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ヴィータが願う世界線~神ノ箱庭(外伝)~  作者: SouForest


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6/6

ep.6静かに形になる未来

システム:表記修正 20260404

「他にもいっぱい本があるのに、リリアはこのお話ばかりだね」

「だって、物語に出てくる、お人形さんはお母さんと名前がいっしょなんだもん! 」


 父親はにっこりと笑い、娘の頭を優しく撫でた。読み終えた物語の余韻がまだ胸に残っているのか、

 その手つきはいつもより少しだけ丁寧だった。


 午後の陽ざしは少し傾きはじめ、庭の芝生には長めの影がゆっくり伸びていた。昼の熱気はすっかり落ち着き、風が通るたびに木々の葉がさらりと触れ合う音がする。遠くで鳥が一声鳴き、そのあとに続くように、砂利道を踏む控えめな足音が近づいてきた。


 夕暮れにはまだ早いけれど、どこか落ち着いた気配をまとった歩みだった。


「……お兄さま、ご機嫌よう」

「あ、クイニーおばちゃんだ! 」


「うっ……お、おばちゃん……。リリア、しばらく見ないうちにずいぶんと大きくなったのね」

「わたしね、もうすぐ屋根より大きくなるよ! そしたらお父さんの代わりに店長さんをするんだっ」


 クイニーは、ビッグサイズのリリアが大きな手で料理を運ぶ姿を想像した。その光景があまりにも微笑ましくて、思わず口元にやわらかな笑みが浮かぶ。


「フフフ。リリアはお父さんが大好きなのね」

「うん、だぁいすき! あ、おばちゃんが来たってお母さんに知らせてくるねっ」


「待ってリリア! わたくしのことはお姉さんって ――」


 クイニーは慌てたようにリリアを追った。庭から家へ向かう小道を裾を押さえながらも歩みは速く、しかし乱れのない所作で、揺れる影の中をすべるように進んでいく。その姿を、ロッキングチェアに座るヴィータが静かに目で追った。


「ぶはっ。お姉さんって。クイニーはしょうがないな」


 そんなヴィータの笑い声に重なるように、庭の入口から控えめな気配が近づいてきた。


「アハハ……。ヴィータさん、お加減はいかがですか? これクイニーさまが摘んできた薬草です。煎じて飲むと痛みが和らぐそうなので ――」


「こんないっぱい……。いつもすまないね。……それにしても、夫になったというのに、まだクイニーを『さま』付けで呼んでいるのか? 」


「えっ、あぁ……。その、なかなか癖が抜けきらなくて……。 ――ヴィータさん、風が冷たくなってきましたから、そろそろ中に入りませんか? 俺の腕につかまって下さい」


「あぁ、ありがとう、マーチン ――」


 ヴィータはマーチンに支えながら立つと、テーブルに立てかけていた杖を持った。左足を少し引きずりながら歩いている。ドアを開けるとリリアが嬉しそうに人形を2つ、抱えているのが見えた。


「お父さん見て! クイニーおねえさんが、ブランとガンドルのお人形をくれたの。お耳がとってもかわいい! 」


 リリアはヴィータに見せるように2つの人形を掲げた。クイニーはやっと姪っ子に、お姉さんと呼ばせることに成功したようだ。ヴィータはクスッと笑うと、2つの人形の頭を撫でた。


「そうか、クイニーおねえさんから貰ったのか。良かったね」


 リリアはとても満足げな顔をした。姪を大いに満足させたクイニーは台所を借りるわねと言って、マーチンと一緒にヴィータの煎じ薬を作り始めている。台所のほうから、薬草を刻む小さな音が聞こえてきた。


 長い銀髪を3つ編みにしてまとめたルードベキアが、そっとヴィータの腕を自分の肩にかけた。彼女は肩に触れた重みを気にすることなく、身を寄せて微笑んでいたが……ふいに表情を変えた。


「ヴィータ? 」

「え? あぁ、すまない。なんだか……幸せすぎて」


 オーディン王の人形物語は、本当は悲惨な終わり方をするはずだった。ヴィータはそれを変えてくれた人を想い……胸が熱くなった。


  ――新しい結末を書いてくれてありがとう。


 玄関のチャイムが鳴った。リリアが小さな手でドアノブを回す。黒髪にサビ色の猫耳をつけた男性が白いガーベラの花束を持って立っていた。


「カナデおにいちゃんだ! 」

「やぁ、リリア。頼まれていた総司さんの新しい本を持ってきたよ」


 リリアはすぐに手を伸ばし、カナデから本を受け取った。表紙には、銀髪の少女がドラゴンに乗って飛んでいるイラストが描かれていた。


 リリアは、とてもとても大事そうにその本を抱きしめた。


本編のルードベキアは、NPCである「オーディンの人形」と同化した林総司でした。

物語の中で書き物が得意な彼は、ヴィータから「オーディン王の人形物語」の悲惨な最後を書き換えてほしいと頼まれます。

その依頼をきっかけにこの外伝が生まれ、ヴィータが望んだ世界線が静かに形になりました。


やっぱり、悲劇よりもハッピーエンドの方がいいですよね。

物語の中で誰かが救われるとき、書いている私自身もまた救われていたのだと思います。


ページの向こうで笑ってくれた彼らに、そしてここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

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