おまけ② 『さくめちゃんとさっちゃん』
梅ちゃんとの特訓は数日続き、それから何日か経過したある日のこと。
夕日が魂の叫びを上げている、そんな時間帯にやってくる者の姿がありました。
「————」
ドアが開いてしゃらしゃらと鈴の音が鳴ると、現れたのは——、
「いらっしゃいませー……ってあれ、梅ちゃん?」
「だから梅はやめなさいってば! もう、全然直らないのね」
「あ、あはは……」
ツンデレ少女、紗倉梅ちゃんでした。
彼女は学校帰りなのか、制服姿で鞄を抱えています。
「……ってあれ、あの人は?」
「あの人? ああ、響子さんのことかぁ。響子さんなら、占いぶらり旅に付き合うって依頼で朝からいないけど……」
「何そのとんでも依頼。あの人付き合わせる必要一切ないじゃない」
「ううん、それがね。響子さんの占いはやけに当たることで有名とかなんとかで」
「じゃあ占い師やめて引退するべきね」
バッサリと言ってしまう梅ちゃんですが、どうやらこの発言が咲ちゃんの中で引っかかったのか、
「あれ? じゃあその時は響子さんが占い師になるの?」
混乱し始めました。
「そうしたら私はここの助手じゃなくなるから……無職? どうしよう梅ちゃん! 私無職になっちゃうよ!」
「落ち着きなさい! そもそもあんた助手の前に学生でしょ!」
「あ、そっか!」
「あ、そっか! じゃないわよ! あと梅じゃない!」
来て早々叫んでばかりの梅ちゃんですが、何も彼女は叫びにくるためだけにここに来たわけではありません。
そのことに気がついた咲ちゃんは、尋ねました。
「そういえば何か用事でもあったの?」
「へ? ああ、うん。ほぼ拉致だったけど、依頼は依頼だったからその報告にね」
「そうなんだ! っていうことは……長縄、終わったんだねっ」
梅ちゃんの話では長縄は一日限りのものらしかったので、今日報告しに来たということは無事に終わったのでしょう。
とはいえ、数日間報告を待って咲ちゃんはそわそわしていたのですが……。
「あ、座って座って! 飲み物、どうする?」
「ミルクティーで」
ぱたぱたと走って準備を始める咲ちゃんを見て、軽くため息を吐く梅ちゃん。
しかしそんな彼女の表情は、どこか楽しそうでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「ええ! ほんとにっ!?」
「ええ。ほんとのほんとよ。一度もミスすることなく跳んでやったんだから」
梅ちゃんはふふんと鼻を鳴らして胸を張ります。
どうやら特訓の成果がしっかりと出たようで、本番でも上手くいったみたいです。
「やったぁっ! 梅ちゃん、やったね!」
そのままへーいとハイタッチをする二人ですが、
「……って、なんであんたがそんなに喜んでるのよ」
「え?」
「いや、え?」
「なんでって……友達だから」
「————っ」
さも当然かのように言う咲ちゃんに、顔を真っ赤にする梅ちゃん。
どうやら彼女はあまり友達というものに慣れていないようです。
「そ、そそ、そうなんだ……へぇ〜」
「梅ちゃん、顔真っ赤だよ?」
「梅じゃないわよ! ……あ、顔真っ赤の方じゃなくて」
何のことか理解出来なかった咲ちゃんは数秒考え、気がつきます。
顔が真っ赤と梅のつながりに。
だから、
「…………ぷ、ぷふ」
それに思わず笑い出しそうになって堪えます。
「も、もう! 忘れなさい!」
「で、でも……ふっ、梅ちゃんがぶふぅっ!」
「忘れなさいったらーっ!」
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「ご、ごめんってばう————」
「…………」
梅ちゃん、と言おうとした咲ちゃんが彼女に睨まれます。
「うぅ……ごめん」
「………………はぁ、もういいわよ」
大きくため息をついたかと思えば、ミルクティーを一気に飲み干す梅ちゃん。そして、
「そういえば聞きたいんだけど、ここって……ん、どうしたの?」
「ぇ、あ、あの怒ってないの?」
「いやそりゃ怒ってないわけじゃないけど……。さすがにあたしだってそんな顔されたら……」
梅ちゃんがちらりと見た先には、涙でウルウルとした咲ちゃんの目があります。
つまり梅ちゃんはこれに負けちゃった、ということなのでしょう。
「そんな顔?」
しかし咲ちゃんには何のことやら。首を傾げて問いかけます。
「……笑ってなさい、ってことよ。あんたはそっちの方が似合うでしょ」
対して梅ちゃん。顔を赤く染めつつそう答えました。
この場に響子さんが居たら、あらあらと言われること間違いなしなその表情に、咲ちゃんは歓喜します。
「ぇへ、えへへっ。梅ちゃ——じゃなかった。えーと。ええっと…………あ、そうだ!」
「忙しそうにどうしたのよ?」
「さくめちゃん!」
「……へ?」
「さくめちゃんだよ! 梅ちゃん!」
頭を抱えて悩んでいたかと思えば、謎の言葉を発し始めた咲ちゃん。
一体何のことか分からず、クエスチョンマークでいっぱいの梅ちゃんですが——、
「紗倉梅、だからさくめちゃん! えっと、ダメ……かな?」
「さくめ……」
「うん、さくめ」
やってやりましたと言わんばかりに大きな胸を張る咲ちゃん。
それを恨めしそうに見つめる梅ちゃんですが、咲ちゃんの視線に気がついてはっとなると、
「……えっと、うん。それでいい」
やや控えめに、けれど恥ずかしそうに言いました。
「やったぁっ! じゃあさくめちゃんだね! よろしくね、さくめちゃんっ」
満点の笑顔で握手と言わんばかりに手を差し出す咲ちゃんですが、梅ちゃんはその手を取る前に言います。
「ちょっと待って。あたしがさくめだったらあんたは。ええっと、そうね……さっちゃん?」
「私、さっちゃん?」
「そう、あんたはさっちゃんなの!」
「ええ、私さっちゃんなんだっ!?」
勢いでぽろっと言った途端、何だかよく分からないテンションになる梅ちゃん。もはやどうにでもなれという精神です。
「ふぅ、ええっとそれじゃ……さくめちゃん?」
「ど、どうしたの。さっちゃん」
「さっき何か話そうとしてなかった?」
「——あ。そういえばそうだったわね。えーと、ここって助手はあんた……じゃなかった。さっちゃん、だけなの?」
「うん、そうだけど。どうしたの?」
「ん、と。その、ね。あのー、うん」
何だか言葉に詰まっている梅ちゃんですが、一体どうしたというのでしょう。
「こほん。——えっとね、あたしも助手出来ないかしら」
「へ?」
「だから、あたしもここで働きたいって言ってるのよ」
「えええーーっ!?」
こうしてツンデレ従業員さくめちゃんこと、紗倉梅ちゃんが仲間になりました。
あとで分かった志望理由は、主に手伝ってもらえたことと、咲ちゃんともっと仲良くしたいから、なんだそうです。
3人目の従業員(&2人目のお客さん)
なまえ :紗倉 梅
ねんれい:15歳
たちば :従業員(助手は咲ちゃんのみ)
しゅみ :音楽を聴く、ぬいぐるみ集め
すき :ミルクティー、可愛いもの(咲ちゃん含む)
きらい :泣かれること、名前を呼ばれること
みため :元気。デコを出したベージュの長髪。ツリ目気味。
咲ちゃんより身長がちょっとだけ小さい。発育が悪い。
ひとこと:だ、誰がツンデレよっ!