明るみに出る闇、消えない光
ごめんなさいー(´;ω;`)
やっと落ち着いてきました、週一回土日、くらいのペースには戻します!!
すみません!!
今回も、どーぞ!
「国外…退去…?」
「…は…?」
わけがわからないという顔をされても、そんなのはこっちだって同じことだ。
「どういうことだ…お前は兵団長のはずじゃないのか」
「そのはず…だが、前回の襲撃作戦以来、王にはお目通りを頂いていない」
「…切られたか」
「…そのようだな」
報告は部下に任せていた。
ガルザード自身はその後、顔を見せる必要はないという言伝を受けたきりだ。
「無論何度も会わせていただこうとはしたが…取り次いでもらえなかった」
「…兵団長も自由に謁見できるわけではないのか」
「勝手を許すような王ではない」
唇を噛むガルザード。
しかしここである疑問が浮上する。
「…お前でないなら、誰が国外退去令を出したんだ」
「簡単な話だ」
衛兵が知っている話を、ガルザードが知らない。
それは近々明かされるのであろうガルザードの処分を意味する。
そして、兵団の指揮官にして、軍事における最高幹部が空席ならば、そこに実質的な力を発揮できる人間はただ一人。
「…ここまで読まれていたのか?」
「見事に軍力を自由に行使する口実を得たわけだ」
「国王」
「すまない」
もはやがらんどうの一期一会を訪ねてきたのは、いつかの小さな獣人だった。
会うなりに謝ってきたのは、決して先日の非礼を詫びようなどという話ではないらしい。
「なによ急に?」
「…………」
彼は子供らしからぬ迫力とただならぬ迫力が漂うのが特徴ではあるのだが、今はその面影もない。
彼には似合わない焦燥の色が濃く顔に表れ、汗をかいている。
「もっと早く気付くべきだった」
「だから何が…」
「…魔術師アルシエルに用があるんですね?」
シエルにしては珍しくシオンの話を遮り、彼に問いかける。
彼女の質問にコクリと頷く獣人の少年。
「…少し複雑な話になる」
事態の重さを察してかシエルの目が変わる。
「…椅子ならまだ置いてあるわよ」
「ありがとう」
そして二人は、この瞬間から、世界の核に触れることとなる。
「聞かせてくれないかガルザード」
「…何だ」
自然と声を潜めてしまう。
本当に恐ろしい人間がいる、その居城に入ってしまっている。
その事実だけであっても、警戒には十分値する。
「獣人の村を襲撃すると決定したのは?」
「…あらかじめ複数の襲撃目標を指定し、決を下したのが国王だが…提言したのは私だ」
「…他の目標とは?」
「一つとして直接バルバーリアを叩く、二つにバルバーリアと交易の盛んな農業国のアグラージュ、最後が獣人の村だ」
ここまで聞いて役人の男はすべてを理解した。
否、役人の男も。
一番苦い顔をしているのはガルザードに他ならない。
「…一は有り得ない、アグラージュは叩けば食料の供給を絶てるが、小さいとはいえなまじっか国家として成立しているだけあって守りも堅いし、バルバーリアや獣人の村よりも距離もある」
「…一番無難であり、動きとしてもバルバーリアに悟られにくいのが獣人の村…最初から私がそう提言すると…そして…」
「お前は獣人の村襲撃の理由のカモフラージュに利用された」
机が音を立てて跳ね上がる。
赤くなったガルザードの拳に食い込んだ爪と肉の間には、血が入り込んでいる。
「…もう一つ聞かせてくれ」
「…………」
「彼女を…アルシエルさんを挑発するようにそそのかされたんじゃないか?多分お前の彼女への意識を利用」
返答は、彼の口ではなく、机と拳が代行した。
「…国王なんだな」
彼がそう言ったところで、入り口に待機していた衛兵がおもむろに動く。
かつての兵団長へ向き直り、彼に送る最後の言葉は、
「お前はもう要らないそうだ」
「うああああああああああっっ!!!!!」
「ガルザードッ!!!」
いい加減に限界が来た。
ガルザードの掌から爆熱が放たれる。
屈強な兵といえども、魔術に耐性のない彼らなどは、ガルザードにしてみれば的とそう変わりはしない。
「ガルザード!よすんだ!!」
「くっ…!!」
しかし、
「おいおい手を出されてしまったぞ」
「つまみ出すか」
「もうただの木偶だからな」
二人の衛兵は何もなかったかのように会話をしていた。
間違いなく、炎に包まれたはずの彼らが。
「貴様ら…それは…!?」
「王が直々に施してくださったものだ、元兵団長サマ」
「馬鹿な!!王はまだ年端もいかない…」
「うるせえんだよ」
横薙ぎに振るわれた剣を、ガルザードが腕で受け止める。
重い音が響き、何かが折れ、砕けているのだというのがありありと伝わる。
「ガルザード?!無茶だ!!」
「ぐうぅぅっ!!」
「よぉ、お得意の魔術だろぉ?!それでも王様には敵わないってかぁ?!」
鉄腕。
白兵戦を苦手とする魔術師であるために、実戦を考慮してこの術を最初に習得する者も多い、基本の結界魔術。
ガルザード程の魔術師ともなれば、大砲の一つや二つでも持って来ない限り打ち破ることもできないはずだ。
にも、関わらず。
「馬鹿な…ッ!!」
「こいつが!お前もビビッて手を出せなかった禁術だァ!!」
「(…禁術?!)」
魔術師であるからには、常に新たな魔術の創作や、既存の魔術の進化、変性を追い求めるもの。
その中で生まれてしまった、イレギュラー。それが禁術。
副作用がある、環境や生命に与える害が大きすぎる、単純に強力すぎる…。
理由は様々だが、生み出した魔術師、或いは功績の大きい権威ある魔術師によって指定、使用を禁止される。
それが、使われている。
「戦争に向けての実験台か!!」
「ほらよォ、俺も忘れないでくれよ!」
ガルザードに、もう一人が襲い掛かる。
振り上げられた剣は、とてつもないスピードで彼の脳天を狙う。
今度ばかりは対応出来たのか、ガルザードの瞳が輝き、彼の周囲を結界が覆い、二人の男を弾き飛ばす。
「逃げるぞ!!」
「あ、あぁ!!」
不意に飛ばされた衛兵たちは、後頭部を強打したのか、起き上がる気配がない。
ダメ押しとばかりに、ガルザードがクイっと指を曲げ、部屋の入り口を地層のように褶曲させ、ドアが開かないように小細工してから逃げる。
「…ドアごと吹き飛ばしてくるぞ」
「いや、気絶したなら問題ない…俺は“あの術”を…よく知っている」
「…?」
事情を知らない人間が、ボロボロのガルザードを見て悲鳴を上げたり、或いは見る影もなくなった応接室のドアに集まったりする。
混乱に乗じ、何とか場外へと飛び出した。
「まず伝えておかなくてはならないこと…一つは国王という人間の恐ろしさ」
「え?でもガルバンディア国王って…」
「先王の病死に伴って即位した…当時はまだ8歳くらいの…」
現在でも、政治を動かす手腕こそさすが王家の血筋と言いたいところだが、彼が未だ子供であることには変わらない。
そんなものが恐ろしいといっても、彼が敷く軍事態勢こそ脅威ではあるものの、いまいちピンと来ない。
「…そう、先王は“病死”した、そして彼のたった一人の息子…“そいつ”が即位した」
「何が恐ろしいってのよ」
「それが、“世間一般の認識”ということだ」
「…?」
少年の目には焦りが浮かび、その緊張感をダイレクトに伝えてくる。
冗談を言っているのではない、ということがよくわかる。
「今までも怪しいと思ったことはあった、けどよう、とても信じられることじゃないし、有り得ないはず…そう思ってたから放置してた」
「…なにか、裏が?」
「…裏なんてもんじゃない」
まくしたてて息が荒くなった彼は、一拍置いて息を整える。
それは病名を伝えなくてはならない医師のようにも見える。
「いいかい」
そして彼は、告げた。
知ってはならない、しかし知らなくてはならないことを。
「あいつは本物の王じゃない、すり変わった別人だ」
「…は?」
「別…人?」
この国にそれほど長くはないシオンはさほどショックはないが、シエルからしてみればとんでもないことだ。
自分が一度は真っ向から対立した国、そうであっても、仲間と出会い、住まい、一期一会を開店した、その国が、
まったく知らない人間に操られていたというのだから。
「…いったい…いつから」
「即位したときから」
その質問は予想していたといわんばかりに、ノータイムの返答が帰る。
「…どうやって?」
「王家のキナ臭い話はずーっとあったんだ、それこそ、先王が病死に見せかけた謀殺の被害者だなんて話は前から出回っていたさ」
「…そんな噂を信じろと?」
「そんな噂なら全部辻褄が合うんだ、それに“奴”が本格的に動き出した今、もはや明るみになるのは時間の問題さ」
「…謀殺は良いとして、すり替わったのは…」
「そのときに、その一人息子も殺された…残ったのは子供と見てくれの変わらない真犯人のみ、即位は簡単だったろうな」
シエルは頭を抱える。
国家転覆とか、そんな話ではなく、見ればわかるように、その真犯人は全面戦争を起こそうとしているのだから。
「…どうなってるんだ」
「…あのガキ…国王を利用して力をつけようとした私が馬鹿だった…噂は本当だったようだ」
「噂って…謀殺の話か」
「…どうやらそいつには国王のすり替わりというおまけもあるらしい…妙なガキに御教授頂いたがな」
城を抜け出し、路地裏に潜む二人。
追手はいないようだが、のんびりとはしていられない。
「…そりゃ、あんな狐みたいな狡猾なこと、子供がそうそう思いつかないか」
「だが、見た目は即位以前に見たものと同じだぞ…いや、禁術を扱うほどの魔術師なら…顔を変えるなんて造作もないか」
「…そうか!!」
「そのようだ」
鍵となったのは“魔術師”。
ガルザードをシエルにぶつけ、処分と、その後殺害を図ったのも、
シエルをガルザードに挑発させ、国外退去を命じる口実を作り上げたのも。
「君たちのような魔術師に勘付かれることを恐れて…?!」
「…そいつだけは見事に打ち破ったみたいだな」
ギリギリのところだった。
例の獣人の少年がいなければ、国王の行動に不信を抱くことも無かったろう。
何も知らない衛兵を通し、ガルザードが役人の男と面会する機会を得られなかったら、疑念は無かったろう。
「…けど、なぜ面会が許されたんだ?」
「決まっている、禁術の実験も兼ねて、あの場で最初から処分する気だったんだ」
「…君を舐めてたみたいだ、王も、私も」
空には月が浮かび、星々が暗い夜道を照らしてくれる。
「…行こうぜ」
「どこに?」
「逃亡者にアテなんかあるかよ」
ガルザードは何かを吹っ切った。
彼の折れた腕はいつの間にか治癒されている。
「君が回復魔法を?」
「…気が変わったんだ」
世界は動き、まだ隠された真実が闇となって視界を覆う。
しかし二人の魔術師は歩みを止めない、止められない理由が出来た。
小さな獣人は問う。
「強力な魔術師が世界を救う話は飽きちゃったかい?」
しかし、彼女たちは淀みなく答える。
「「私たちは、平和に弁当を売りたいだけ」」
彼は、
「俺は…」
彼の答えは、まだ出ない。




