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おまけ16 『カーブしたり忘れたり』



 友梨ちゃんと咲ちゃんと梅ちゃん。三人で一般常識の勉強という名目のもと、カラオケへ行ってからはや一週間。

 この日は少しだけ違い、ボウリングに来ており、


「——って感じで、友梨ちゃんとカラオケ行ってきたんだ」


「なるほどぉ……」


 ペッドボトルのココアを片手に、楽しげに話す咲ちゃん。

 それに相槌を打つのは漆原真姫ちゃんです。


 二人は華麗にカーブを決め、見事にストライク……と思いきや一本残りの梅ちゃんに励ましの言葉を送りつつ、話を続けます。


「友梨ちゃんってね、すっごく声綺麗で上手くてすごかったよ」


「それはすごい、ですねぇ……」


「あ、それでね。今度は真姫ちゃんとかも誘おうって話になったんだけど、どう?」


「私が、ですかぁ? ……もちろん、誘ってくれるのなら私は喜んで行きますよぉ」


 友梨ちゃんと約束していたことも、さらりと承諾してもらって。


 この時、ほんの少しだけ。

 それまでどこか寂しそうだった真姫ちゃんが、ちょっぴりと頬を染めたのは内緒です。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



 それから梅ちゃんがカーブをし過ぎてガーターになったり、曲がる前にガーターになったり、真っ直ぐ投げてガーターになったりとガーター祭りがあって、ボウリングが終わる頃にはすっかり空も茜色。


「わひゃあ。ボウリングって案外疲れるよね……」


「そうね、指がガクガクしてるわ」


「さくめさん、カーブばかり投げていましたもんねぇ……」


 公園のベンチに座ってそんな空を見つめるのは、左から筋肉痛にプルプルと震える梅ちゃん咲ちゃんに、本日のあらあらを務める真姫ちゃん。


 ちなみにスコアは内緒です。


「…………ふと思ったんだけど」


 と、まったりしているところで咲ちゃんがハッとなって呟きます。

 プルプル咲ちゃんは一体何を思ったのでしょうか。


「どうしたんですか?」


「えっと、ね。真姫ちゃんってめぐさんと知り合う前って、お外で遊んだりとかしてた?」


「いえ、あんまりですねぇ。お菓子作りはしていましたけどぉ……」


「そっかぁ……」


「いや何よ。何がそっかぁなのよ?」


 梅ちゃんの問いかけに対し、今度はぼんやり咲ちゃん。

 手元に残っていたペッドボトルのココアを一気に飲み干して、そのまま近くのゴミ箱へ華麗にシュート。


 ……入らなかったので取りに行って、直接入れてまた戻って来て。

 そして、


「真姫ちゃんは運動苦手って感じじゃないよね」


「…………?」


 きらんと目を光らせて言う咲ちゃんに、真姫ちゃんは小首を傾げてどういうことかと疑問し、


「……ああ、そういう」


 隣で一人、梅ちゃんが納得したように引き笑いを浮かべるのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「えっとぉ、どういうことでしょうかぁ?」


 二人だけが納得している様子に、またまた小首を傾げる真姫ちゃん。

 それもそのはず、彼女があまり詳しく知らないことなのですから。


「……さくめちゃん、良い?」


「……まあ、姫ちゃんなら良いわよ。というか隠す必要はもうないわよ」


 隣では何やらこしょこしょ話が行われていますが、そんなものはもういらないそう。

 頬を赤らめる梅ちゃんに、咲ちゃんはうんうん、と頷くと、


「————実はね」


「重い話みたいになってるわね」


「気合入ってますねぇ」


 ダメでした。


 今の今まで秘密にしなきゃと思っていたことは、そう簡単には解除出来ないのです。

 なので咲ちゃんは、カバンをごそごそと漁ってまたまたペッドボトルのココアを取り出し、口に含みます。


 するとあら不思議、たちまちに咲ちゃんから緊張が抜けていって、そこにはパーフェクトな咲ちゃんが。

 ココアの美味しさにほっぺたが落ちそうになっていることはともかくとして、彼女はゆっくりと口を開きます。


「私たちね、運動が苦手だったんだ」


「苦手……ですかぁ」


「うん。さくめちゃんがしに来た相談もそれでね、長縄練習してたんだぁ」


 つらつらと、ちょっとした昔話を……というにはそんなに経っていませんが、小話をしていきます。

 縄に梅ちゃんが怒っていたことや、名前を呼んだら怒っていたこと。

 それから怒っていたことを。


「……って感じで」


「とっても怒ってたんですねぇ……」


「あ、あの時は色々と余裕がなかったのよ……」


 そう、確かに梅ちゃんの言う通り、今の梅ちゃんは怒りん坊ではなく、ツンデレツッコミガールなのです。


「それで、えっと……あ、そうそう。私たちそんな感じで運動が苦手だったんだけど、いつの間にか出来るようになってたなぁって」


「なるほど……」


 そんな話を聞いて、今度は真姫ちゃんがぼんやりと空を眺め始めます。

 オレンジ色だった空も、少しずつ暗くなりつつある空を。


 そして、一言。


「じゃあきっとそれはぁ、お二人がたくさん頑張ってたからですよぉ」


「そういうものかしら」


「そういうものですよぉ。最初がどんなものでも、数を重ねれば変わるものもあるんです。私とめぐさんのように……」


 なんだかとても良い雰囲気……のはずが、めぐさんの名前を出し、恍惚な表情を浮かべる真姫ちゃん。

 とっても幸せそうな彼女を見て、咲ちゃんと梅ちゃんは顔を見合わせて笑います。


「私、ココア飲んだりいちごパスタ作ってばかりだった気がするけどなぁ」


「そうね、あたしも……ってさっちゃんのそれは間違ってないわよ。成果は別としてね」


 一日一ココアを志に掲げる咲ちゃんに厳しいツッコミが入りますが、最後に少しばかりのデレがあって。


 そうして最後は、三人ともが空を見つめて————、


「……ねえ、さくめちゃん、姫ちゃん。私ね、今気がついたんだけど」


「どうしたんですか?」


「どうしたのよ?」


 笑みがこぼれる二人の顔を交互に見つめて、咲ちゃんは言いました。


「…………さっきのお店に財布置いて来ちゃった」


 二人が口を開けて驚くような、困った笑みの一言を。

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