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第32話 怪しいアール

 放課後。


 放課後デートなのだからそのまま言っても司は良かったのだが、それだと味がなく、先に転校手続き等で提出すべき書類があるらしく、イフとは三十分後に駅前で待ち合わせることになった。

 まっすぐ向かえばすぐについてしまうのでのんびり行こうと校舎内をてくてく歩いていると丁度、アールが向かい側から歩いて迫る。

 司の目が細められる。

 昨日、魔物が出てアールとの別れ際の言葉。「待って、私は貴方のお父さんに……!」と確かに言っていた。

 聞こえていた、聞こえたのだ、確かに。


「……ッ!」


 アールは司に気が付くと、あごを下げ、真剣な瞳を司に向ける。


「アール先生、昨日はどうも」

「ええ、無事でよかったわね。今朝はごたごたしてたみたいだけど、秤さんとの話は終わったの?」

「ええ、今朝はそれで後回しにしてたんですけど、先生にも聞かなきゃいけないことがありましてね」

「………ゴクリ」


 アールの喉がはたから見ていてわかるほど動いた。体がこわばり緊張している。


「先生、昨日言ってましたよね。俺の父親がどうとか」

「……言ったかしら?」

「言いましたよ、すっとぼけないでください」


 そっぽを向いて吹けない口笛を吹こうとするアールに詰め寄る。


「先生、もしかして」

「もしかして?」

「もしかして……」

「もしかしてッッ⁉」


 アールの顔に汗が浮かび上がってくる。体も震えだした。

 父親のことをこのタイミングで言う。そして、この同様のしかた、間違いない。司は確信した。


「先生、あんた俺の親父の愛人だろう!」

「違うわ……! って本当に違う‼」


 最初は目を閉じて反射的に否定をしたが、次に全力で手に持った出席簿を床にたたきつけるほどの力強い否定をした。


「へ? アール先生と用務員のお姉さんが親父をかくまっているんじゃないの?」

「どうして、どうしてそうなるのよ⁉ 私とブラッドはただの戦友で同じ騎士団に所属してただけの……あ」

「あ」


 ボロボロと、ぼろがこぼれる、アール教諭。


「コホン、今日はたくさん宿題を出しましたからね、ちゃんと明日提出してくださいね。池井戸司君」


 何もなかったかのように司の横を通り過ぎようとするアールの肩を掴む。


「先生、イノセンティアから来ただろう?」

「何の話かしら?」


 手に力をいれてアールを振り向かせる。


「昨日、乗ってただろ偽骸(ぎがい)に!」

「……ギガイ? ギガイって何のこと……先生アニメ見ないからロボットの話されても分からないなぁ……」


 目が尾ひれをつけて泳ぎまくっている。

怪しいなんてものじゃなく、確定と言っていい。


「ハァ……会長の言う通りだったな、人が一気に集まった時は何かが起きるって」

「ん~、なんのこと先生わかんないなぁ……」

「とぼけなくていいですよ。先生が昨日の偽骸(ぎがい)に乗っていたのはわかってますから」


 女の声がした、赤い義骸に乗って警告してきたのはアール先生だったのだ。義骸に乗ってると凛としていて、現在目の前のポンコツとは乖離(かいり)しているが、騎士団に所属していたというし、やるときはやるのだろう。


「だから、私はわからないっていって……さらばぁぁぁぁ‼」


 遂には司の油断をついてダッシュで逃げて行ってしまう。


「……ホーク・ダールトンに報告しておきますからねぇ~」


 ホークの、鷲尾の名前を出すとアールはピタッと止まった。そして引き返すべきかどうしようか悩んでいるようでその場で地団太を踏んでくるくると回転すると、戻っても墓穴を掘るだけだと理解したようで、やはり司に背を向けて走って行ってしまった。


「……こんな身近にロボットのパイロットが三人もいるなんて、な」


 偶然なのか、誰かが仕組んだのかわからないことではあるが。



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