第十四節:湖畔の小屋と火を灯す朝
小屋に戻ったのは、それからしばらく経ってからだった。
夜が明け、世界がすこしだけ色を取り戻したころ。
霧が引いた十和田湖は、かつて見たどんな景色よりも、静かで美しかった。
けれどミコトの足取りは、決して軽くはなかった。
「……疲れた」
ぽつりと落としたその一言は、言葉というよりも、息に近かった。
「当然です。あれは霊的負荷の高い接続儀式でしたから」
ヤールが淡々と応じる。
それを聞いたキリが、白目をむきながら転がった。
「はいはい! お疲れ様でしたー! 心のどこかにナイフ刺して帰ってきた人間には、もうちょっと優しくしろや!」
「ナイフは比喩表現でしょうか? それとも霊的影響による幻肢痛の……」
「おまえはだまれ!」
キリの叫びが小屋の天井を震わせた。
ミコトはそのやりとりに、くすっと笑いかけて、けれど途中でやめた。
笑うのが、ほんの少しだけ、怖かった。
笑ってしまったら、さっきまでの自分が“なかったこと”になる気がして。
そんなミコトの様子を、ユキはじっと見ていた。
「……無理に元気にしなくていいんだよ」
その声は低く、いつもより少しだけ、あたたかかった。
「べつに落ち込んでないし」
「じゃあ、何考えてる?」
「……何も考えてない。って言いたいけど、それも嘘になる」
ミコトは小さく息を吐いて、薪ストーブの前に座り込んだ。
火は、まだ灯っていない。 でも、温かくなる気配がそこにあった。
「……どうせなら、もう少しちゃんと痛みたいなって思っただけ」 「なかったことにしたくないだけ」
ユキは何も言わず、そっと横に座った。 キリとヤールも、黙って少し離れたところに腰を下ろす。
霊獣たちも、人間のような静寂を知っていた。
薪がくべられ、火が灯る。 その音が、胸の奥を照らすようだった。
やがてミコトは、ぽつりとつぶやいた。
「でも……生きてて、よかったのかもって、思った」
誰も返事をしなかった。 ただ火が、優しく揺れていた。
短いですが、入れておきたかったやり取りです。ぐうたらJKミコトの成長痛なのかもしれません。
次節は空気を入れ替えて再度登場の神域新幹線で次の土地に移動です。
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