第61話 メイド服下賜おじさん
問題なく進むかに見えたダークエルフ集落跡の発掘プロジェクトだが、いきなり巨大な困難にぶち当たってしまった。
ぶち当たってしまった、というか、向こうからやってきた。
「また鱗主かぁ……」
「はい。幸い、死人は出ておりません。すぐに逃走し、鱗主も深追いしてくることはありませんでした。『魔除けの石灯篭』が効いているのでしょう」
鍛冶場でテシウスくんから報告を受けた。
「しかし、さすがは鱗主というべきでしょうか。作業員がひとり、背中から爪でばっさりと。ポーションで一命はとりとめましたが、御下賜いただいた『05式魔導作業鎧』を破損してしまいました。大変申し訳ございません」
「いや、着てる人を守るための防具だからねェ。それはいいんだけど……」
『石灯篭』だらけのティリク・ベースまで来ることはなさそうだが、発掘現場に居座られてしまうのは困る。駆除するしかないが……。
〈相棒とファビが出るか、フル装備ラティーシャが出るか。どっちにする?〉
「ラティーシャちゃんは物理的に無理でしょ、ザルツオムから動けないし。俺とファビが出るのも厳しいだろ、鍛冶以外に商人との折衝もあるしなァ」
流れの商人ならともかく、有力者お抱えの商家となると、女戦士さんに丸投げするわけにもいかないのだ。
〈毎度毎度の手が足りない問題だね。解決策はひとつだよ、相棒〉
「と、すると……」
ちらりとテシウスくんを見やる。豊満な肉体をメイド服で包んだ、金髪ロングの美女だ。
元は敵対していた高圧的な冒険者だったけれど、今はちょっと引くくらい忠誠心の強い、おじさんの仲間である。
「ど、どうなさいましたか。そんなに熱いまなざしで……」
〈品定め中だよ。黙ってて〉
「し、品定め……!?」
彼(彼女?)だけではない。その仲間たちも、俺に恩義を感じて力になってくれている。正直、彼らがいなければティリク・ベースの維持も不可能だっただろう。
「テシウスくん。精霊銀のレイピア、まだ持っているかい?」
「え? ええ、我が愛剣にして誇り、『鷹穿ち』の残骸ならば、常に持ち歩いております。もはや武器としては扱えませんが、数多の冒険を共に潜り抜けた、いわば私の分身、いえ、もはや私自身とも言うべき――」
「もらってもいい?」
テシウスくんは少し固まったあと、頬を赤らめてうなずいた。
「――もちろんです。我が身、我が物まで全て、ケンゾー殿の所有物でございますゆえ」
メイド服のスカートの下から、鞘と金属片が出て来た。どこにしまってんだ。もしかしてアレかな、【ウィザーズ&ウォーリアーズ】のアイテムボックスかな。まあいいや。
精霊銀の欠片を手に取ると、複数のレシピが解禁された。
「……よし。そんじゃ、テシウスくん。今夜、四姉妹でおじさんの部屋に来てくれ」
「今夜!? 四人同時ですか!?」
テシウスくんはなぜか目を丸くして驚いたあと、うやうやしく頭を下げた。
「御下命、拝領いたしました。全力でお相手つかまつらせていただきます……!」
「うん、よろしくー」
〈なんか勘違いが発生してる気がするけど、おもしろいから黙ってるね〉
ファビ? それどういう意味?
●
で、夜。
王様部屋に、アドレウス四姉妹がやってきた。
「あー、その、皆さん? その服は……?」
ちょっとその、だいぶ刺激的な服装というか、下着というか、布というか、すけすけのレースというか……を、着て。視線のやり場に困る。
女僧侶さんが恥ずかしそうに微笑んだ。
「せっかく夜伽役に指名していただいたのですもの、勝負用で参りました。あの、お気に召したでしょうか……?」
「よ、夜伽役ぅ!? なんで!?」
「えっ?」
〈あーあ、やっぱりね。今度、ラティーシャにも教えてやろっと〉
壁際の防具立てでファビがクスクス笑う。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね、ご領主様。――集合!」
四姉妹が顔を突き合わせて円陣を組み、ひそひそ話をし始める。ややあって、テシ子が他の三人に一回ずつ尻をシバかれてから、こっちを向いた。
「ケンゾー殿、申し訳ございません。私が早とちりしてしまったようです。着替えてまいります」
「そうしてくれ。……いや、待ってくれ。着替えるなら、コレに」
なるべく見ないようにしつつ、用意しておいたブツを手渡す。
「これは……?」
「きみら専用の装備。『次元珪砂』がないから、どうしても限度はあるけど。液化させた『鱗主の甲殻』と『精製魔石』を『スパイダーシルク』で織った布に染み込ませて作った『タクティカルメイド服・竜』だ。手触りは柔らかいけど、レア度的に『次元刀』レベルの攻撃じゃなければ防げるはずだよ」
「な、なんと! 鱗主の素材を使った、装備……!」
デザインはクラシックなメイド服だが、性能は【ソードクラフト:刀剣鍛造】のシステム由来。ガチである。フレーバーテキストは『どんな攻撃でも傷ひとつつかない給仕服。メイドさんにはおさわり厳禁の原則が刻み込まれている。』だ。
それだけじゃない。
「ブローチは『魔水晶』と『精製魔石』の合成結晶に各種バフポーションを溶かしこんだ『全能力増幅の宝玉』で、ホワイトブリムは『タクティカルメイド服・竜』と同じ布に、銅と『メカニカル合金』で作った『超伝導ワイヤー』を仕込んである。『05式魔導作業鎧』との相性が格段に良くなるはずだ。本当は『08式魔導メイド鎧』も作りたかったんだけど、そこまで作る余裕はなかったよ。申し訳ない」
〈相棒、クラフトの話になると早口になるよね〉
うるさい。
「申し訳ないだなんて、そんな! ケンゾー殿のご厚意、ありがたく頂戴いたします!」
「大旦那、ホントにもらっちゃっていいのかい? これ一着で世界各国の軍部がてんやわんやになりそうな逸品だが……」
「いいのいいの。四人には鱗主の相手をしてほしくてさ。ほら、着替えてきて」
四姉妹は横の部屋に引っ込んで、すぐに着替えて戻って来た。全員、スタイルのいい美女だから似合うな……。
「必ず鱗主を倒して参ります。我が身命に替えても!」
「それはダメ。身命を大事にしてほしいから渡すんだよ。それから、これね」
メイド服とは別に用意していたものがある。
「精霊銀と『精製魔石』と『メカニカル合金』を『魔女鍋』で結晶化させたあと、四分割して打ち直した『ティリクの守護』シリーズだ。鱗主みたいな大物との戦闘じゃ『魔導円匙』のほうが使いやすいと思うけど、イザヨイ領のエンブレムが刻んである」
作った場所や刻んだエンブレムによって、名前が変わるのは、初めて知った。【ソードクラフト】にはまだまだ発展性があるなァ。
女戦士さんは『ティリクの守護戦斧』、女狩人さんには『ティリクの守護弓』、女僧侶さんには『ティリクの守護祈杖』、テシウスくんには『ティリクの守護細剣』。
ラティーシャちゃんを強化したときほどの大盤振る舞いではないが、鱗主の甲殻くらいならスパッとイケる性能があるのは、ファビの試し切りで確認済みだ。
「ティリク・ベースが維持できているのは、四人のおかげだ。ありがとう。感謝のしるしとして、受け取って欲しい」
〈相棒からアドレウス四姉妹への信頼の証でもあるんだよ。その意味、わかるよね?〉
四人は、すっとひざまずいて、俺を見上げた。
そういうことされるのは、まだまだ慣れないんだが……。
「我らアドレウス四姉妹、ケンゾー殿のため、粉骨砕身の覚悟で励みます」
「うん。それじゃ――今後ともよろしくってことで」
ひとりひとり、差し出された両手に武器を渡していく。騎士の叙勲みたいだな。
その後、彼女たちは意欲に燃えた瞳で退室した。うむうむ、モチベ高いのはいいことだ。さて、寝るとするか。……その前に。
「……なあ、ファビも欲しいもの、あるんじゃないのか?」
〈ないよ〉
「本当にィ? ファビが記憶を取り戻したら、気持ちが変わるかもしれないぞ?」
〈何度も何度もしつこい! もう……〉
ファビが少し語調を強めた。かたくなだなァ。
「悪かったよ。おやすみ、ファビ」
〈……ん。おやすみ、相棒〉
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