第31話 育てた側に、それはもうない
回りが、降りきった。それで、連なりが緩んでいる。
緩んでも、線は消えない。上と下とを分けていた線は、そこに引かれたままだ。その線を越えて動くのだけが、朝より増えていた。
上から下りてくるのがあった。下から上へ寄っていくのがあった。寄る先は、上のひと所に集まっている。集まった所からは、離れていくのも出ていた。
主の所には、着く者が絶えない。着いては、その丈で離れていく。
上の面々は、朝の座から出ていない。出ないまま、寄ってくる者を受けていた。
受ける長さは、寄るほうごとに違う。違う長さで、同じ所へ戻していた。
声は、朝より多い。多い分だけ、低く交わっていた。
他所の客は、後ろの詰めた所から出ていない。
柱のあいだの旗は、朝の高さで下がっている。
高い丈と低い丈とは、朝のまま分かれていた。
こちらは、着いたときから、動いてはいない。
読み上げの紙は、閉じてある。閉じたまま、触れられていない。開く用は、もう来ないのだ。
隣は、まだ受けていた。受けている相手は、次々に替わる。句の丈は、そのたびに替わらないでいた。
朝の若い男が、上のほうから戻ってきた。戻る足が、夫の前で緩んだ。
「また、お会いできました」
「後は、どうぞゆるりと」
そこで、丈は尽きた。尽きた所から、伸びていない。
受けは、その丈より短い。
足は、次へ移った。後ろの連なりへ、そのまま紛れた。
こちらの前は、まだ空いている。
上から下りてきたひとりが、途中で曲がった。こちらが、その先にあった。
足は、急いでいない。遅れてもいなかった。
歩き方に、線を見る所がなかった。線のある所を、そのまま踏んで越えてくる。
途中の連なりが、少し開いた。過ぎると、また閉じた。閉じるまでに、誰も句を出さない。
来る所を、誰も止めない。第二王子を、こちらまでそのまま通していた。
アランが、そこを過ぎ、卓を挟んだ向こうで足を止めた。そこが、こちらの前だった。
「昨日のままで」
「掛けてくれ」
腰を、据えた。後ろに付いていたひとりが、その隣に掛ける。この家の姫である。
「ここからは、わたしが付きます」
「昨日は、妹君のことばかり伺いました」
「ご用は、何なりと」
句に、改まる所がない。昨日の丈のままで、ここへ来ていた。
掛けた姿は、浅い。浅い分、身が寄っていた。
声は、上の面々の内で聞いたどれよりも高い。
顔は、摂政の上にある。そこから、動かない。
こちらは頭を、浅く下げた。下げるだけで、句は載せない。
連れが、その隣で身を折った。
「ご一緒させていただきます」
それで、句は閉じた。開きはしなかった。
夫が、短く受けた。
「わざわざ、済まぬな」
「妹が、世話になる」
「はい」
答えは短く、声は高かった。高いまま、次に移っていく。
*
式の由は、この国の北で、異端が平らいだ日にある。祝いの句は、そこを出どころにしている。
祝いの句は、ひと所へ着き、そこで受けられる。受ける丈は、朝から替わらない。
こちらの前では、出た句が、そこから離れていった。
「今日は、北の異端が平らいだ日の祝いです。ですが、祝う先は、フラリンのことだけではありません」
「殿下も、路すがらお聞き及びでしょうが」
「半島で、いま、大きなことが起きております」
「聞いている」
「では、初めから」
短く、句が切れた。切れ目も短かった。
受けた句は、そこで終わりだった。終わった所から、また積み始める。
句は、隣へ向いたきりだ。声だけが、少し落ちた。一息で、句を運んでいく。
「半島では、長く異教徒と戦が続いてまいりました。殿下もご存じのとおり」
「このたび、同胞が大きく攻め出て、異教徒の勢力を撃ち滅ぼすべく、奮い戦っております。海を渡った先の大国が割って入りましたが、それも押し返し、いまは向こうの陣まで攻め寄せているとか。海の兵も、艦を出して加わっているそうです」
海を渡った先、で句は切れない。次が、そこで出た。
「率いているのは、フェリオルという男です。勝ち重ねて手勢を大きくしてきた男で、半島のなかばを降したときから、既に、その名の通った男でした。このたびの勝ちで、その名は半島の外まで出ております。この都でも、知らぬ所はありません。子どもらまで、あの男の真似をして遊ぶと聞きます」
出た名を、繰り返す声はない。ないまま、句は先へ進んだ。
「正式な報は、まだです。ですが、ほぼ片がついたらしい、とは、どこでも。この都にも、そう伝わっております。伝わってからは、この祝いより、そちらの句のほうが多いくらいです。港でも、市でも、この広間でも」
句は、そこで下りていた。高さは、そこから戻らない。
名が、届いた。
届いたものの中で、新しいのは名だけである。中身のほうは、なかばが降りたときに、もうできていた。今日着いたのは、終わりのほうだ。
終わりの前は、既に来ていた。今日のものが、それに重なった。名は、その後で載っていた。重なったものに、足すものがない。
目は、前のものに落ちている。落ちたままで、済んだ。
こちらは、同じ所に居る。居る所は、朝から替わっていない。
誰も、名に句を返さなかった。
指が一つ、動いていた。動いた先は、何も持たない。句は、そのまま次へ移っている。
「あの男を、ここまで押し上げたのは、正教を奉じる方々です。初めのころは、送るものも限られておりました。誰も、多くは望んでおりません。それが、なかばの国々が降りたころから、本腰が入りました。金も、武具も、積めるだけ。その先の平定で名が定まってからは、送らない所がなくなりました。フラリンも、出しております。海の兵を出した側として、その内にあります。このたびは、送れるものをすべて送っております。金も、武具も、兵糧も。いちばん多く出しておられるのは、聖都です。教会が、あの男を、初めからずっと支えてこられました。我らの出したもので、異教徒を討ってくれた男だ、と。この都では、誰もがそう言っております」
句は、切れずにいた。切れる所を作らずに、時を追って積んでいく。積む声が、初めのころより高い。高くなった分だけ、早くはならずにいた。
途中で、受ける声はない。ない所を、句が通っていく。
このたびは、で声がいちばん高くなった。高い所で、句が切れている。
積んだ所を、戻らない。積み終えるまで、下がらなかった。
「送り終えたのは、つい先ごろです。物は、まだ半島の途中にあるはずです。着いた知らせも、まだ来ておりません」
「長いことだ」
受けは短く、句を足さない。
「はい。わたしの生まれぬ前からです。初めのころを覚えている者は、もうこの都にも少ないでしょう」
「そのぶん、このたびの分は大きい。送った側も、送られた側も」
句が止まった所で、顔は動いていない。
言い終えた顔は、摂政の上にあった。こちらへ、確かめは来ない。夫も、こちらを見なかった。
「フェリオルは、わたしの友人です」
「昔は、ここにいたのです。厩の犬が、あれにだけ懐いておりました」
一つだけで、句は止んだ。顔は、それより前と違っていない。違わないまま、いちばん高い所で声が止んでいた。
「そうか」
夫が、頷いた。頷きは短い。
「もうひとり、待たせている者がおります」
「では、これにて失礼を」
連れは、立たなかった。
一つ足して、立った。立って、卓を離れていく。離れた足は、上の段の脇へ寄っていった。
その足が、線を踏んで越えていく。途中の連なりが、開いていた。来たときの所で、来たときの幅だ。過ぎると、閉じた。
卓の向こうに、席が一つ空いた。こちらの前が、それにあたる。
空いた所へは、まだ何も来ない。幅は、朝のままである。
卓の上には、着く前のものが、着く前の所にあった。連れは、その隣から動かずにいた。残ったまま、句を持たない。
こちらの前を、遮るものが、もうない。
視線が、上の段の脇まで通った。先が、見える。遠いまま、動かない。
そこで、客の座が連なっていた。
座は、朝の所にそのままある。座の前に、寄っていくのがない。
広間は、続いていた。動くのと、留まるのとがある。上へ寄っては、戻るのがあった。
主の所へは、着いては離れていく。着くのも離れるのも、朝と違わない。
他所の客は、後ろの詰めた所に、まだいる。下から上へ寄っていくのは、まだ絶えない。
声の止む所が、まだどこにもない。
声は、上でも下でも、変わらぬ丈で往き来している。往き来する丈に、朝からの違いはない。
紙は、閉じたままだ。
旗は、柱のあいだに下がったままだ。広間は、そのまま続いている。
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