38人目 『賑やか穏やか健やかシンフォニー』
しとしとと、朝から外は雨模様。
胡麻たんは二階に閉じこもったまま出てこないで、響子さんもどこかへお散歩中。
そんな中でも相談所は元気いっぱい。その理由は、
「紫ちゃん! 冷や水が冷たいです!」
「そりゃ冷たくなかったらおかしいでしょ。多少個人差はあるでしょうけども」
赤毛の短髪にTシャツと、ラフな格好の元気なお方。小松里祭さんと、
「祭さん……咲さんが寝ていますので、お静かに……」
顔が真っ黒——ではなく、綺麗な黒髪で顔が覆われた美人さんの藤宮紫さん。
二人が相談所へきているからなのでした。
梅ちゃんはツッコミを、咲ちゃんは睡眠に忙しく、自然と声のボリュームが上がったり下がったりしてしまいますが、それでも起きないのが机に突っ伏すすやすや咲ちゃん。
「ぐっすりですね……!」
「そう、ですね……。祭さんの声で起きないか心配だったのですが……」
「え、私そんなに声大きいんですか……!?」
「比較的大きめな方かと……」
そんな咲ちゃんを、全力ぼそぼそと普通ぼそぼそ声で話すお二人。
梅ちゃんのツッコミの入る余地がないくらい、仲良しなのです。
「…………こ」
そんなオーラを感じたからでしょうか。
ぴくり、と咲ちゃんの体が動いたかと思えば、彼女は何かを小さく呟きました。
「寝言……でしょうか……?」
「寝ながら寝言だなんて、器用ですね……!」
「いや、寝てない寝言はただの戯言よ」
梅ちゃんが若干自信を持ってツッコミを入れたことはともかくとして、一体何をつぶやいたのでしょう。
三人が耳を澄ませてみれば、
「…………ここあ」
どうやら咲ちゃんは、夢の中でもココアと触れ合っていたようです。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「二人ともお待たせ、こちらココアとココアスパゲティになります」
「ココアづくしね」
夢の中でも、夢から覚めても。
いつも心にココアを……そんな志を持つ咲ちゃんですが、今回はお客さんに振る舞う側なのです。
二人にそれらを提供すると、
「これがココアパスタ……ですか」
「そうです! なんかもう、あれなくらい美味しいんですよ、これ!」
「な、なるほど……」
なんかもうあれなことはともかくとして、以前口にしたことのある祭りさんはもちろん、
「あ……。確かにデザート気分で食べられて、美味しいですね。ほろ苦いココア風味の麺に、互いの風味を消さない程度の粉糖……」
「でしょう! そうでしょう! そうでしょうとも!」
「熱い反応ね……」
声の大きさと元気さに差はあるものの、ココアに対して賞賛の言葉を告げてくれて。
「え、えへへ……」
ならば当然、作った咲ちゃんもニコニコになるというもの。
照れつつくねくね、ココアをゴクリ。不思議な動きをしていました。
それから、
「まあ喜ぶのは仕方ないとして……二人は今日どういう相談?」
そんな咲ちゃんの頭を撫でつつ、お仕事を始める梅ちゃん。
彼女の問いかけに紫さんと祭さんは顔を見合わせると、
「えっと……」
おずおずと、迷いの色を瞳に浮かべつつ、紫さんは言いました。
「この相談所のことを、教えていただけないでしょうか…………?」
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「相談所について、かぁ……」
「なかなか難しい質問ね……」
紫さんへの返答を考えようと、ぐぬぬと頭を悩ませる咲ちゃんと梅ちゃん。
助手と従業員とはなんだったのでしょうか。
「えっと、ちなみにどういう理由なの?」
「ほら、あれですよあれ!」
「いや、どれよ」
「私たちが前に相談したことです!」
「……ああ。そういうこと」
やけにアバウトな説明に定評のある祭さんですが、前の相談、と聞けばツッコミいらずの安心説明。
以前紫さんが来た時には、趣味探し兼一日体験相談所を。
祭さんが来た時には、友達のバイト探しの手伝いをどうするべきか、という相談を受けたのですが、どうやらそれらに関連したもののようです。
「あれから、二人で話し合ったんです!」
「バイトをどうするか?」
「そうです! そうなんです!」
ぶんぶんと何度も勢い良く頷く祭さんですが、横ですっと紫さんが手を挙げたかと思えば、
「……補足しておくと、私が相談をしたら、祭さんがたくさんバイトを掛け持ちして調べてくれていたみたいで……」
「……すごく怒られましたよ。ええ」
声を低くした彼女から目を逸らしつつ、声の音量を落としつつ。
ともあれ、そんなわけで二人は改めてこの相談所に来たようです。
「紫さん、この前は保留って言ってたけど、決まったの?」
「あ、いえ……。前に体験はしたものですから、お話として聞いてみようかと思いまして……」
「なるほど」
ひょっとすると、スカウトに成功したかもしれない。
そんなワクワクした様子を見せる咲ちゃんですが、本番はこれからなのです。
「————相談所について、ね」
隣で目をきらりんと光らせる梅ちゃんが、その始まりを告げました。




