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31人目 『幸子さんは向上心をお料理に』



 幸子さんが恋愛相談にと来た結果、由美さんにおつまみを作ることになってはや二週間。


 ようやく特訓の成果が出て、とうとうその日はやって来ました。


「……それで、ワタシが呼ばれたわけねぇ?」


 野生のお犬さんが遠く彼方へ吠えたり吠えなかったり、それに胡麻たんが返事をしたり。そんな月が綺麗な夜のこと。


 顔をとろんと赤くして、相談所を訪れたのは酔っ払いお姉さんこと真鍋由美さんです。


「いや、なんでもう酔ってるのよ」


「さっきまで響と飲んでたのよぉ。それで、途中で響が伝え忘れてたって」


「あれ。じゃあじゃあ、その響子さんは?」


「ゆうちゃんと飲んでるわよ、一緒に連れて来たほうがよかったかしらね」


 どうやらゆうさん、響子さん、由美さんの三人はすっかり飲み友達として仲良くなっているよう。


 そんな大人組の大人な雰囲気を想像して、咲ちゃんが目を輝かせつつ、ココアをくいっと飲み干して、


「————由美さん」


「ん、どうしたの……ってやけに真剣ね。それだけこの呼び出しが重要なもの、と思ったほうが良いのかしら」


 月の光を浴びて、魔性を瞳に宿した——ような気がするだけの咲ちゃんの真剣さに、由美さんが酔っ払いモードを解いて真剣に向き合います。


 それはさながら真剣白刃取りをする直前のように。

 そして、


「幸子ちゃん。そのおつまみ、もらうわ」


 奥のキッチンから出て来たエプロン姿のお客さん、灰村幸子さん。

 彼女は由美さんの言葉に驚き、しかしすぐに喜んで、


「は、はい……!」


 この日のために練習をしたおつまみの数々を、由美さんに出していくのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「あら、美味しいわね。この……レバニラ?」


「えっ、ニラレバじゃない?」


「どっちも見た目も中身も変わらないわよ。ニラレバでもレバニラでも」


 そんなこんなで幸子さんが作ったのは、ニラとレバーを炒めたものに、魚の煮付け、ポテトサラダ等々、おつまみです。


 酔っ払いお姉さん由美さんが大好きな、おつまみなのです。


「……これはなかなかね」


「ほ、本当ですか……!?」


「ええ。これで二週間なんてワタシ驚いたわ。幸子ちゃん、料理の才能あるわよ?」


「わぁ……っ!」


 しかもそれは、努力の甲斐あってしっかりと由美さんのお眼鏡に叶って。

 思わず幸子さんから喜びの声が漏れます。


 ですが、幸子さんはほくほくと喜ぶだけではありません。はっとなって顔を上げると、


「あ、でも、えっと由美先輩。その、今回はこの二人に教えてもらったんです」


 しどろもどろになりながらも、師匠二人を紹介しました。

 突然のことだったので、梅ちゃんは意表を突かれてデレ百パーセントになり、咲ちゃんはえへへと照れて。


「……頑張ったのね。二人も、幸子ちゃんも」


 由美さんはそんな彼女達を、それから幸子さんを順に見つめて、微笑みます。

 そして数秒の間を挟み、


「幸子ちゃん、一ついいかしら」


「へぁ、は、はいっ!」


 酔っぱらいはどこへやら、キリッとした表情の由美さんは、言いました。


「……これからもたまに作ってもらえないかしら?」



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「……終わったね、さくめちゃん」


「そうね、さっちゃん」


 由美さんが幸子さんの料理に惚れて、仲が進展して。

 そうして残ったのは咲ちゃんと梅ちゃんの二人と二つのカップだけ。


 胡麻たんは夜の街へ繰り出しました。


「二週間くらいだったけど、すごい上達だったよねぇ。幸子さん」


 懐かしむように言う咲ちゃんは、一仕事を終えた後のココアを口に含んで、思わず笑みが漏れます。


 まるでお酒を飲んでいるかのようなその雰囲気に、梅ちゃんが笑いを堪えつつ、


「まああたし達に比べるとずっと早いわね。メニュー覚えるのも時間かかったし……いや、そもそもこの店のメニューが多すぎるだけなんだけど」


「私もさくめちゃんに覚えなさい、って言われてから頑張ったなぁ……」


 咲ちゃんの発言に目を丸くして驚きつつ。


「さっちゃん、よく覚えてたわね」


「さくめちゃんに言われたことだもん、当たり前だよ」


「——っ」


 そう、咲ちゃんと梅ちゃんが出会ったばかりの頃、料理ができないと言う咲ちゃんに、梅ちゃんはつっこんだのです。

 それは今は照れで声が出せない梅ちゃんの、ツッコミ伝説の始まりの瞬間でした。


「だから響子さんも最近いないのかな?」


「……っていうと?」


「ほら、私達が料理出来るようになったからいないのかなぁって」


「ああ、そういうこと。まあ料理を含めて仕事が出来るようになったからでしょうね。……半分くらいはあの人が自由人だからってのがあるでしょうけども」


 互いの成長を認めると、二人は自然と顔を合わせて、また笑って。

 とうとう咲ちゃんと梅ちゃんは、一人前の助手と従業員へと成長したのです。


「…………あ。でもこの前依頼されてた猫に逃げられちゃった」


「……一人前までの道のりは長いわね」


 残念ながら、まだ一歩足りませんでしたが。

 けれど幸子さんに教えられるくらい料理も上手くなって、開発までして。


 今日もまた二人は少しだけ成長するのでした。

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