鉱石ラジオ
注)メリーバッドENDです。
最近、再び人類月面移住計画が取り沙汰されてる。
そのくらい結構発達してるのに、季節はどうにもならないのか、お盆となると夜になってもやっぱり蒸し暑い。
風も凪いで、アブラゼミが煩いばかり。
でも仕事場が空調バッチリ老人ホームだから快適といえば快適だ。
伊藤さんのが終われば今日の仕事は終わる。
私が苦戦しながら伊藤さんのシーツ交換をしてると、ふと伊藤さんが顔を上げた。
「…そういえば息子さん…夏休みの自由工作どうなった?」
伊藤さんは最近ウトウトしてる事の多いのに。珍しい。雑談として子供の宿題の話をしたのは1ヶ月も前だ。
シーツを直しながら私は苦笑した。
「凄い後悔しちゃって大変でしたよ」
「何を作ったの?」
「ラジオですよ。電池も充電も無しでラジオ聞けるって肩書に騙されてキット買って作って、で後悔したと」
「ああ、鉱石ラジオね。アナログねえ。水晶とか使って作るのよね?」
「ゲルマニウムって書いてありました。でも音は小さくて聞き取りづらいし、完成したのが夜のせいか変な音源拾っちゃって」
「夜だと外国の放送聞こえたりするのよね」
今日は調子良いのだろうか。珍しく話が続く伊藤さんに気軽に答えた。
「イントネーションが変な日本語を、繰り返し囁いてるみたいなの拾っちゃって。怖がって怖がって」
「怪談みたいね」
「強烈だったので覚えちゃいましたよ。『ごめnんぇ、あいたい、ごにnで、ごめnんぇ、あいたい、ごにnで』って。機械みたいに繰り返すんですよ」
伊藤さんは目を見開く。
「…若い女の子の声だった?」
「そこまでは…って伊藤さん?どうしました?」
怖い話は良くなかったか、伊藤さんが震えている。
ナースコールを押そうかと悩む私を、伊藤さんが止める。
「伊藤さん」
伊藤さんは胸を押さえている。
オロオロする私に伊藤さんはなんとか笑顔を作る。
「…ごめんね困らせて。帰りが遅いと息子さん心配するわね」
私もなんとか笑顔を作ってみる。
「…大丈夫ですよ。お盆なのでパパと実家にお泊りです」
「貴方は行かないの?」
「行きませんよ!だからもう少し伊藤さんにお付き合いできますよ」
「…ありがとう」
少し伊藤さんは落ち着いたみたいだ。
「あのね、少し昔話してもいい?」
大抵の高齢者は昔話が大好きだ。だが伊藤さんはこれまで一つも昔話をした事がない。
そんなミステリアスなお婆ちゃんの秘蔵の昔話が気になって、ついつい頷いてしまった。
「ありがとう」
伊藤さんは優しく笑った。
「…あのね、月面移住計画って知ってる?」
いきなり宇宙から始まるそれは、ほろ苦い物語だった。




