二十一話 白撫さんとお出かけー②
今日はいつもと少し違いますが、ご了承ください。
白撫さんがトイレに行っているので、僕は今書店の前で待っている。待ってるんだけどさ。なんか、僕から見て右手に三人のこわ〜いお兄さん方がいらっしゃるんですよ。それで、僕の方をチラチラ見てんですよ。つまり、怖いわけですよ。白撫さん、早く帰ってきて。
僕はお兄さん方からの視線から逃げるために、手に持っている袋の中を覗く。入っているのは、沢山の教材。日本史や世界史が問題集一冊ずつ、数学は問題集が二冊。他には……と、数えようとしたところでちょっと気持ち悪くなってきたので袋を閉じる。こんなの、見たくもないや。
そこまで考えると、白撫さんが歩いてくるのが見えた。僕と彼女の距離に反比例して、いや、下に凸の二次関数のグラフのような具合でお兄さん方の視線に憎悪がこもって僕に突き刺さる。このままだと命の危険があるからさっさとここを離れたいものだ。
「すみません、お待たせしました」
白撫さんが僕の近くまで来たところで、僕は素早く歩き出す。
「ううん、大丈夫だよ。じゃ、行こうか」
そうじゃないと、僕死んじゃうからね。なんだか三つの足音がこっちに迫ってきてる気がするのは勘違いだろ。きっとそうだ。
僕は白撫さんの手を掴んで歩き出……す、その一瞬前!
「…………?」
チャラチャラしたお兄さん方三人が僕らの前に立ちはだかった!
それを見た白撫さんは、頭の上にハテナマークを浮かべた。
◆
さてさて始まりました第32752回美少女バーサスチンピラチャンピオンシップ!
ここからは天の声が実況をお届けいたします!
まず先手を取ったのはチンピラ三人衆!初手、二人が白撫と一ノ瀬を隔てるように壁を作り、もう一人が白撫の左側に立って三人で白撫を囲む!
「ねぇ君可愛いね、俺らと遊ばない?」
次に繰り出したのは『ナンパの常套句』!これに対し白撫は……
「すみません、この後勉強するので。行きましょう、一ノ瀬君」
バッサリと切り捨てていくっ!
そして一ノ瀬の手を掴んだ白撫は歩き出そうとする!
だかしかし、これで退くチンピラどもではありません!
「いいじゃんいいじゃん、今日は休日だぜ?こんな日まで勉強することないって!」
これまたお似合いの台詞で追い討ちをかけます!……おおっと?白撫のこめかみに青筋が浮かんだぁ!
「休日だから勉強するのです。他がやっていないときにもやらなければどこで差をつけるのですか。少しは考えなさい。あ、ごめんなさい。どうせあなたがたには考える脳なんてないですよね。その髪色と一緒で」
そ、その容姿からはとても想像できない毒舌で反撃する白撫!さあ、この返しに対してチンピラは!
「き、君、なかなかキツイこと言うね〜。でも、そんな子もタイプだよ?」
なんだこの台詞は!クサすぎるっ!……さて、ここで先ほどからフリーズしている一ノ瀬の脳内を見てみましょう。
(て、てて、てぇ……白撫さんと手繋いでる……)
これはこれは状況に合わない思考だ!何やってんだバカヤロー!と叱咤したいところですが、情状酌量のよちはあります。今まで異性と出かけたことなんてなかった一ノ瀬が初のお出かけで学校一の美少女にずっと手を握られているのですからね。
さあ、視点を戻しまして……おおっと?状況が一変していますね。先ほどから話しているチンピラが白撫の腕を掴んでいる!そして、引っ張った!それにより一ノ瀬と白撫の手が離れ、一ノ瀬が我に帰った!
それでは、今回の実況はここまでといたしましょう。一ノ瀬が何やらワナワナしてますからね。では、お相手は天の声でした!
◆
…………はっ!危ない危ない。つい、白撫さんの手に気を取られ……
その白撫さんの方を見ると、お兄さんが白撫さんの手を強く引っ張っている。た、助けないと。
「あの、やめてください」
二人のお兄さんの後ろを通って白撫さんの方へ回り、手を掴んでいるお兄さんにそう言う。
「あぁ?お前は黙ってろよ」
は?何こいつ。
「いや、嫌がってるじゃないですか。だから」
僕がそう言ってチンピラの手を離そうとしてチンピラの腕を掴むと、いきなり引きよせられ、腹に膝蹴りを入れられた。
「ぐうっ……」
いってえ……
「よっ」
「ぐっ」
腹をもう一度蹴られ、倒れこむ。
今チラッと見えたんだけど、周りには人だかりができていて、何人かスマホで撮影している奴までいる。それだけじゃなく、「なにあいつ、彼氏のくせに弱……」とか聞こえてきた。……うぜぇ。
腹の痛みに我慢しながら立ち上がろうとすると、「きゃっ」という白撫さんの声が聞こえた。
見ると、白撫さんは一人に肩を持たれている。
……なんだよ、結局、暴力でしか解決できないのかよ。……いや、もう一回話そう。
「あ、あの」
僕が立ち上がって声を出すと、チンピラはうざそうに「うわ、まだいんの」と、一言。あぁ、うざい。
「やめてあげてくださいよ。周りだって見てます」
そう、説得を試みたけど。
「いやいや、俺らなんも悪いことしてないでしょ。君だって俺と遊びたいよね〜?」
チンピラ……バカAが白撫さんに聞く。けど、彼女は震えたまま、黙っている。
「だからさ、お前、もうちょい沈んでろよ」
バカBとCが僕に一発ずつ殴ってきた。
「ぐうっ、がっ」
くっそ、いった……
「じゃあなー」
四人の足音が遠ざかっていく。
ずるいだろ、そっちばかり暴力振るって。こっちにはトラウマがあるってのに。
そして、周りからもやっぱり声が聞こえてくる。「うわ、マジ女々し」とか、「ほんと、男としてないわ」とか。あぁもう、うざいうざい!
みると、白撫さんはもう十数メートル先。
……もう、知らねえ。どうなっても。
僕はすくっと立ち上がり、四人の方へ歩いて行く。
「あ?」と、一番後ろにいるバカCが僕に気づく。その顔へ、左ストレートを一撃。それから、倒れこむ前に右脚で横腹を蹴り、腹を左脚で蹴る。
「ぐぇっ」
そこまでやると、そいつは倒れた。
「な、なんだ!」
次に声を上げたのは、バカB。喋んなよクソが。
ちょうどこっちを向いたところを飛び膝蹴りで鳩尾に一発入れ、そのまま倒れたのでまたがって顔面を両手で四発くらい。
鼻血が出てきたところでやめてバカAの方を見る。
「な、なんだよおま」
喋んなって、言ったろうが。
顔に左ストレートをぶちこみ、浮いたところで腹を蹴る。すると、いい具合に飛んでいった。
そこから近づいて右手で髪の毛を掴み、持ち上げてからパッと話して腹に左ストレートを打ち込む。
そいつをぽいっと放ってやって、ふと周りをみると、床に座り込む白撫さんが見えた。
「いちの、せくん……」
その声に、僕は我に帰った。そしてその後、目の前が真っ暗になった。
「ん……ん……んんんん!!??」
何事!?
僕が今目にしたのは、知らない天井、というやつ。よくラノベとかであるあれだ。
「一ノ瀬君!」
次に、白撫さんの声が聞こえた。
「? 白撫さーーっ」
一周さっきの光景がフラッシュバックする。
「だ、大丈夫ですか!?顔が青いです!」
「あ、あぁ、うん……大丈夫」
嘘。ほんとは、気持ち悪くて吐きそうだ……前のことを思い出してしまった。
「で、さ……ここ、どこ?」
「デンキの医務室です。あの後、一ノ瀬君は倒れてしまって、後からきた警備員さんに連れられてここに来ました。あの人たちも……そこに」
白撫さんが指をさした方を見ると、包帯やら湿布を貼った男性三人がベッドに寝かされていた。
「……あ、あぁ」
やっぱり、僕は酷いやつだ。あそこまでやることはないだろう。
それからほんの少し経つと、おそらく警官であろう方がふたり来た。
「あ、起きていましたか。ちょっとお話を……あれ?良夜くん?」
「ん?あ……ノリさん」
白撫さんが首を傾げる。そうだ、説明しないと。
「えっと、白撫さん。この人はノリさんって言って、近くの交番に勤務してる人なんだ。前はたまに話しててさ、友達なんだよ」
「なるほど……一ノ瀬君にはそんな友達もいるんですね……」
「すごい……」と、白撫さんは目を丸くしていた。いや別にそんなすごくないと思うけど。
次に、ノリさんが柔らかい笑顔を浮かべて「よろしくね」と言った。
「で、良夜くん。どこでこんなに可愛らしいお嬢さんと知り合ったんだい?」
「いや今の流れは完全にさっきのことについて話す流れだったでしょうに!」
知らんけども。自分で言っといてなんだけどね。
「いやぁ、そうかそうか。でも、大丈夫だよ。映像を見せてもらったからね。とはいえ、君も少しやりすぎだ。今回は両方とも厳重注意ということで済ませておくけど、次はないと思って?」
うう、これが警官の圧力……
「は、はい」
「じゃあ、気分が良くなったら帰って大丈夫だよ。じゃ」
そう言うと、ノリさんともう一人の警官は歩いていった。
「さて……」
「ちょ、ちょっと一ノ瀬君!」
僕がベッドから立ち上がろうとすると、それを白撫さんが止めた。
「まだ顔色が悪いです!寝ていた方が……」
「あー……大丈夫だよ。ちょっと嫌なことを思い出しただけだから」
「そ、そうですか」
白撫さんはまだ心配なようだ。まあ、気分が悪いのは事実だけど、だったら家で休んでた方がいいし、それにお腹すいたしね。
「そうだ白撫さん、ご飯食べようよ」
「いいですね。時間も十二時前ですし」
と、いうことで僕らはフードコートへ向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
多分、次回はいつもより重いです。三話くらいしたら戻ってると思います。よろしくです。




