44人目 『維澄響子のお悩み相談所』
そこは喫茶店のような、大きな大きな木のお家。
「た、ただいまぁ……」
ドアが開いたかと思えば、疲れ切った表情でふらふらと入ってくるのは、ポニーテールの女の子遊佐咲ちゃんと、
「危ないわよ。……ほら、ちゃんと歩きなさい」
それを後ろから支える、おでこの出た長髪のツンデレ系女子、紗倉梅ちゃん。
彼女たちはちょうど依頼を終えて戻ってきたのでした。
「お外の依頼、お疲れ様です。そんな二人には私からココアとミルクティーを」
それから、二人が帰ってくるのを読んでいたモデル体型のあらあらお姉さん、維澄響子さん。彼女はキッチンから現れ、テーブルにそれぞれの飲み物を置くと、
「今日のお犬さんの散歩はどうでしたか?」
二人を椅子に座るよう促しつつ、にこにこと笑顔を浮かべて問いかけます。
「————わおん、わおん!」
そこへ『お犬さん』という言葉に反応したのでしょう、胡麻たんが光合成から戻ってきますが、響子さんが首を振って再び戻しつつ。
そんなことを挟んで、咲ちゃんたちはというと、一度顔を見合わせ、息を整えるように深呼吸をしてから、
「ばっちりだったよ!」
「いや、危うく逃げられかけたわよ」
「…………あれ?」
呼吸ぴったり……なんてことはありませんでしたが、一応上手くいった模様です。
逃げられかけたようですが。
「あ、でも前は逃げられてばっかりだったけど、最近は逃げられないよ」
「よっぽどのことがない限りは逃げないわよ。今日なんて、姫ちゃんとたまたま会って話に夢中になってたからだし」
「あらあら、それは仕方ないですねぇ……」
「仕方なくないわよ!」
お犬さんの散歩には甘い誘惑がいっぱいだと胡麻たんも頷くあたり、仕方がないのかもしれません。
ともあれ、一度落ち着くために二人はそれぞれココアとミルクティーを口に含みます。
「やっぱりお仕事の後はココア、だよね……」
「ミルクティーは譲れないわよ」
「となると私はコーヒー、胡麻たんはドッグフードでしょうか?」
「————わおん?」
そんな風に、それぞれ感想を述べつつ、相談所でのお仕事も慣れてきたものだとみんなが微笑みつつ。
「あ、そういえば響子さん」
「はい、響子さんです。どうしましたか?」
「前に言ってた、紫さんと祭さんがここで働く……っていう話ってそろそろだよね」
「ああ、あの二人。いつの間にか話してたみたいね」
咲ちゃんがぼんやりと口にしたのは、少しだけ未来の、期待が膨らむお話。
二人が来たらこうしよう、ああしよう、ココアをご馳走しよう……なんて。
「そう考えると、相談所も賑やかになったよね。昔は私と響子さんの二人だったのに」
「確かに、つい昨日のような気がしますね。咲ちゃんや梅ちゃん、胡麻たんが入ってきたのも」
「いつもさっちゃんはココア飲んでた気がするわ。……いや、気のせいじゃないわね」
そう、ココアばかり飲んでいたことはともかくとして、色んなことが相談所ではありました。
咲ちゃんが最初は泣いていたり、梅ちゃんはいつもツンツンしていたり。響子さんはあらあらと、胡麻たんはわおんわおんと。
「…………って、まったりし過ぎよ。まだ相談の予約入ってるんだから」
「さくめちゃん、もう少しだけ」
「梅ちゃん、もう少しだけ」
「甘え過ぎよ。働きなさい。……あと十分だけよ」
ココアの香りにもう少し浸っていたい咲ちゃんと、それに便乗する響子さん。
二人に厳しい梅ちゃんのツッコミが刺さりますが、最後にはデレて。
そんな三人と光合成に戻る胡麻たんですが、そんな彼女たちだからこそ相談所なのです。
そしてそこへ、
「あらあら、二人とも。もうお客さんが来てしまったみたいです」
お客さんの訪問を知らせる、綺麗な鈴の音がシャランシャランと鳴り響きます。
お客さんの訪問とあらば、いつまでもまったりとしているわけにはいきません。
三人は顔を見合わせ、揃って頷くと、
「————いらっしゃいませ。維澄響子のお悩み相談所へようこそ!」
大きな声と満面の笑顔で、そう言うのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
『維澄響子のお悩み相談所』。
何でもそこは、どんな悩みも相談も受け付けてくれるとか。
「どうしよう響子さん! ココア切れちゃった!」
今日も助手の遊佐咲ちゃんは元気いっぱいで、大好きなココアがないことに慌てふためいて。
「いや、買ってくればいいじゃないの」
「あ、そっか」
「……今から買い出しに行くけど、一緒に来る?」
「うん、行く!」
従業員の紗倉梅ちゃんは、厳しいところもありますが、咲ちゃんには甘いところがあって。
「あらあら。それでは私も……」
「いや、相談所なんだから一人は残りなさいよ」
そして響子さんはというと、梅ちゃんのツッコミを右から左へ受け流し、準備を始めて。
これはそんな彼女達と個性豊かなお客さんによる、ちょっと変わった日常のお話です。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
今回のお話で、『維澄響子のお悩み相談所』は最終回を迎えました。
彼女たちの日常はまだまだ続いていきますが、一つの区切り、という形で。
のちほど、活動報告の方でもお知らせしますので、詳しいことはそちらで。
感想等ありましたら、いただけると幸いであります。
今までお読みいただき、ありがとうございました。




