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第31話 獅子レオン

 司が放課後にデートをするとなって火伊奈は気が気じゃなくなった。

 イライラした様子で校舎の裏を歩く。少々気がむしゃくしゃしているので人にあまり会いたくはない、と来た場所だった。

 司は本来ああいうことを言い出す人間ではない。それが突然近しい年代の女の子を誘ったということは、いうことは……?


「ああもう! イライラする!」


 近くにあった木を怒りに任せて蹴り上げる。


「だ、な、何するんだよ⁉」


 上から声が聞こえ、がさがさという木々をかき分ける音と共に大きな塊が落下してきた。


「きゃ……!」

「人の寝床を蹴りつけやがって、どこのどいつだ!」


 落ちてきたのは少年だった。御式学園の制服を身に着け、ぼさぼさの髪が広がりライオンのようだ。

 見ない顔だ。そこまで学校内の生徒を把握しているわけではない火伊奈でもこれだけ目立つ髪形をしていれば多少なりとも目についていてもおかしくないとは思うのだが。


「寝床って木の上じゃない」

「馬鹿野郎、この木のしなり、葉の絶妙な付き具合による適度な日光遮断。昼寝に丁度いい温度調節をされたこの欅の木は俺が長年昼寝をした場所でベストな木だぞ。一日中寝れるからな」

「そ、そですか……」


 変な少年だ。木の上で寝ることに大分のこだわりを持っているようで本当にサバンナで暮らす獣のようだ。

 いや、この少年、変なことを言っていたな。


「一日中って授業は出なくていいの?」

「この学園で勉強しなきゃいけないようなことは俺たちはもう学んでるよ。ここはあくまで俺たちにとって待機所。自慢じゃないが、俺は転校してきてから一度も授業に出たことがない」

「な、どんな生活をしてたのよ……ん、転校?」


 そういえば、司が何気なく話していたのだが最近転校してきた転入生は秤イフのほかに二人いると聞いた。一人は唯のクラスに転入してきたというらしいし、もう一人は一年の男子だという情報がある。


「もしかして君が一年の転校生?」

「一年の、か。まぁその通りだ。獅子レオンだ。そういうてめえは?」

「獅子レオンって……そのまんまじゃ……」

「おいおい俺はあんたの名前を聞いてるんだぜ? 答えてくれよ」


 レオンは火伊奈の呟きを流し、名前を言うように促す。

 下級生だというの強気なレオンの態度にカチンときて、火伊奈の眉が上がる。


「私は……二年生! の赤川火伊奈です。上級生! です」


 自分の方が年上であることを強調する。


「赤川? じゃああんたがあのロボットを作ったのか?」

「へ?」


 火伊奈が強調したところと違うところに食いつかれてしまった。

 なぜ、ロボット? コバキオマルを作ったというか機関部の細かい作業は担当したがどうしてそれをこの転入生は……。

 転入生……うちのクラスに来たのは秤イフ……。


「あ‼」

「おうぅ! どうしたんだよ、でっかい声出して?」


 転入生って言った時点で気が付いておくべきだった。安易に名前を出すべきではなかった。

 こいつは秤イフの関係者だ。いや、普通に昨夜の警察の特殊災害対応係とかいう組織に所属している人間だ。

 自分のうかつさに頭を抱える。


「あんた、もしかして昨日銀色のロボットに乗っていた?」

「何で知ってんだ⁉ 誰からか聞いたのか?」

「秤イフがばらしてたわよ。自分がMT1のパイロットだって。赤川の名前を出してあたしがコバキオマルに関わってるってわかるってことは昨日現場にいて、おじいちゃんの声を聴いていたってことでしょ?」

「へぇ、なるほどなるほど。あいつ守秘義務を簡単に破るんだな。へぇ、ほぉ……」


 仲間が守るべき秘密を容易にばらしたというのに、どこか嬉しそうな顔をしていた。それはもう邪悪な笑みを浮かべて、イフがいるであろう校舎の方向を見ていた。


「うし、察しの通り俺がMT2———スプリングスティングのパイロットだ。イフはMT1のセイブキーパーのパイロットで、もう一人いるアクアってのがMT3———シックルザッパーのパイロットだ。ああ、MTなんたらってのは番号で、機体の名前がスプリングスティングな。MTなんたらじゃ味気ないからスプリングスティングって呼んでくれよ」


 MT2のパイロットと聞いて、火伊奈の少年に向けられる目が厳しくなる。


「守秘義務じゃないの? 随分とペラペラとしゃべるわね」

「そうだが、知ってほしいじゃねぇか。俺たちが、俺がこれからあの化け物どもを退治する男だってことをさ」

「………」


 この少年は自信に満ちてる。勢いにあふれていて、どこか幼い。少し危なっかしい英湯願望を感じた。


「そう……大変だろうけど、がんばってレオン君」

「ンはいらない。レオでいい。仲いいやつはみんなそう呼ぶ」


 まるで無邪気に、怖いものがないようにレオは笑いかけた。

 彼の無謀さ。それを諭すのは自分じゃない。彼の身の回りの誰かだし、自分が言ったところで聞きはしないだろう。

 そういえば、この少年はイフのことを下の名前で呼んでいるが親しいのだろうか。


「秤、イフってどんな子?」

「あ? イフ? 何であいつの話なんだよ。話しかけられたのか?」

「う~ん……実はさ」


 屋上での一幕や、コバキオマルのパイロットのことについてレオについて話していいものか悩んだが、どうせバレることだろうと話すことにした。


「あのコバキオマルのパイロットがイフをデートにぃ⁉ そりゃ面白れぇ! ハッハッハ! あの民間、面白いことをするんだな」

「普段はしないんだけどね。いつの間にか秤イフとと仲良くなってるし」

「………」


 レオが突然静かになって、ジッと火伊奈の顔を見つめる。


「な、何よ……?」

「嫉妬してんのか? イフに」

「なっ……」


 顔が熱い。自分でもわかるほど顔が赤くなっている。

 その火伊奈の様子を見て、レオは「クック……」と笑った。


「そうかそうか、じゃあ俺たちでぶち壊してやろうか」

「へ?」

「今日の放課後だろ? 俺もな、暇なんだよ」

「え?」

「俺はな、面倒くさがりなんだが面白いことは大好きなんだ」


 レオがグッと顔を近づけて、火伊奈の肩にポンと手を置いた。


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