二十三話 白撫さんとお出かけー僕の過去
中学の時の僕は、なんだってできた。勉強だってテストでは毎回満点一位、体育大会だって、三つの種目に出て一位。美術ではコンクールに出したいと言われたし、国語の感想文では、それを読んだ先生が泣き出したくらいだ。これは全部、中学入学時から。
で……さ。まず、中学一年の秋頃から、自分で性格が変わったなぁ、って思う時があって。なんていうか、傲慢になったっていうのかな。
それが原因なんだろうけど、友達も減って、クラスメイトからも無視されるようになったんだ。
でも、僕はそれに気づかなくて、それまでと変わらず振舞ってたんだ。
で、二年の夏頃かな。すごく可愛くて、いわゆるマドンナって子がいたんだ。僕はその子に告白したんだけど、まあ、傲慢な僕だ。そりゃあ振られるよね。まあ……僕の告白の仕方が悪かったんだろうけど。
……ここからが僕のトラウマの中心的な出来事なんだけど……
そのマドンナは、女子のカーストトップだったらしくて。僕に告白されたことを女子のみんなに広めたみたいなんだ。それから、女子には嫌味を言われるようになって。その雰囲気から、男子にもいじめられるようになってさ。
でも、その時の僕は口喧嘩も強かったし、今と違って力もあったから、何をされても負けることはなかった。
女子に嫌味を言われては、正論を返す。それで泣き出した女子を見て、男子が正義感で割り込んでくる。でも、その男子にも口喧嘩で負けることはなかった。そうなると、男子ってのは手を出してくる。だから僕も正当防衛をする。その喧嘩を見た先生が僕らを呼び出して、叱る。でも、僕は正論を先生に突きつける。すると、僕だけは叱られなかった。
そこから、僕の孤立は前よりも加速していってさ。
二年の終わりくらいかな。クラスの奴らと大喧嘩になって。その喧嘩は、今までとは全く違うものだったよ。もう、クラス全体が敵だった。最初は口喧嘩だったんだけど、声量は圧倒的に僕の方が小さかったから、どうにもならなかったよね。それで、大きい音を出すために、僕は近くにあった机をもう一つの机に向かって投げたんだ。そしたら、沢山の女子が泣き出した。それを見て、やっぱり男子が殴りかかってくるよね。で、僕は全員返り討ちにしたわけなんだけどさ。その次に、女子が殴りかかってきて、僕はやり返したんだよ。そうしたら、女子全員が僕に向かってきたから、反撃して、泣かせたよ。僕ってほんと最低なやつだよね。当然だけど、その事件はすぐに広まった。
それに便乗した誰かが、僕に関する悪い噂を流したんだ。それはすぐに広まっていって、生徒だけでなく先生にまで伝わった。
そこまでいくと、誰であってもその噂を否定することはできないわけであって。
四人くらいいた僕の友達ーー幼稚園からの付き合いだったんだけど、そいつらにも距離を取られて。蔑まれて。
その目は、本当に怖かった。だから僕は、どうしてそんな目をするんだって、どうして離れていくんだって、聞いたよ。そしたら、なんていったと思う?
「お前がクズだから」
だって。
どういうことかわからなくて、どうしたらいいかもわからなくなって、僕はついに自分から暴力を振るったよ。それも、一方的に。
そのあと正気に戻って、僕は……なんてことをしてしまったんだろうって。
それから、僕は学校に行かなくなったよ。いわゆる、不登校ってやつだ。
まあ、ここまでが僕のトラウマだよ。
◆
白撫さんの方を見ると、少し俯いて、真っ暗な表情を浮かべていた。
「はは、そんな表情しないでよ。どう考えたって僕が悪いだけなんだから」
そう、僕が悪いだけだから、何も言えなくなっているんだろう。
「……ごめんなさい」
どうして、謝るんだろう。
「……こんな暗い話だけしてご飯にするのはちょっと嫌だよね。もう一つ、話してもいい?」
白撫さんは、こくっ、と小さく頷いた。
◆
そこから、性格はどんどん暗くなっていったよ。今の何倍も暗かった。
でも、さ。そんな僕にも家族や友達ってのがいたみたいなんだ。
母さんは、不登校になったばかりの時でも理解してくれた。
友達は中学一年から同じクラスだったんだけど、僕に対する嫌がらせには参加してなかった。二年でも。
それどころか、体調は大丈夫かって、勉強見てやるって……毎日毎日来てくれたよ。
それが、翔太。
それまでは別に仲がいいってわけじゃなかったけど、優しいやつだから、僕を気にかけてくれたんだろうね。
それからずっと、母さんと翔太だけが光で、その二人といることだけが楽しみだった。
それが、翔太も同じだったのかはわからないけど……あいつは、風邪をひいて熱を出した時でも来てくれたよ。でも、やっぱり病人だから、僕はすぐにあいつを家まで送っていった。母さんは、僕は外にでちゃいけないと思ってたみたいだけど、僕は友達を送って行きたいって伝えたら、納得してくれたよ。その時外に出たのが、引きこもってから初めてだったね。
それからまた、少しずつ外に出るようになって。私立入試までには、登校できるようになったよ。
それでも、過去のことを覚えてる人は少なからずいたし、僕の方も……反動って言うのかな。性格が変わって、翔太と話す時以外、口を開いてなかったと思う。
そんな僕を見て、誰も過去のことを掘り返す奴はいなかった。まあ、近づこうとする奴もいなかったけどね。
それからは、翔太と同じ高校に行けるように……頑張って、勉強した。僕には翔太しかいなかったからね。それが、僕が才王高校に通っている理由。
で、高校に入ってから僕が勉強をしなかった理由なんだけど……単純に、また同じことを繰り返しそうで怖かったから。脳が拒否反応を起こしてるのかもね、はは。
でも、さ。白撫さんと一緒に勉強してる時は、不思議と怖いなんて感じない。翔太に勉強を教えてもらってた時と、同じ感覚だ。
◆
俯いて喋っていた僕だけど、もう一度白撫さんの方を向く。
……僕が何を言いたいのか、あまりわかっていないようだ。僕も、うまく伝えられていないんだろうな。
「えーっと、その、結局何が言いたいか、って言うとさ。僕がどれだけ宿題をしなくても、どれだけ授業をサボっても、テストで悪い点を取っても、気にかけてくれた白撫さんは、僕の三つ目の光……なんだと思う」
たった一ヶ月と一週間だけ、その中でも、しっかりと関係を持ったのは一週間だけ、だけど。
不思議と安心できる。だから、ここまで話せた……誰かの暖かさに似てる……そうだ、母さんと、翔太に似てるんだ。
なら、絶対これからお世話になる。だったら、これだけはいっておかないと。
「僕は、白撫さんといると、翔太や母さんといる時みたいに安心できる。きっと、過去を怖がらずに勉強できると思う。頑張れると思う。だから……」
僕、たまに義理堅いって言われるんだよね。これが、きっとそう言うことなんだ。
「これから、よろしくお願いします」
これだけは、言いたかった。
「ーーッ……はい、こちらこそよろしくお願いします。勉強、一緒に頑張りましょうね」
その笑顔は、明るかった。この前初めて見た、あの笑顔のように。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
暗いのは終わりです。ご飯食べましょっ!




