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第13話 図体がデカくなったところで何も変わりやしない

 現れたのは魔族の力により異形化した黎人だった。

 黒い瘴気を放ち、2階建の宿屋の高さに迫る大きさの巨体と化していた。しかし間抜けズラだけは変わらない。煇とセリアは驚きと呆れが入り混じったような微妙な顔をした。

 大きくはなったが、何も変わらない。どこをどう見てもアイツだった。


「図体だけデカくなったのかと思いきや、とりあえず喋れるようになったのか」

「ちょっと!気持ちはわかりますけど、感心してる場合じゃないですよ!」


 黎人を無視して話をする2人を見てイラついたのか、黎人はその巨体についた腕を振るった。


「明後日の方向だが、当たったらひとたまりもないなあれは」

 コウジも何故か感心している。


「なんでこんなに呑気なの?この人たち」

 シノは鼻をつまみながらちょっと不機嫌そうな様子だ。


「オバエラユルサナイ」

「オラニハジカカセタ」

「マズオバエ」

「オラノコトミステタ」

「オラノコトオトリニシタ」

「俺に言っているのか?」

「ソウダ!!!」

「アトソコノオンナ」

「えっ?私?私恨まれるようなことなんてしてないでしょ!」

「オラヲウラギッタ」

「アノオトコトオラヲハメタ!」

「ユルサナイ」


 2人は頭を抱えている。セリアからすれば完全に被害者だ。呪いをかけられ彼を押し付けられ介護させられ散々な目にあってきた。恨まれるどころか感謝されてもいいくらいだ。「裏切った」なんておかしな話だ。理不尽にも程がある。


「ねえ、ちょっと!いい加減この臭い、しんどいんだけど」

「オバエ!オラノコトクサイッテイッタ!ユルサナイ!オラクサクナイ!」


 黎人が拳を握りシノの元へ振り下ろす。が、あまりの臭さにシノは反射的に躱した。


「あんなのに潰されたら終わりよ!臭いで火葬すらできないわ!」

「流石にネガティブすぎない?それ」

 ミカがすかさず突っ込んだ。


 そんな状況を見かねたヒロシが口を開いた。


「あーお嬢さん方、さっさと終わらせましょうや」


 ヒロシの合図でコウジが黎人の左足を切り付ける。


「イタイイタイ!オライタイノキライ!」

 黎人は大きな声で痛みを訴えている。


「うるせえな!コイツ!」

 イラついたコウジは続け様に斬り続けた。しかしながら傷跡はすぐに塞がっていく。再生しているのに痛がっているのはよくわからないが。


「面倒だな。体の大きさもそうだが、再生能力か」

「知能は相変わらずで戦闘力も皆無だが、体の大きさ分のパワーはある」

「もう無視して王都に行っちゃいましょうよ!」


 セリアの意見を聞いた煇は即座に反論する。


「いや、そうするとしても何か情報をコイツから得られるかもしれない。少し時間をくれ」

 黎人は再生された傷のあった部分を掻きむしっている。目の前の相手よりも痒みに夢中だ。


「おい!王とズマル、あの魔法使いは今どうしている!」

 黎人は掻く手を止め首を傾げ、少し考えてから返事をした。


「……アイツラハコロシタ」

「アイツラオラヲバカニシタ!ダカラコロシタ!」

「おいおい……じゃあ今のお前の力はなんだ!誰が魔族を率いている?」

「オラシラナイ!コレハオラノチカラ!コレガオラノホンライノチカラ!」


 そんなわけないだろうと、そこにいる誰もが思った。


「まあ、こんなもんだろう。そろそろ行くか」


 煇が背を向けると、黎人は地団駄を踏みながら叫んだ。


「オマエラニゲルノカ!ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ」

「ゼッタイニコロス!オラヲバカニシタヤツ!!!!」


 どこから力が湧いてきたのかわからないが、急にジャンプし煇たちの退路を遮った。


「やるしかないみたいだな」

 覚悟を決めた煇は続けた。


「お前だけそんな大きい体でズルくないか?ここは公平に1対1、元の体で戦うべきだ」

「ナニヲイッテイル!コレハオラノチカラダ!!!」


 能力の発動を図った煇だったが何も起きなかった。


「ダメか」

「もう全員で一気にやるしかねえな!」

 コウジの言葉で全員が一度に攻撃を仕掛けた。


 コウジとヒロシはありったけの剣戟を両足に浴びせる。姿勢が崩れた黎人は膝をつく。


 シノは呼び出したありったけの召喚獣を黎人にぶつけ自爆させる。痛みと衝撃で黎人は怯んで動けない。


 セリアは短剣を顔面目掛けて投げつける。短剣はあんぐり開いた間抜けな口に入って口内を切り裂いた。


 ミカとその仲間は遠距離から開いた傷口に向けて弓と魔法で追撃。矢は傷口へ吸い込まれるように刺さっていく。


 煇は隠し持っていた酒瓶を投げつけ、魔法で着火させる。黎人はアルコールの匂いでフラつき始めた。


 あまりにも過酷な飽和攻撃に黎人の再生が追いつかなくなってきた。


「イタイタイイタイタイ!」

 黎人は叫び続けているが、気にせず攻撃を続ける。

 すると全身を包んでいた黒い瘴気は消え始め体が剥がれ落ちてきた。


「そろそろいいだろう」

 煇がそう言うと、黒い巨体は膝をつき、そのまま地べたへ倒れた。


 完全に瘴気が晴れ、そこに現れたのは生まれたままの姿の黎人だった。地面にはさっきと打って変わって小さく情けない姿が転がっていた。その光景に周囲が一瞬静まり返った。


「ねえ。あんたらこんなのと旅をしてたの?」

 コウジは現れたその小人を見て声を漏らした。


「汚いし、臭い。なんか垂れてるんだけど〜」

 目を手で覆い隠し、指と指の隙間から汚物を見るような目でシノとミカとその仲間たちが見ている。


 一方ヒロシは腕を組んでその小さきモノを眺めていた。

 しばらく眺めてから「……同じだな」とだけ呟いた。それで全てを言い尽くしたような顔だった。


「やっと元に戻ったね。どうしようか、これ」

 セリアは煇の方を向いて尋ねた。


「このまま放っておこう。奴隷商の檻にでも入れておけばいいだろう」


 その後、黎人は奴隷商の檻に入れられた。

 が、何故か檻は破られ、次の日の朝には居なくなっていた。


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