井の中の蛙は夢を見る
その部屋は、不気味なまでに静かだった。
聞こえる音と言えば、カチャカチャと、絶えず聞こえる小さな音。それ以外と言えば、時たま低く唸る、ウィーンという音くらいだろう。
カーテンがぴったりと閉じられ、電気も点いていない部屋のなかを照らすのは、大きな液晶テレビの白い光のみ。
頼りない光が、ぼんやりと部屋を照らす。
光量が足りないため色は定かではないが、可愛らしいデザインのクローゼット、セミダブルのベッド、勉強机に椅子、丸形のテーブルが、まるでモデルルームのようにバランスよく采配されている。
しかし、部屋は物で溢れかえっていた。
ベッドの上には脱ぎ散らかされた衣類が山を作り、ゴミ箱から溢れたゴミが床に散乱している。部屋の隅にはたくさんのぬいぐるみや人形が所狭しと並べられ、積み上げられた本が不安定なタワーをいくつも形成している。勉強机の上はたくさんのフィギアが列を成し、テーブルの上や周りには、食べカスや空のペットボトル、ビニール袋やお菓子の袋が散らばっている。テレビの周りに散らばるのは、たくさんの四角いパッケージだ。
まさに、ごみ屋敷ならぬごみ部屋だ。
そんなごみ部屋の持ち主は一人の少女だった。
少女は基本この部屋に引きこもり、ふらっと部屋から出て必要な物を大量に持ち込んでは引きこもる、という生活を繰り返していた。
少女の家族はそんな少女の行動に不満を持っていないのか、はたまた無関心なのか、この部屋に誰かが訪れることは一度もない。
前回物資の調達に出てから数日。少女は今までと同じように引きこもっていた。
テレビの前に置かれた大量のクッションに身を沈め、一心不乱に指を動かし、赤く充血した目で画面を食い入るように見つめている少女。カチャカチャとコントローラーを動かす指は忙しなく動き、大きな液晶画面に映し出される映像が、チカチカと変わる。
不意に少女の指が動きを止めた。大きな液晶画面にはエンドロールが流れ、少女が装着するヘッドホンからは緩やかなエンディングが流れる。
しばらくそれが続くと、パッと映像が切り替わった。流れていた曲も切り替わり、大きな画面いっぱいに、容姿端麗な青年達の姿が映し出される。
「くっ…………ふふふ、ふふ……」
今までぎゅっと引き結ばれていた少女の口から怪しげな笑みがこぼれた。頬はだらしなく弛み、充血した赤い目が、一瞬たりとも見逃さないとばかりに見開かれる。
やがて青年達の姿は消え、無機質な文字のみが映し出された。
しばらくその文字を食い入るように見つめていた少女は、テレビの前に散らばったパッケージの山から目的の物を手に取ると、テレビの白い光に翳して裏表紙を見た。何度も何度も、隅から隅までチェックして、そして眉を潜める少女。
「…………」
パッケージを手に何か考え込んだ様子の少女は、そっとパッケージを開け、平らにすると、ケースとフィルムの間に挟まっている表紙を丁寧に抜き出した。
そして紙を裏返し。
「ふふっ…………ふふふ」
紙を大切そうに胸に抱いた少女は、それはそれは楽しそうに笑った。
笑って、笑って。今は何も映っていない液晶画面を見つめ、少女は笑い続ける。
「待っていて、“ ”」




