消えない記憶と終われない命
傷を抱えていても、生きていてもいいのだろうか。
壊れてしまった子を、抱きしめ続けてくれる人はいるのだろうか。
これは心の傷をめぐる家族の物語です。
「うっ……。やめて……それだけは言わないで……」
荒い呼吸音。
目を開けると、それにそぐわない穏やかな木漏れ日が、窓を通して僕を照らしていた。
「シルフィー。大丈夫?ずっとうなされてたよ?」
フィオ。僕の父親。一見小さな子供だが、その邪気のない青く深い瞳を見ると、心が安らぐ。
「シルフィー。私が近くにいるから、まだお休み」
母のオリヴィアは、僕を撫でると、また隣で一緒に眠ってくれた。
さっきの夢はなんだったんだろう……
そう言えたらどれだけ楽だろうか。
――僕は一度覚えたことを忘れられない。
僕は見せられる。
自分自身の体に。
「その顔、むかつくな。お前なんて生まなきゃよかった」
「やめてよ!」
「お前の価値は私に似た美しい顔だけだったのに。ならいうこと聞け!心だけでも可愛くしろよ」
その記憶が何度も頭の中で繰り返される。
……
なんで……生きてるんだろう?
なんで……なんで?
おかしいじゃん!
僕が受けるべき生じゃないよ。
こんなの間違ってるよ。
神様がいるなら、設計ミスとしか思えない。
早く寿命が来てほしい……そう思った。
「あ……」
鏡に映る幼い体躯。
そして……長い耳。
そっか。今の僕は……。
百年では、終われない。
この耳と、この体が、それを教えてくれる。
鎖は僕を……縛り続けるんだ……。
すりすり
「シルフィー大好き!」
ほっぺたが温かい。
父の体温だ。
「ねぇパパ。どうして僕を愛してくれるの?」
「当たり前だよ。君は僕の、いや、僕たちの娘だもん」
「僕は可愛くないよ」
すると、もう一つの体温が、背中に当たる。
「そんなことはない。お前は可愛い」
……笑えば、いいの?
僕は何をすればいいかわからなかった。
それでも、二人は何も言わなかった。
もう……わかったよ。
「10年……それで終わる」
「え?」
「なんでもないよ」
困惑する父。
彼には教えられない秘密の言葉をつぶやく。
(あと10年だけ……生きてあげる)
僕は二人に抱かれてまた眠りにつくのだった。
シルフィーの心は不安定。
その心が暴かれるとき、フィオとオリヴィアはどうするでしょうか?
次回、永遠を望む名前とそれを壊す未来を知るお話です。二人はシルフィーの手を放してしまうのでしょうか?




