22話 夜闇の向こうへ
墓から帰ってきた僕は、屋敷の部屋までたどり着いた。
「ヴェルフ様、お帰りなさいませ」
アーフェがそう言って僕を出迎える。
「ただいま、アーフェ。今日もよく働いてくれているね」
アーフェの働きぶりには目を見張るものがあった。
掃除も料理も完璧で、裁縫もできる。
アーフェは家事のことなら一通り何でもできた。
「アーフェはどこの生まれなんだい?」
僕は気になって彼女に問う。
「私は、傭兵の国アールド国の出身です、低い身分だったのでこの様な屋敷で雇ってもらったことが幸いです」
「そうか……」
僕は、悪いことを聞いたなと後悔した。
傭兵の国アールド国……
魔術の国、ルーン・スタック王国と勇者の国、ブレイブハーツ国の2大国にはさまれた小国である。
ルーン・スタック王国寄りの国であり、過去にブレイブハーツ国との戦にルーン・スタック王国と一緒に参戦した国でもあるが……
アールド国は戦争の前衛維持に大きく貢献した。
前衛のアールド国に対し、魔術を得意としたルーン・スタック王国陣営は後方でブレイブハーツ国の兵士達に魔術を撃ち込み、なんとか勝利を収めることが出来たのだが……
ルーン・スタック王国の3倍の人的被害が出たとされている。
東魔・西勇戦争、後にそう語られる3年間におよんだ当時、僕のお父様オクトー・バーイヤーが25歳の時に経験した戦争であり、英雄と言われるようになった戦争だ。
その後、教会からの休戦協定の提案を両国陣営は受け入れ、現在までに至る。
「そうだな、話しを変えよう。アーフェは何か好きな物はあるかい?」
僕は、アーフェに問う。
「そうですね、焼き菓子なども好きですが、紅茶が好きですね」
アーフェはそう言うと、少し目をそらした。
「別に焼き菓子や紅茶は屋敷の物を盗み食いしていたわけではないのですが……上手く作れるようにと味見をした程度でして……」
そんなアーフェを見て僕は笑う。
「アーフェも努力をしてきたんだね、大丈夫黙っているから」
僕の言葉に、アーフェは肩の力を抜き、一緒に笑ったのであった。
同日、その日の夜。
ウェストヘイルの町の酒場でラギュース、ノードラ、エルバーはバーイヤー家に悪態をついていた。
「ヴェルフさえいなければ、俺らは追放されなかったのに……俺らは窮屈な兵舎で飯を食って、あいつは家臣にとりたてられて屋敷で美味い物ばかり食いやがって」
ラギュースの言葉にノードラとエルバーも同調する。
「アニキの言う通りでさ、3人がかりで勝てないはずがないですよ、何かインチキしたにちがいないでさ‼」
ノードラがそう言って机を叩く。
「そうに違いない、僕達が負けるはずがないですよ、インチキしていたのに間違いないです」
エルバーも拳を堅く握りしめる。
そんな3人に近づいてくる人影があった。
「あなた達は、もしかして西方守護の方でしょうか?」
そう言って現れたのは、フードを被った女性であるが、ボディーラインが素晴らしく3人は思わずツバを飲んだ。
「その通り、俺らは西方守護……だったんですが、昨日その任を下ろされてしまって……」
ラギュースはそう言って下を向く。
「あら、可愛そうに……私の名前はサーフェ、あなたの名前は?」
そう言いながら、彼女は優しくラギュースの顔を両手で包み込み、彼の顔をのぞき込む。
美しい整った風貌にラギュースは魅了された。
「あなた達が望むのなら、力を差し上げましょう。誰にも負けない力を、ついて来なさい。ホラ、コッチヘ」
サーフェはそう言うとゆっくりと酒場の外へと向かう。
暗い闇が包むその世界へ、3人はサーフェの後を追いかけて行った。




