第1話 封印の儀
「それでは、本日もよろしくお願いします」
王城内にある祈りの泉にて。ロザリー・エクラは騎士に付き添われ、泉へ向かった。姉のクロディーヌ・エクラも、その後ろに続いている。扉が閉まる。
「じゃあ、お姉ちゃん。お願いね」
「ええ」
ロザリーは満面の笑みを浮かべる。クロディーヌはで静かに微笑み、泉に身体を浸した。そしてそのまま祈りを捧げ始める。泉は輝きを増す。ロザリーはその横で、のんびりと本を読んでいた。
光が収まる。クロディーヌは泉から出る。ロザリーは本から顔を上げた。
「終わった?」
「終わったわよ」
「そう。じゃあ、水かけて」
「……ええ」
クロディーヌはこっそり持ち込んだバケツで、ロザリーに水をかける。ロザリーはすぐさまタオルで体を拭いた。
「これでよし。お姉ちゃんもさっさと着替えて」
「そうね」
クロディーヌが着替えを終えると、ロザリーは扉を開ける。扉の先には、王太子であるオーギュスト・グロワールが立っていた。
「ロザリー、お疲れさま。体は冷えていないか?」
「大丈夫。でも、ありがとう」
オーギュストはタオルでロザリーの肩を包む。
「オーギュスト様、いよいよ明日ね」
「よろしく頼んだぞ」
二人はくすくすと笑いをこぼす。使用人たちはそっと視線をそらした。
クロディーヌは壁際で肩をわずかにこわばらせて立っていた。
「……おい」
そんなクロディーヌに王太子の護衛騎士をしているテオドール・ベルトランが近づいた。
「……冷えているぞ」
彼は上着を脱ぎ、それをクロディーヌの肩にかけた
「……何も、言わないのか?」
「……ええ。これでいいの」
「だが!」
言い募るテオドールの唇に、クロディーヌは人差し指をあてた。そのまま耳元に近づき、そっと何かを囁く。その瞬間、テオドールは視線をそらした。
◇
グロワール王国では、数百年に一度魔王を封印し直さなくてはならない。神託を受けた封印の聖女は、一年間王城の中にある祈りの泉で祈りを捧げ、最後に封印の儀を行う。
本日は封印の儀。ロザリーは祭壇の前に立った。手を組み、祈りを捧げようとした、その瞬間だった。
「聖女、覚悟!」
群衆の中から魔族が飛び出す。彼は祭壇の前に立っていたロザリーの腹にナイフを突き立てた。赤い血がほとばしる。オーギュストも、クロディーヌも、テオドールまで息を飲む。
「……これで、魔王様が……!」
祭壇からは黒い霧が上がり始めた。……だが、ロザリーはにんまりと笑った。
「……お姉ちゃん、やって」
「……でも」
「早く!」
クロディーヌの手は震えている。それでも。
「……封印」
彼女がそうつぶやくと、柔らかな光が走る。祭壇を包み込み、黒い霧を押し戻していく。
「……私が聖女だと思った? 残念でした♪」
魔族は「クソっ」と叫びながらナイフを勢いよく引き抜く。赤が噴き出す。だが、ロザリーは笑っていた。視界がすごい勢いで狭まっていく。
「……っ、ロザリー!」
オーギュストの声が、聞こえた気がした。
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