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親友の弟で姉の親友のわたしたち  作者: りなる あい
第四章:

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30/30

4-3. 春風と、指先の鼓動

(✳︎綺夏視点)


 カフェを満喫して、私たちは桜が咲き誇る公園へやって来た。ベンチもあったけれど、思輝くんは敷物を持って来ていて…せっかくだからと桜の下に座ることにした。


サンドイッチを広げると


「うわ、めっちゃ美味しそうですね」


サンドイッチを大きく頬張る姿は、どこかあどけなくて、普段のクールな印象とのギャップに思わず胸が跳ねる。


「いただきます」


思いきりよく口を動かす姿に、ついふふっと笑いがこぼれてしまう。


「いただきます」


私はサンドイッチを小さくかじりながら、隣の横顔に視線を向けた。 パクっと一口食べて思輝くんを見ると


「なんで笑ってるんですか?」


と笑顔を向けてくる。


 うわぁ…なんか、幸せだな…


 この瞬間をずっと記憶に残せたらいいのに…そんな思いが春の甘い風に乗って飛んでいく。


「一口が大きいなって」


「ははは、そうかもしれないです」


 二人で桜を見ながら食べるサンドイッチは格別に美味しかった。


 すると、ひらひらと舞い落ちる桜の花びらが、ポンっと思輝くんの頭に乗った。パッと取ろうとしたしたけど、その手を一瞬とめる。


急に触れたら、びっくりしちゃうよね…


手を伸ばしてとるか、声をかけるか、一瞬迷った。


 私の戸惑いの表情に気づいたのか、思輝くんはすぐに声をかける。


「何かありました?」


「今ね、ちょうど花びらが思輝くんの頭の上に乗ったの」


あー、そうゆうことか、と妙に納得した顔で


「じゃあ、剣さんが取ってくれませんか?」


と頭を下げた。


 やっぱり…思輝くんってツンデレの猫みたいだ…いつもはクールだけど、ふとした時にまるで甘えてくるような…私に懐いてるのかな?と変な錯覚を起こす。


 髪の毛に乗った花びらをそっと掴む。 指先に乗った淡いピンクの花びらを見つめる。捨てるのが惜しくて、なんだかそのまま手放したくなかった。 わたしはさりげなくカバンの内ポケットの端に忍ばせた。


「ありがとうございます。」


 手元から顔を上げると優しい笑顔があった。見つめられた瞬間、心が落ち着かない。

 ふっと向けられた穏やかなまなざしに、胸の奥がキュッと締め付けられる。 ――いけない、これ以上甘えちゃダメだ。 思輝くんはちなつの弟で、失恋した私をただ気遣ってくれているだけ。頭ではそう分かっているのに、春風が運んできた香りのせいで、胸の奥がほろ苦く熱を帯びた。


次はきっと素敵な恋をする。

今は休憩期間。


あたたかく心地いい風が私の頬をなでる。

大丈夫。


 私の心を元気にさせてくれて、ありがとう思輝くん。彼が、今そばにいてくれることで私の心が癒やされていくのがわかった。


 サンドイッチを平らげ、次は思輝くんが作ったお菓子をいただく。


 四角いクッキーで周りにアーモンドが付いていて、普通のクッキーより手が込んでいることが一瞬でわかった。


「このクッキー、すごい!お店でしか見たことないよ…」


「これ、アイスボックスクッキーっていって、冷やして切ったらできるんです。確かに手は込んでるけど、作り方は意外と簡単ですよ」


 サラッと言うところを見ると、本当に作り慣れていることがわかった。


「美味しい…!これ、好き」


「よかったです。美味しいって食べてもらえるの、嬉しいですね」


 差し込む木漏れ日に照らされた、思輝くんの横顔が眩しかった。


「マフィンもいただくね。これ、どんな味なの?」


「抹茶と紫芋で、中にクリームも入ってます。この抹茶の上に乗ってるのは白玉です。」


「ちょ、え?お店経営してるの?そんなおしゃれなマフィン作れるんだ!すごい!白玉がのったマフィン、初めて見た!」


 私は大興奮だった。お昼を食べたのに、それでもどっちの味も食べたいと思ってしまう。


「お腹いっぱいなのにどっちも食べたい…どうしよう…」


どちらにするか悩んでいたら


「「じゃあ、二人で2つの味を分けっこします? 残りは後で食べたらいいですし」


「いいの?お願いします」


 思輝くんがマフィンを一つ取り、……優しく掴んで、きれいにふたつに割ってくれた。見ただけでフワフワに仕上がっているのがわかるほどだった。


「はい、じゃあ、剣さんは白玉2個のほうあげますね」


「ありがとう!早速白玉から食べよっと」


白玉と生地を一緒に口へ運ぶと、程よい甘さと抹茶の苦味が広がった。


「天才的に美味しい…白玉ってマフィンに合うんだね…」


「ね、剣さん、ちょっとこっち向いて」


 タメ口だ!と少しキュンとして


「ん?」


と横を向くと、思輝くんの手が伸びてきて、私の唇近くに触れた。


「え…え…?」


「マフィンついてました。子どもみたいですね」


 ニヤッと笑う思輝くんの笑顔に心臓がトクンと音を立てた。


 口元についてたマフィンを、こ、こんなスマートにとるなんて…わたしは動揺した。あまりにも流れるような自然な動きに、わたしはドギマギしてしまう。

 これって、他の人にも自然にやってるのかな……。慣れた仕草なんだと言い聞かせても、一度跳ねてしまった心臓の音は小さくなってくれない。


「ほんとだよね、子どもみたいって自分でも思う。恥ずかしすぎるよ…」


 顔に熱が集まっていくのを感じて、食べることに集中する。さっきまですっごく美味しかった抹茶の味がわからなくなるくらい、心の中がいっぱいいっぱいになっていた。


「次は紫芋の方、食べますか?」


「うん。じゃあ、私が半分こするね」


 ふわふわのマフィンをパカっと割ると、中から美味しそうなクリームが顔を出す。わたしの割り方が下手で、クリームが垂れそうになってしまう。


「あ、クリーム落ちそう」


 焦っていたら、パッと手を握られた。

クリームが垂れかけた方のマフィンを、思輝くんは私の手からつまみ上げた。


「危なかった〜剣さんの洋服が汚れるところだった。」


 受け止めたマフィンをその口に放り込み、指についたクリームをペロッと舐めとる。


こ、この人はー!!!色気がどうなってんの?!


 常習犯だ…。絶対。手を握られたかと思うと、クリームをぺろっと舐める。カッコいいと可愛いが同時にきた…いちいちドキドキする自分がバカらしくなる。


「危機一髪だったね。ありがとう」


 なんとか返事をしたけど、こっちのマフィンも味がわからなそうだと、食べる前から苦笑いした。


 一口食べて、しっかり味わいたくてそっと目を閉じる。 視界を閉ざすと、舌の上に広がる紫芋の上品な甘さと、なめらかなカスタードのコクがより鮮明に際立った。


 目を開けると、思輝くんが私の方を見ていることに気づいた。


「な、なんでこっち見てんの?」


「いや、味わって食べてるのかな?って」


 くくっと笑う横顔に愛しさを覚えた。え、ん?愛しい?これ、恋の感覚に近いかも…


うそ…


 そう自覚した途端、背筋が伸びた。いやいや、ダメダメ。愛しいじゃなくて、親友の弟で可愛いなってちょっと思っちゃっただけ?


「うん、すごく美味しい。わたし、抹茶が好きなのはもちろんだけど、紫芋味ってすっごく惹かれるんだよね。例えばさ、ジェラード屋さんで見つけたら絶対選んじゃうくらい」


「そうなんですか?へぇ〜知らなかったです。剣さんの好きなものが一つしれて嬉しい」


 食べ終わった思輝くんは片足を立てて、そこに手を置いて座り、遠くを見ていた。大人で、男性っぽい佇まいにまたもやドキっとしてしまう。


さっきまでは弟みたいで可愛かったのに、次の瞬間には息が詰まるほど大人びて見えて――。くるくると変わる彼の雰囲気に振り回されてしまう。


 私がマフィンを食べ終わると、思輝くんはゴロンと敷物の上に寝転がった。無防備な姿を見て、これは猫のへそ天というやつ?と一人で笑いそうになる。


「あれ…なんか、ここ痛い…」


むくっと起き上がると、私に背中を向けて、Tシャツのすそを半分くらい捲り上げた(まくりあげた)。

逆三角形の引き締まった背筋があらわになり、目のやりどころに困る。


「え、急にどしたの…って、え?これなに?」


なんとか背中に目線を戻すと、青いアザと赤い大きな傷が背中に付いていた。

い、痛そう…

見るからに、さっき怪我したようにも見える。


「どうなってます?」


「アザと赤い引っかき傷みたいなのがあるよ。もっと上からついてる。まくっていい?」


私が左手でTシャツを上げると、かなり上の方から引っかき傷が始まっていた。


「傷、かなり大きいですか?」


すっごく痛そう…

でも、その時なぜか、わたしはその傷を触りたいと思った。


「ここから付いてるよ」


私は背中の傷にそって、手をそわせた。

すべすべした肌から筋肉が浮き上がっている。

その熱と硬さを指先から感じる。

青アザのところは流石に触れないけど。

自分から触っておいて、わたしは指先で自分の心臓の動きを感じていた。


指先から伝わる、すべすべとした肌の熱と硬い筋肉。 舞い散る桜の花びらの下、周りの雑音がすーっと遠のいていく。 ドク、ドク、と波打つ自分の鼓動が、指先から彼へと伝わってしまいそうなほど、息をするのも忘れて見入っていた。


どんなに激しく動いているんだろう、わたしの心臓…


「くっ」


思輝くんから苦しそうな声が聞こえて、わたしはハッとした。

痛いこと、してしまったかも!


「さ、触ってごめん!痛かったよね」


「いや、全然痛くないから気にしないでください。ただ…背中が…くすぐったくて…」


「え?!くすぐったい?」


こんなにドキドキしながら触っていたのに、思輝くんはくすぐったくて、それどころじゃなかったってこと?

わたしとあまりにも違いすぎて、私は笑いが止まらなくなった。


「はははっ」


「え?なにがそんなに面白かったんですか?」


Tシャツを下ろして、私の方を向いて思輝くんはあぐらをかいた。

ちょっと、距離近くない?とも思ったけれど、それよりも笑いが勝ってしまう。


「くすぐったいなら、くすぐったいって言えばいいのに!ははは。苦しそうな声出すから、びっくりしたじゃん」


わたしは笑いながらパシパシと思輝くんの腕を叩いた。


「いや、だって、くすぐったくて急にのけぞったらキモいじゃないですか」


「いや、でもくすぐったいのは抑えられないもんじゃん、普通」


私たちはケラケラと二人で笑い合った。

あんなにドキドキしていたのに、今はそのことなんてすっかり忘れてしまうくらいに…


今、この瞬間が、きっと私のこれからを支える思い出になる。

そよ風で飛んでいく桜の花びらが、まるで流れ星のように感じた。

その花びらに託した「次付き合う人とは、こんな時間を過ごせますように」と……

【潜在意識の視点から紐解く『第4-3話の答え合わせ』】


①「安心感」の満タンが心のバリアを自然と解く

心地よい五感の満たされや温かな空気の中で過ごす時間は、潜在意識の「安心・安全の土台」を作ります。「弟だから」「今は休憩中」と頭でブレーキをかけていても、十分に心が満たされたことで守りの警戒心がゆるみ、素直な感情が自然とあふれ出しました。


②身体の反応(鼓動)は「潜在意識の本当の望み」

彼を守り庇われた証(傷)に触れた時の高鳴る鼓動は、頭の言い訳を超えた「魂の本音」のサインです。最後はお互いの純粋な笑顔で締めくくられたように、怖がらずに「今ここにある心地よさ」を選ぶことが、次の素敵な未来を引き寄せる一番の近道になっています!

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