはとったことあるのか?」
「ええ、中学の時に一度だけ」
わーおハイスペック!…………いや待て!?
「白撫さんも模試受ける……んだよね?」
「ええ、そうなると思い……あ」
「…………あぁ〜」
「あーあ」
白撫さんも模試を受ける。つまり、今回は白撫さんも敵というわけだ。どーしろっちゅーねん。
「じゃあ、俺たちが自分の勉強そっちのけで良夜に教えればいいわけだ」
まあ、そういうことになる……そうだ。
「あのさ、相模川さんの事情は、知った…………というか、知っちゃったわけでさ。いつものふわふわした方とは真逆の顔があったわけだよね。じゃあ、いつもと逆で頭もめちゃくちゃいいんじゃない!!?」
さすが僕。天才である。
「…………っふぅ……」
相模川さんは、僕らから視線をずらして虚空を見つめた。
「え?」
「…………すぅー……」
「あの、相模川さん!?」
「…………未亜ちゃん、なんのことかわっかんなーい!」
こっ、こいつっ!
とまあ、そのテンションのおかげでいつもの空気に戻った僕らは、おいどーすんだよと、あーだこーだと話し合いを始めたのだった。
「…………ねえ、私は?わたしはー?」
状況に取り残されたお姉さんに気付くのは、それから二時間ほど後のことだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
こんばんは、村人Bだべ。
ベイブレードが欲しいです。ジャッジメントジョーカーとかバレット(単品)とか欲しいです。
んなことは置いときまして。
まさかまさかの休日カキカキですよ。5000字もカキカキしましたよ。
ってことで、頑張ったんですよ。褒めてください。もう眠いです。
あ、先に言っておきましょう(最後だけど)
明日からテスト週間に入りやがります。
三連休を挟むテスト週間です。やべーですね。害悪ですね。
なので、もしかしたら来週更新ないかもしれません。(その時は課題に追われてると思うので応援お願いしますね)
てことで、村人Bでした。
ばいばいヾ(・ω・`)




