掌編24:『アルト・ザ・配信』
当然のことではあるが、魔物を換金する際に一番価値が上がるのは生け捕りだ。
まあ体の一部だけが非常に高価な魔物とかもいる(金貨サバなど)が、基本的には丸ごとの方が買取価格は高い。
生け捕り>死骸丸ごと>有用部位のみ>毒殺
ぐらいの価格になってくるか?
さすがに猛毒弾などで毒殺した魔物は全身に毒が回って著しく価値が下がる。それでも毒弾が利用されているのは、最初から持ち帰るつもりのねえ凶暴な魔物対策だな。ゴブリンフィッシュとか持って帰るだけ無駄な値段だし。
で、生け捕りの手段なんだが大きくは三つ。網か電気か麻酔。
網は主にオケアノス製水中用スマートネットランチャー『アリアドネ』。発射すると魔物を追尾して自動で網を広げて絡め取る。
電気は電気銛や水中用デイザーガン。
そして麻酔は多種多様あるんだが、異海産の麻酔薬としていい感じの効果を出しているのが『エイエンノネムリブカ』ってサメ型魔物から取れる毒だった。
『というわけで今回はエイエンノネムリブカを捕りに行くのだ』
「センセイ、口調がずんだもんみたいになってる」
有線型撮影ドローンに向けてセンセイは器用に機体の指をピースにしてそう挨拶をしていた。
異海ダンジョン配信──冒険者の一部で行われている、冒険の様子を動画配信する商売だ。ライブ動画はオケアノエックスで配信され、動画再生数、投げ銭などによって配信者は収益を得る(収益の3割はオケアノスが持って行く)。
魔物と殺し合うところを見せて金儲けにする現代の奴隷剣闘士みたいな商売だが、自己顕示欲の強い英雄志願な冒険者もそれなりにいるし、企業所属冒険者なんかは自社製武器アピールなどのためにやっている。そして世界中の暗黒暇人どもが投げ銭して配信者を深みにハマらせていく。そういうカスみたいな事業だ。
まあ、中には殆ど海には潜らずに三岳島の日常グルメなんかを撮影してボチボチ受けているゴジラさんとかいるが。
今回、センセイも借金の返済に少しでも寄与しないかと配信をやってみることにしたようだ。案外センセイはオケアノエックスのフォロワー数多いからな。美人の強化アーマー乗り新人冒険者として。
撮影ドローンとは別に配信画面確認用モニタードローンも、センセイの機体から針金みたいなワイヤーで繋がって配置されていた。
既になにやら配信コメントが流れている。
《センセイ、オネガイシマス》
《センセイ、オネガイシマス》
《センセイ、オネガイシマス》
なんか珍妙な定型挨拶が既に出来て次々に書き込まれている!?
『エイエンノネムリブカは肉も食べられる。だがあまり出回っていないので魔寿司が困っていてな。捕まえてくることにしたのだ』
そう解説を入れるセンセイ。エリザが握るエイエンノネムリブカ寿司はガチで人間も一瞬で昏倒するレベルになる。店で保管していたものは、オレがチンピラ制圧用の寿司ランチャーで使い果たしてしまった。
『しかし出回っていないにしては、エイエンノネムリブカ由来の麻酔弾は量産されているのだな? 物知りアルト』
「凄くわざとらしくオレに振ってくれてありがとよ。エイエンノネムリブカは魔物にしては珍しい、ほぼ無害なタイプだから生け捕りで捕獲されていてな。オケアノスの水槽で飼われて麻酔の材料になる血とか定期的に取られてるんだと。だから殺さないんで肉は出回りにくい」
《男死ね》
《はい男出たからチャン解》
《こいつはアルト。死なないことに定評がある》
《大丈夫? オケアノスの陰謀喋ってない?》
《この動画はオケアノスに監視されています》
監視されているか居ないかでいうと、オケアノスが注目する異物の強化アーマーが出る動画だから監視されてそうなのが嫌だな。
「そんなわけで必要な分はオケアノスが確保してる上に、割と初期の段階でヴァルナ社や媽祖集団も捕獲して研究されてるからエイエンノネムリブカはギルドの査定価格も低い。冒険者もあんまり狙わねえな。丸ごと持って行くには結構デカいし」
『そこでとある情報からエイエンノネムリブカがいるポイントを聞いたのでそれを取りにいくわけだな』
とある情報っていうかグレイのおっさん情報だけどな。基本、カメラマンなのでそういった事に詳しい。加えて、エイエンノネムリブカは殆ど動かないからな。
『それでは出発する。水上巡航モードで現場まで行こう』
三岳島の港にある小型船を上げ下げするためのスロープから、装備を整えたオレたちは出発する。
仰向けになったスペランクラフトジャケットの腹に乗って水上バイクみたいに異海まで進んでいくのだ。結構早い上に、オケアノスの運搬船のスケジュールに関わりなく異海に行けて便利だ。冒険者の中にはこうした水上バイクを持っているやつもいるんだが、他の冒険者にパクられる心配がある。
この移動の難点はカメラ位置の都合上、あまり周囲が確認できないのでセンセイは移動に専念するしかなくなるわけだ。だから指示や魔物への対応は乗っているオレの仕事になる。
『移動の間、暇だからゲームでも実況しよう。この機体には【マリカー】がダウンロードされている』
《強化アーマーにテレビゲーム????》
《しかもマリカーて》
《センセイ! 任天堂のゲームは営利目的の配信だと規約に引っかかるよ!》
『安心してくれ。マリカーはマリカーでもこれは【スーパーマリ帝国カート】の方だから』
《なーんだそっちか》
《それなら大丈夫》
《マンサ・ムーサのやつね。はいはい》
有名なのかよこの変なゲーム。
******
センセイが金塊をばら撒いて世界経済を破壊しながら巡礼ドライブするゲームを実況プレイするのを見て十数分。
異界ダンジョンの真上ぐらいに来たので潜水を始めた。目的地は海底遺跡群下層部の洞窟。座標ポイントはセンセイの機体に入力されてある。
透明な海水で覆われているダンジョンはあいも変わらず空中を泳いでいるようで不気味な広さを感じる。あちこちで冒険者が活動していたり、大型の魔物が巡回しているのが見える。
デカいやつは遠目でわかるから避けやすく、ダンジョンで怖いのは隠れているやつだな。だから視界の悪い下層部はあんまり人気がないんだが。
『それでは下層に潜る。灯りのために【パスファインダー】を使用する。これはアカリ珊瑚を加工した投光器の一種だ』
センセイの胸元にあるスリットからドーナツみたいなのが射出されて周囲に浮遊し、照らしてくれる。自動で追尾してくる機能もついている。モーターとか入ってんのか?
『それでは地下道を進む……アルトはカバーを頼む』
「あいよ」
強化アーマーにも弱点はあって、外部カメラから取り入れた映像をモニターに写し、操縦した動作を機体に伝えるため緊急時の反応が一手遅れる。パンチだ!ロボ!って命令出すより自分で殴った方が早いのは当たり前だな。
そういうわけで近距離からの奇襲に弱い。体や腕の可動域も人体の方が広いしな。戦車に随伴する歩兵みたく、強化アーマーにもサポート要員が居た方がいいらしい。
まあ、オケアノスのゴルゴン小隊が着ているやつは脳波コントロールしているから反応速度も早いらしいが。
『前方に見えるのは機雷ウニだ。近づくと爆発して針を飛ばしてくる』
センセイが通路の途中で立ち止まってカメラを向けて解説する。床や壁に三匹ばかり、バスケットボール大のトゲトゲ魔物が張り付いていた。
「横スクロールアクションゲームに出てきそうな魔物だな」
『アルト、意外とゲームとかやっているのか?』
「学生の頃な。最近はパチしかしてねえ」
『機雷ウニの処理は簡単で、遠距離から撃ち抜いて安全な場所に隠れればいいのだが……味も試してみたい。だから生け捕りを狙おう』
「……たぶん生け捕りされたことねえ魔物だよな、あれ」
自爆系魔物という何のために生まれて何をして喜ぶのかさっぱりわからん、冒険者相手に自爆攻撃を仕掛けてくる魔物は数種類いるんだがやはり捕獲が難しい。
『エイエンノネムリブカから採取される麻酔溶液を中範囲にばら撒くオケアノスの麻酔グレネード【オネイロイ】を使用する。オネイロイはギリシャ神話の夢を司る神々のことだな。オケアノスの兵器はギリシャ神話系の命名が多い。というわけでアルト、投げつけてくれ』
「へいへい」
グレネードとはいうが手持ちサイズの魚雷みたいな形をした武器だ。下半分には推進剤が入っていて、いい感じに投げたらまっすぐ進んで弾頭にあるセンサーが生物を感知し、爆発する。数メートルに撒き散らされた麻酔薬は小型の魔物だったら一瞬で気絶する。
正規品のお値段はぶっちゃけクソ高い。ヴァルナ社の音響爆弾の二倍ぐらいする。オケアノスの製品は便利なんだが高いのが難点だった。ただしこれは構造が単純だったので、センセイがビルダーで自作したやつだ。原材料費のみで十分の一ぐらい値段で作れたらしい。
「しかしウニって麻酔で寝るのかね……棘皮動物って脳がなかった気がするんだが。よっこらしょっと」
機雷ウニの察知範囲外からグレネードを投げつけると猛烈に推進して、三匹いる機雷ウニのちょうど中間地点あたりに到達すると爆発。周囲に麻酔薬をぶち撒けた。
暫く観察していると、ウニはトゲがしんなりとやや下向きになったように見える。
センセイが偵察用小型ドローンの、スペランクラフトジャケットを模した18cmほどの人形を前方に飛ばす。ミニドラみてえ。
人形がウニを突くが、反応はない。
『どうやら眠ったようだ。眠ったというか麻痺だな。脳はないが、神経はあるから麻酔がそれの反応を阻害している』
「どーやって運ぶんだ?」
『専用のケースを用意しよう』
センセイがビルダーを使って機雷ウニがぴったり入る四角い箱をそこらの石材から作り出す。
《なにそのSFアイテム凄い》
《光子力3Dプリンター……実在していたとは……》
《オケアノスの工事現場で似たようなの見たことあるけど、あれよりめっちゃ小型》
ビルダーはこうやって便利で応用の利くアイテムで、持っていると冒険者ライフで非常に役立つ。いや世界中どこに行っても役立つだろう。壁だろうが床だろうが簡単な構造物はなんでも作れるしな。豆腐みたいな形で良ければ一時間もすれば家が建てられる。
オケアノスが人工島を広げたり、上に建物をクラフトゲームみたいな早さで作ったりしているのもビルダーこと投射型三次元積増造型装置『ヘパイストスの槌』を利用してのことだった。
まあ、ビルダー自体の製造には異海産のレアメタルが必要であんまり量産ができないんだが。
《あんだけデカいと食べがいもあるんだろうか》
《ウニ丼!》
《毒で捕まえたけど食べられるんです?》
『魔寿司では毒の専門家が解毒をしてくれて食材に加工されるから安心だ。素人は自分でやらない方がいいだろう』
毒の処理って塩振ってキッチンペーパーでドリップ吸わせるとかそういう方法なんだが。本当に大丈夫なんだろうか。あれで。
暫く洞窟の中を進んでいく。小型の魔物、ヨウカイベラやシャドウサバを道中で退治しておいた。暗がりに潜むタイプのやつが多い。
「センセイはピンチになりづらいから配信しても盛り上がりに欠けないか?」
『どうだろうな。他を見習って画面の端で有名なポルノビデオの健全な部分だけを流してみるとかやってみるべきだろうか』
「絶対止めろ」
『……待てアルト! この先に大量の魚群反応がある』
センセイの声に動きを止めて、警戒して銃を向ける。
『反応は超小型……10センチほどだが百近く……だが、動きが止まっているな……』
「10センチで百ぐらい群れてるやつ……ドラゴンズイか? ゴンズイっぽい魔物なんだがよく見ると頭が竜みたいなんだよな。群れで噛みついてきて冒険者をズタボロにする」
『手数系の魔物はスペランクラフトジャケットと相性が悪いな……周囲の海水に異常を感知。エイエンノネムリブカの麻酔体液が含まれている。どうやらこの先に居るらしい』
「それで寝てんのか、ドラゴンズイ。こいつも地味にあんまりギルドに持ち込まれない魔物だな。群れててうぜえし、対処方法が爆殺とかになるから跡形も残らんことが多い。小魚相手に麻酔薬使うのもコスパ悪いからな」
『では一部採取して持って帰ろう』
「毒があるから多少はカネになると思うんだよな。あとゴンズイは割と美味い白身魚だ。寿司では見たことないけど」
《まるでゴンズイ博士だな》
《でもただのゴンズイ博士では僕は倒せないよ!》
《そのゴンズイ媽祖病院に持ち込んでくれない? 150000elc》
うわなんかスパチャ15万飛んできとる。中国の医療系暗黒メガコーポ、媽祖集団の関係者も見ているらしい。
ちなみにオケアノエックスでの配信スパチャは限度額無しで振り込める。ときに暗黒金持ちのデスゲーム配信もやっているとか。そんなもんを一般のインターネットで出すな。
とりあえず前方をドローンで探りつつオレたちは進み、気絶しているドラゴンズイを網に入れて確保してセンセイのボックスに放り込んだ。
エイエンノネムリブカの体液濃度は進むに連れて高くなっている。今日は完全に手足の先から首筋までぴっちりと覆ってフルフェイスでカバーするタイプのダイバースーツを着ているから平気だが、海パンで潜っていたら麻酔成分が経皮摂取されて昏倒する。
暫く進むと大きく開けた空間に出て、センセイがパスファインダーで部屋を照らす。
するとそこには無数に魔物が気絶して漂っていた。中には死んでいるのも混じっているかもしれない。
ただエイエンノネムリブカが生息しているにしても広範囲に被害が出ているな、と思ったら水底にその目的の魔物、鼻提灯を浮かべてとぼけた顔で寝ているサメがいた。
そのエイエンノネムリブカの背中あたりに、小型のツインヘッドシャークが噛みついたまま寝ていた。
「うお! ツ、ツインヘッドシャークじゃねえか!」
『アルトと会ったときのアレか。小型に見えるが……』
「別個体だな。ここまで小型なのは初めて見るけどよ」
2メートルほどのエイエンノネムリブカに噛みついているツインヘッドシャークはその半分ぐらいの大きさ。牙がエイエンノネムリブカの鮫肌を突き破り、出血しているんだが血液に含まれる特濃な麻酔成分でそのまま眠ったらしい。
ついでに周囲の海水も血液によって麻酔効果が強く拡散。広範囲を眠らせている。
そんで肝心のエイエンノネムリブカは噛みつかれても起きる気配もなく寝ている。血を背中から垂れ流しながら。
エイエンノネムリブカは基本的に寝ている。体表から染み出る体液だけでも麻酔効果があって、近づいた小魚は気を失う。
で、寝ているが口元になんか近づくと反射的にもぐもぐと噛みつくので、眠った小魚が口元に漂ってきたら自動的に捕食するという効率がいいのか悪いのかわからん生態をしていた。
まあ常に寝ているからエネルギー消費は抑えられているのか?
しかし問題はツインヘッドシャークだな。
「うーん、成長するとヤバい生き物だからサクッと殺しとくか?」
『ちなみにギルドの引取価格は……ううむ、調べたところギルドでは懸賞金が掛かっている個体以外は引き取りしていないみたいだな。オケアノスの調査で、ツインヘッドシャークは異海特有の魔物ではなく、普通の地球生まれなサメだと判明しているらしい。だから商品価値はない』
地球産のサメも魔物相手に暴れて頑張っているんだな。
《時々映像に出てくる巨大サメの子供じゃん》
《危ないから処分しとこうよ》
《こちら世界鮫保護協会日本支部です。希少な種であるツインヘッドシャークを殺さないでください! 100000elc》
スパチャ飛んできた。世界鮫保護協会……凄く怪しい団体だ。
しかし野生の熊保護でもなんでも、安全圏にいる連中がそういう雑な保護を言い出すんだよな。
《この海域に複数生息するツインヘッドシャークは異海の魔物が氾濫することを抑えているとも言われています! ツインヘッドシャークが居なくなれば日本近海に出没する魔物の数が増えてしまいます!》
「こういうのってデータ取ってねえ印象論なことが多いんだよな」
『そうなのか?』
「そもそも海に魔物出て、ツインヘッドシャークも住み着いてまだ数年だからな。有用なデータなんか出揃わねえだろうし」
《ツインヘッドシャークを見逃してくれたら百万エレクをスパチャします》
「えっ」
『えっ』
「……ま、まあ今回はエイエンノネムリブカを持って行くことが目的だしな。他はどうでもいいだろ。なあセンセイ」
『そうだな。普通の鮫と同じ味だったら別にツインヘッドシャークじゃなくても食べられるしな』
キャバーンキャバーン! 百万エレクがスパチャされた。カネ持ってんなあ鮫保護協会!
コメント欄が《金に負けた!》とか《処刑せよ!》とか《ここで見逃したせいで無数の冒険者が成長したツインヘッドシャークに殺されるんだよね》とかやや荒れるが、文句があるなら百万以上スパチャしろってんだ。
しかし一回の配信で百万以上ゲットできたのはかなり上振れだろう。定期的にツインヘッドシャークが現れて命乞いして金を振り込んでくる協会員が出て欲しい。
『エイエンノネムリブカの捕獲方法は簡単で、ロープで巻いて海上へ引き上げてもひっそりと眠っているぐらいだ。まずはツインヘッドシャークを外そう』
凶暴そうな顔で噛みついたまま眼球を裏返して寝ているツインヘッドシャークを引っ張って剥がす。ちなみにホオジロザメなんかのサメは泳ぎ続けないと窒息死するってんで、寝るときも泳いでいるんだとか。このままボケーっと寝てたらツインヘッドシャーク勝手に死ぬんじゃねえの?
ま、それは良いとしてがっぷり噛みついていた顎を無理やり強化アーマーの腕力でこじ開けてやっていた。
穴の空いた傷口から血がダラダラと出ていたが……
「……ん? もう塞がったな。回復力すげー」
見ているうちに肉が盛り上がってエイエンノネムリブカの傷口はなかったように消えていった。
サメってのは元々回復力が高いわけだが、異海のやつは更に強力なのも多い。
それにしたってエイエンノネムリブカはかなり高めだな。まあ、企業に捕獲されているやつも血とか抜かれても生きたまま飼われているぐらいだからか。
『アルト。これ、魔寿司でも水槽で飼って、回復する分だけ肉を削いで継続的に利用できないか?』
「発想が若干サイコで怖い」
『いや、今でも再生タコとか栗饅頭ウニとか飼うための水槽を頼まれていてな』
再生タコは千切った手足からでも本体が再生するプラナリアみたいなタコで、栗饅頭ウニは気がついたら分裂している謎のウニだ。どっちも無害な魔物なので飼いやすく、増えていくのが便利ではある。
「いやしかしなあ……切り取っては再生させてまた切り取るために飼うって……なんか生命の尊厳とか。中国の妖怪にそんなん居た気がするけど」
『鶏だって考えようによっては体の一部であった卵を延々と生産させているだろう。牛だって血液とそう変わらない乳を絞っている。一部の鮫も船で捕獲したら価値のあるヒレだけ切り取ってリリースするらしい。似たようなものではないか?』
「でもなあ……サクッと殺して切り身にしてやった方がなんか人道的な気が……世界鮫保護協会はどう思う?」
仕方ないのでコメントに話しかけてみた。
キャバーンキャバーン。百万振り込まれた。
『では生け捕りで飼うことにしよう。文句があるなら早めに、鮫保護協会よりも多く振り込んで欲しい』
「意見を通すのにカネって大事だよな」
そういうわけになってエイエンノネムリブカは魔寿司に運び込まれることになった。
******
ギルドにいくらか魔物を納品して借金返済の足しにしたあと、寿司屋で使う分を運ぶ。
エイエンノネムリブカはセンセイが作った車輪付きのバスタブみたいなのに放り込んでガラガラと曳いて行った。
エリザが出迎えて驚きの声を上げる。
「センセイお帰りなさ~い……うわ! 丸ごと持ってきた!」
『前に頼まれていた水槽もついでに作ろう』
「急にDIY配信になったな」
そこから大工事が始まり、店の天井と二階の一部を張り替えて大きな水槽を設置し、照明やろ過フィルター、オートヒーター、エアポンプなどをビルダーで作成。ポンポンポンと鮫を飼育する環境を整えていった。クワガタムシでも育てるのかってぐらいの短時間で。
『エイエンノネムリブカは鈍感で生命力が強い魔物だから多少は大雑把な作りでも大丈夫なはずだ。ただ同じ水槽には他の魚は入れられないかもな。眠るから』
「太棒了! いい感じネ。天井を見上げると鮫が寝ている寿司屋……雰囲気出てるヨ!」
「その鮫が少々アホ面じゃなければな」
「えー、可愛くていいよー!」
その可愛い鮫を定期的に肉削いで寿司に出そうというエリザの言葉に空恐ろしさを微妙に感じるのであった。
天井を見上げてボケーッと寝ている鮫を眺めて思う。
生かされてひたすら搾取され続ける一生を送る……まるで借金から逃れられない債務者のように。オケアノスという巨大組織に飼われ続ける奴隷のように。
「……」
******
「なんかアルトくん、やけにネムちゃん(エイエンノネムリブカの名前)の餌を持ってきてくれるようになったね?」
「寄付だから餌代は出さないゾ」
それからオレは微妙に憐れんで、鮫の水槽に小魚の魔物とか放り込むようになるのであった。
こうして眠りながら餌をもぐもぐ食うのは愛嬌があっていいような気がしてきただけだ。
ところで、以前のセンセイの配信で鮫協会みたいな連中が大金を投げ銭してきたことは配信界隈で有名になった。
そうするとどうなったかというと、鮫型の魔物で比較的弱いやつを捕まえては鮫質にして鮫協会からの保釈金をせびるカス配信者が一気に増えたという。
最初は仕方なく払っていた鮫協会だったが次第にカス配信者が増えたことで地球固有の鮫を保護するという方針を打ち出し、魔物の鮫は対象外として騒動は収束した。
「それはそうと、ネムちゃん配信にまた鮫協会の人が餌代スパチャ入れてくれてるよ?」
「保護対象外にはしたけど鮫は好きなんだな……」
ひたすらエイエンノネムリブカが水槽で寝ているところを24時間ライブカメラで配信するだけのチャンネル。(時々ご飯もぐもぐタイムあり)
何故かは知らんが、癒されるとかで割と常時接続者が多い配信になって、飼育費用ぐらいは稼げているらしい。
ウリンがネムぐるみをメーカーと結託して販売も計画しているとか。
なにが流行るかわからんな……癒し系魔物って案外初めてかもしれん。時々肉を削がれているのがノイズだけど。
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