第十四話 テンション高いね白撫さん
「翔太ー、食堂いこー」
「おう」
午前の授業が終わり、翔太と二人で食堂へ向かう。
ちなみに、二時間目からは先生に期待の眼差しを向けられていたが、勉強しているわけないので当然答えられなかったよ。とはいえ、今日はしっかりノートを取ることができたから、進歩はした。やっぱり、みんな驚いてたし。
……………………
僕は、気配を感じて右を見ようとした。が、なんだか嫌な予感がして意識を無理矢理翔太へむける。
「ね、ねえ翔太」
「なんだ、りょ…………」
翔太は一瞬こっちへ顔を向けたが、すぐに前に戻した。
「なんだ?良夜」
「今日は何食べる?」
話しかけたのはいいものの、特に話題がなかったのでこれで乗り切る。
「そ、そうだな…………」
「あの」
「やっぱり生姜焼き定食かな」
「あのー」
「奇遇だね、僕もそうしようと思ってたんだ」
「…………じーーーーーー」
やめ、やめ、やめれっ!そんなキラキラした瞳を僕に向けないでくれっ!
右からの視線に耐え切れず、僕は走り出した。
「うおおおお!早く行かないと行列になっちゃうよねーー!」
「そーだなぁぁぁ!!」
ふっ、どうだこの高速移動!これには追いつけまい!
「じーーーー。無視しないでください」
走ってもなお変わらない位置から聞こえてくるこえに、僕はたまらず右を向いた。
「うぇっ!?」
僕は走りながら素っ頓狂な声を上げる。
「あ、もう食堂ですよ」
「あ、ほんとだ……って、ちがぁう!」
そうつっこみながら僕ら3人は律儀に列に並ぶ。
「ど、どうしたのかな?白撫さん」
そう、さっきから僕の右に位置し、延々とキラキラした瞳をこっちに向けてきたのは、白撫さんだ。
「はい、私は今感激してるんです!」
白撫さんは、少し前のめりになって僕の手をぎゅっと握った。す、少し痛いです。そして、周りからの視線も痛いです。
「昨日勉強したとはいえ、全て答えられてしまうなんて!いつ予習もしたんですか!やっぱりやればできるじゃないですか!」
なんっだこの白撫さん!?異様にテンションが高いっ!
「あはは、ありがとう……っていうか、どうしたの?なんか今日はテンションが高いね……」
僕は乾いた笑いを浮かべながら列の間をを詰める。
「それそうでしょう!だって、あの最下位だった一ノ瀬君が1日であんなに覚えられるなんて!」
「そ、そうか、わかったから一旦落ち着こうか。ほら、周り見て?」
その僕の言葉に、今自分が置かれている状況に気づいた白撫さんは僕の手を握っていた手を離し、顔を真っ赤にして俯いた。
「しゅ、しゅみません……」
「二人とも、前詰めようぜ」
一歩離れたところで僕らのやりとりを見ていた翔太が言った。
「あ、うん」
っていうか、何食べよう。まあ、生姜焼きでいいかな。
ということで、僕ら3人は生姜焼き定食を頼んで席ーー僕の向かいに翔太、左隣に白撫さんで、入り口から一番遠い隅の所ーーに着いた。あ、白撫さんも生姜焼き定食にしたんだね。
「「「いただきます」」」
「ねえ白撫さん」
「はい?」
数口食べたところで、僕は気になったことを聞いた。
「なんで僕が答えられただけであんなに喜んでたの?」
最下位が答えたんだから、授業の質を高めたい白撫さんが喜ぶのは分からなくもないけど、そこまでのことじゃないだろう。
「私は教務委員ですからね。教えている生徒の成績が上がるというのは私の功績にもなるんです」
「なるほど、そういうことか」
情けは人の為ならずってやつだ。
それにしても、自分の功績になるのってそんなに嬉しいのか。白撫さんは既に全科目満点取ってるんだけどなぁ。目標はそこまで高いものなんだ。
「良夜よりも色々考えて生きてるんだなぁ」
「おい待て翔太、今のは聞き捨てならない」
僕は箸を翔太に向ける。
「やめろ行儀悪い」
「あ、ごめん」
「お、そこは素直なのな」
だって、行儀悪いのはダメじゃん?
「まあ、僕が素直なのはいいんだよ」
「そうだったな。で、何を考えて生きてるんだ?」
僕が素直なのがどうでもいいみたいに流されてちょっと癪なのは気にせず、答えようとする……が。
「…………」
ま、まずい!何も出てこない!これじゃあ本当に僕が何も考えずに生きてるみたいじゃないか!
「大丈夫ですよ、一ノ瀬君。何も考えてない人なんてそこら中にいますから」
白撫さんが僕を気遣ってくれた……いや違う!くれたじゃない!それ、フォローになってない!
と、そんなバカな会話を楽しみつつ、僕らはお昼ご飯を食べ終えた。まあ、周りからの視線が相変わらず痛かったけど。僕は若干乾燥肌なんだから(そんなことないけど)チクチクするのはやめてほしいねっ!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
なぜ白撫さんはここまで功績を求めるのでしょうね……僕にもわかりません(作者ですけど)
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ついったです。
@murabitoB_M