表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/169

二十三話 白撫さんとお出かけー僕の過去

 中学の時の僕は、なんだってできた。勉強だってテストでは毎回満点一位、体育大会だって、三つの種目に出て一位。美術ではコンクールに出したいと言われたし、国語の感想文では、それを読んだ先生が泣き出したくらいだ。これは全部、中学入学時から。


 で……さ。まず、中学一年の秋頃から、自分で性格が変わったなぁ、って思う時があって。なんていうか、傲慢になったっていうのかな。


 それが原因なんだろうけど、友達も減って、クラスメイトからも無視されるようになったんだ。


 でも、僕はそれに気づかなくて、それまでと変わらず振舞ってたんだ。


 で、二年の夏頃かな。すごく可愛くて、いわゆるマドンナって子がいたんだ。僕はその子に告白したんだけど、まあ、傲慢な僕だ。そりゃあ振られるよね。まあ……僕の告白の仕方が悪かったんだろうけど。


 ……ここからが僕のトラウマの中心的な出来事なんだけど……


 そのマドンナは、女子のカーストトップだったらしくて。僕に告白されたことを女子のみんなに広めたみたいなんだ。それから、女子には嫌味を言われるようになって。その雰囲気から、男子にもいじめられるようになってさ。


 でも、その時の僕は口喧嘩も強かったし、今と違って力もあったから、何をされても負けることはなかった。


 女子に嫌味を言われては、正論を返す。それで泣き出した女子を見て、男子が正義感で割り込んでくる。でも、その男子にも口喧嘩で負けることはなかった。そうなると、男子ってのは手を出してくる。だから僕も正当防衛をする。その喧嘩を見た先生が僕らを呼び出して、叱る。でも、僕は正論を先生に突きつける。すると、僕だけは叱られなかった。


 そこから、僕の孤立は前よりも加速していってさ。


 二年の終わりくらいかな。クラスの奴らと大喧嘩になって。その喧嘩は、今までとは全く違うものだったよ。もう、クラス全体が敵だった。最初は口喧嘩だったんだけど、声量は圧倒的に僕の方が小さかったから、どうにもならなかったよね。それで、大きい音を出すために、僕は近くにあった机をもう一つの机に向かって投げたんだ。そしたら、沢山の女子が泣き出した。それを見て、やっぱり男子が殴りかかってくるよね。で、僕は全員返り討ちにしたわけなんだけどさ。その次に、女子が殴りかかってきて、僕はやり返したんだよ。そうしたら、女子全員が僕に向かってきたから、反撃して、泣かせたよ。僕ってほんと最低なやつだよね。当然だけど、その事件はすぐに広まった。


 それに便乗した誰かが、僕に関する悪い噂を流したんだ。それはすぐに広まっていって、生徒だけでなく先生にまで伝わった。


 そこまでいくと、誰であってもその噂を否定することはできないわけであって。


 四人くらいいた僕の友達ーー幼稚園からの付き合いだったんだけど、そいつらにも距離を取られて。蔑まれて。


 その目は、本当に怖かった。だから僕は、どうしてそんな目をするんだって、どうして離れていくんだって、聞いたよ。そしたら、なんていったと思う?


「お前がクズだから」


 だって。


 どういうことかわからなくて、どうしたらいいかもわからなくなって、僕はついに自分から暴力を振るったよ。それも、一方的に。


 そのあと正気に戻って、僕は……なんてことをしてしまったんだろうって。


 それから、僕は学校に行かなくなったよ。いわゆる、不登校ってやつだ。


 まあ、ここまでが僕のトラウマだよ。



 白撫さんの方を見ると、少し俯いて、真っ暗な表情を浮かべていた。


「はは、そんな表情かおしないでよ。どう考えたって僕が悪いだけなんだから」


 そう、僕が悪いだけだから、何も言えなくなっているんだろう。


「……ごめんなさい」


 どうして、謝るんだろう。


「……こんな暗い話だけしてご飯にするのはちょっと嫌だよね。もう一つ、話してもいい?」


 白撫さんは、こくっ、と小さく頷いた。



 そこから、性格はどんどん暗くなっていったよ。今の何倍も暗かった。


 でも、さ。そんな僕にも家族や友達ってのがいたみたいなんだ。


 母さんは、不登校になったばかりの時でも理解してくれた。


 友達は中学一年から同じクラスだったんだけど、僕に対する嫌がらせには参加してなかった。二年でも。


 それどころか、体調は大丈夫かって、勉強見てやるって……毎日毎日来てくれたよ。


 それが、翔太。


 それまでは別に仲がいいってわけじゃなかったけど、優しいやつだから、僕を気にかけてくれたんだろうね。


 それからずっと、母さんと翔太だけが光で、その二人といることだけが楽しみだった。


 それが、翔太も同じだったのかはわからないけど……あいつは、風邪をひいて熱を出した時でも来てくれたよ。でも、やっぱり病人だから、僕はすぐにあいつを家まで送っていった。母さんは、僕は外にでちゃいけないと思ってたみたいだけど、僕は友達を送って行きたいって伝えたら、納得してくれたよ。その時外に出たのが、引きこもってから初めてだったね。


 それからまた、少しずつ外に出るようになって。私立入試までには、登校できるようになったよ。


 それでも、過去のことを覚えてる人は少なからずいたし、僕の方も……反動って言うのかな。性格が変わって、翔太と話す時以外、口を開いてなかったと思う。


 そんな僕を見て、誰も過去のことを掘り返す奴はいなかった。まあ、近づこうとする奴もいなかったけどね。


 それからは、翔太と同じ高校に行けるように……頑張って、勉強した。僕には翔太しかいなかったからね。それが、僕が才王高校に通っている理由。


 で、高校に入ってから僕が勉強をしなかった理由なんだけど……単純に、また同じことを繰り返しそうで怖かったから。脳が拒否反応を起こしてるのかもね、はは。


 でも、さ。白撫さんと一緒に勉強してる時は、不思議と怖いなんて感じない。翔太に勉強を教えてもらってた時と、同じ感覚だ。



 俯いて喋っていた僕だけど、もう一度白撫さんの方を向く。


 ……僕が何を言いたいのか、あまりわかっていないようだ。僕も、うまく伝えられていないんだろうな。


「えーっと、その、結局何が言いたいか、って言うとさ。僕がどれだけ宿題をしなくても、どれだけ授業をサボっても、テストで悪い点を取っても、気にかけてくれた白撫さんは、僕の三つ目の光……なんだと思う」


 たった一ヶ月と一週間だけ、その中でも、しっかりと関係を持ったのは一週間だけ、だけど。


 不思議と安心できる。だから、ここまで話せた……誰かの暖かさに似てる……そうだ、母さんと、翔太に似てるんだ。


 なら、絶対これからお世話になる。だったら、これだけはいっておかないと。


「僕は、白撫さんといると、翔太や母さんといる時みたいに安心できる。きっと、過去を怖がらずに勉強できると思う。頑張れると思う。だから……」


 僕、たまに義理堅いって言われるんだよね。これが、きっとそう言うことなんだ。


「これから、よろしくお願いします」


 これだけは、言いたかった。


「ーーッ……はい、こちらこそよろしくお願いします。勉強、一緒に頑張りましょうね」


 その笑顔は、明るかった。この前初めて見た、あの笑顔のように。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


暗いのは終わりです。ご飯食べましょっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ