5-16 地下都市探索
朝になるとセフィは「やりたいことがある」とふらっとどこかに出かけてしまった。
残された俺には特にやるべきことはない。
十分に睡眠をとったためか疲労感は消えていた。惰眠を貪る必要性もなく天幕から外に出てみたもののするべきことは何もない。
ゆっくりと長い息を吐く。
「のんびりしてて」とセフィは言っていたものの何もしないというのも何だか落ち着かない。
これ以上体が鈍るのも望むところではない。
地面に置かれたままの剣を手に取り、ベルトにひっかけるように装着すると崩壊した街へと足を向けた。
昨日少しだけ辺りの様子を見回ったが、街は建物を破砕された後の細かい瓦礫が地面を埋め尽くしている情景がずっと続いているだけである。
セフィの家だと案内してもらった居住区辺りはもう少し建物の形が残っていたが、公園の辺りは一切合切破壊され尽くしている。
場所によって破壊の度合いが違うのは何か意味があるのだろうか。
そんな疑問を抱きつつもかろうじて瓦礫に覆われていない地面の上を踏みしめつつ足を先に進めた。
太陽が目で確認できるから方向はわかる。帰り道が分からなくなるようなことにはならないはずだ。
居住区の反対方向を目指すことにした。
この街の在りし日の姿を想像しながらも歩く。
少しずつ歩く速度をあげて脈拍を高める。
呼吸のリズムを一定に保ち視線は真っ直ぐ前を見据える。そうすれば自然と背中が伸びる。
呼吸は基本中の基本だ。その基本を確かめるように深く吸って深く吐く。
歩行の速度は緩めない。
そうやってしばらく歩いた。
地下にある都市だと聞いていたから歩いていればそのうち端に辿り着くんだろう。
そう思っていたが歩けども歩けども道は先へ先へと伸びていてその終わりが見えない。
何度か休憩を挟みながら終わりを目指したがたどり着くことはなかった。
日の傾き加減からそろそろ引き返さなければ暗くなってしまう。
単なる好奇心で進んできたが執着するほどではない。立ち止まって踵を返した。
「『壁』まで歩こうとしたの!?」
元の公園まで戻れば既に戻っていたセフィが驚愕の声と共に出迎えた。
食事の準備をするために戻ってきたようだった。出かける前に火を落とした焚火後には再度火が焚かれている。
出かける前にたくさんかき集めてきた乾パンのような保存食を置いて行ったからこのまま数日戻ってこないと予想していたが。
「一日でギリギリ行ける距離だけどさ」
「『壁』?」
「道が続いているように見せているけど実際は壁になっててその先には進めないようになってるの」
どれだけ歩いても終わりが見えないと思ったらそういうことか。
恐らく今頭上に見えている空のように本物の風景のように見えているんだろう。
少し見てみたい気がする。
「でもそっか、散策ぐらいしかやることないんだよね」
「退屈ではないな」
地下にいると考えると何ともいえない居心地の悪さみたいなものはあるが、見慣れぬものすべては興味深い。たとえその姿をほとんど失っていたとしても。
「今、外に出ても――」
セフィは俺の剣に目を向けて独り言ちて嘆息を漏らす。
身に着けていてもわからないがまだ<虫>を消滅させる力は戻っていないようだった。
ベルトから剣を引き抜き、鰐を親指で押しわずかに刀身を鞘の外へさらす。
俺の目には何の変哲もないように見える。
「……やっぱり普通の剣だ。形も変えられない」
露出した刃をまじまじと見ながらつぶやくセフィに、刀身を鞘に納めた剣を差し出したがセフィは首を横に振ってそれを辞退した。
顎に指を当て、セフィは考えるような間を置いてからゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ずっとこのままなのかな」
わざとそうしているのか感情のこもっていない声音でそんなことを言われても返答のしようがない。
もしそうなったとしたら<虫>に対抗する術がなくなり世界は終わるのだが、仮の話でもそんなことを口にしたくない。
このままだったら、死に物狂いで<虫>と戦うしかない。それだけだ。
「ヒュー」
セフィはセフィで何か何か別のことを考えている様子だったが、ふいに顔をあげて俺を真っ直ぐに見やった。
「明日は一緒にちょっと都市の中探索してみない?」
「ああ。……いいのか?」
やることがあると言っていたのにと尋ねてみれば、いたずらっ子のような目をしてセフィは大きくうなずいた。
こういう表情をする人間にあまりいい思い出がないせいか身構えてしまうのだが、相手はセフィだそんなにひどい目にあわされるようなことはないはず。
「うん。じゃあ、決まり」
食事を済ませ、昨日と同じように居住区へ行って湯を浴びる。
着替えだとセフィに渡された服は肌触りがよくて着心地がよい。
特に何もしていないのに、天幕に入り寝転がっていると少しずつ睡魔が訪れゆっくりと眠りに落ちていった。




