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「ただいまー!」
木目の浮かぶブラウンの扉を開いた少年は、にこやかに元気よく挨拶をした。すると、中で書き物机に向かっていた女性が顔を上げる。
「あら、ヒサロ。おかえりなさい」
「リー姉、ただいまー! ねえ、聞いて聞いて聞いて!!」
「ふふっ、わかったから。手を洗って、こっちへいらっしゃい」
女性がそう言って温かみのある木の椅子の座面をとんとんと指で叩くと、「はーい!」と返事して少年は別の部屋へと駆け出していった。
彼女はミルクティーブラウンの髪を少しだけかきあげると、書き途中だった用紙に再び筆をおろした。彼女が指先を動かすと、それに合わせて頬の横で三つ編みが静かに揺れた。
やがて資料がまとまったのか、紙束を揃えて端に置いたところで、少年が後ろに結んだオレンジ色の髪をぴょこぴょこ跳ねながら帰ってきた。
「ねえ、リー姉聞いて!」
「ええ、なあに?」
女性は机の上で両手を重ね、優しく尋ねる。
「あのね、今日ね、お屋敷のおじさん捕まえたんだけどね、すごかったんだよー!?」
「あら、気になるわ。詳しく聞かせてくれる?」
「えっとねー、ジョンっていう男の子がいてね、おじさんに連れて行かれそうになったところでね、リオードくんがばって! 助けに入ったの!!」
「へえ、それで?」
「そしたらね、リオードくん窓から突き落とされちゃって、まあ大変! って思ってたらね、外でおじさんが突っこんで来て、リオードくんのことキャッチしたの! そのまんまゴロゴロゴローって!」
「あら、おじさんが二人出て来たわね」
「最初のおじさんは、細くって黒い口髭のおじさん! でね、後のおじさんは、茶色の髪の……なんかダメそうなおじさん」
「あらあら、勝手にダメなんて判断しちゃだめよ?」
「はーい、ごめんなさーい」
「それで、皆は外に出られたのかしら?」
「出たよ! リオードくんは落っこっちゃったけど、ケガしてないからセーフでしょ?」
「そうね……まあ、皆無事ならよかったわ。あんな所に子どもたちを閉じ込めておくなんて、許せないものね。……そういえば、お薬はきちんと飲んでもらった?」
「うん! 皆、ちゃんとヒサロのこと忘れてたよ! リー姉はやっぱりすごいね!!」
「ふふっ、ありがとう」
女神のような優し気な微笑みを浮かべる女性につられて、少年も照れ臭そうに鼻を擦っていたが、ふと「あっ」と声を上げた。
「でも、リオードくんは忘れちゃったな……。どうしよ……」
「リオードくんって、さっき窓から落ちたって言ってた子?」
「そうだよ! リオードくんが落っこっちゃった時は、もうポリスの人が下まで来てたから、後でお薬飲んでーってお願いできなかったの。なんかね、黒い髪のポリスの女の人と茶色のおじさんといっぱい喋ってた! あ、あとね、リオードくんはね、探偵のお仕事してるんだって! ……あっ!! それで、もっと大事なこと忘れてた!!」
思い出せることを片っ端から引っ張り出して並べていたヒサロは、そこで一段と大きく息を吸った。
「リオードくん、ローファード・ハウスの探偵さんなんだって!」
女性は一瞬豊かな睫毛を持ち上げて、瞳に希望の光を宿した。それから、うっとりしたように目を細めて、「あら、そう」と、重ねた手でもう片方の指先を愛おし気に撫でるのだった。




