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2人目 『ゆうさんに降参』



 ちょっとしたハプニングがありましたが、響子さんもお買い物から戻ってきたところで、改めて。


「こちらカルボナーラです」


 咲ちゃんがゆうさんの前にカルボナーラを置きます。


「遊佐さん、ありがとうございますー。これは遊佐さんが?」


「あ、はいっ! 料理は全然なんですけど、スパゲティだけは得意で!」


「あら、私だって得意ですよ」


「ゆうもー、得意ですよー」


「え、えぇぇぇぇ…………」


 自信満々に言った咲ちゃんが、どんどん萎縮していきます。

 本日のお客さんのゆうさん、それから響子さん、どちらも咲ちゃんにとっては料理の面でも大人なようです。


「ゆうはー、中でも苺パスタが得意ですねー」


「えっ」


 しかし大人な女性……のはずなのですが、何とも不思議な名前がゆうさんの口から飛び出ました。


「い、苺パスタ……?」


「あら。咲ちゃんは食べたことありませんか?」


「ないけど……、美味しいの?」


「第一印象は困惑するけれど、結構美味しいんですよ。ね、ゆうさん?」


「あ、最近のゆうの流行りは納豆パスタでしょうかー」


「えっ」


「確かに苺パスタは見た目に驚きますねー。ゆうも最初は何これって思いましたもんー」


「苺パスタに限らず、フルーツを使った甘めのパスタは、どれも共通して見た目に抵抗感を感じてしまいますものね」


「ですよねー」


「……なんでこの二人は会話成立してるんだろ…………」


 変わったパスタを響子さんが食べていたことも驚きですが、大人二人組が何故か会話を成立させている事の方が衝撃的な咲ちゃん。


 先程の一件もあって、咲ちゃんにとっては苦手な相手となりつつあるゆうさんですが、どうやら響子さんならば問題ないようです。


「あ、それではいただきますねー」


 いただきます、と丁寧に言ってカルボナーラを口に含むゆうさん。

 この瞬間ばかりは咲ちゃんも緊張が走り、じっと彼女を見つめます。


「————美味しいですー。あと三回くらいお喋りしたいくらい」


「あらあら、何回でも来て頂いて構いませんよ」


「本当ですかー? それならまた来ますねー」


「…………あの、お代わりの間違いなんじゃ? いや、三回もお代わりっていうのもおかしいけど!」


 ゆうさんが来てからというもの、焦ったり、ミスしたり、泣いたり、突っ込んだりと咲ちゃんは忙しいですね。


 とはいえ、美味しいというのは間違いではありません。

 ゆうさんはあっという間に平らげてしまうと、ごちそうさまと告げて、


「お代わり、いただけませんかー?」


「あ、はいっ! ……え?」


 本当にお代わりを頼むのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「なるほど。ここでは軽食も出しているんですねー」


 結局お代わりを三回成し遂げ、にまっとした笑顔をしているゆうさん。

 細身な彼女の一体どこへカルボナーラさんは消えてしまったのでしょうか。


「はいっ! 私と響子さんが頑張って作ってます! 響子さんの料理、本当に美味しいんですよ」


「あら、咲ちゃんだってとっても美味しい料理だと思うのだけれど」


「いえいえ、響子さんですよ」


「いやいや、咲ちゃんですよ」


「それじゃあ間をとってゆうですねー」


「これは盲点でした。ではゆうさん、おめでとうございます」


「やりましたー」


 譲り合いの精神がぶつかり合ったかと思えば、ぱちぱちと拍手で祝福されるゆうさん。

 なんだか、時間も忘れてしまいそうなくらいにゆるゆるです。


「——あれ」


「どうしました??」


「ゆう、思ったんですけどー」


 口元に手を当てて、宙をぼんやりと見つめるゆうさん。

 一体彼女は何を言おうとしているのでしょうか。

 少し間があって、ゆっくりと口を開けて——、


「ここに何しに来たんでしたっけー?」


 彼女の発言に、場が凍りつきました。

 なんと、彼女は記憶喪失をしてしまったようです。


「あら……ということは依頼、ではないのでしょうか?」


「え、そうなの?」


「いえー、ゆうはお二人と話しているうちに忘れてしまいましてー……」


「あらあら」


 これではただのただ飯食らいになってしまいますが、どうやら響子さんは気にしていないようです。


 にこにこと微笑む響子さんと、ぽかーんと口を開けた咲ちゃん。

 二人もまた、ゆうさんと同じくゆるゆるなのですから。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



 それからほんの数時間。

 気がつくと空は真っ赤に燃え、爆熱していました。

 遠くで鳥さんの声とどこか懐かしい音楽が聞こえて来ます。


「それでは長々と失礼しましたー」


 ぺこりとお辞儀をするゆうさんの手には、小さな袋がありました。

 これはクッキー。泣き出してしまった咲ちゃんがお詫びにと作ったものです。


「いえいえ、こちらこそお話が出来て楽しい時間が過ごせました。また来てくださいね。……ほら、咲ちゃんも」


「う……。えっと、今日はごめんなさい」


「いえいえいえー。失敗は誰にでもあるものですよー」


 やっぱりゆうさんが苦手な咲ちゃんは、響子さんの後ろに隠れて顔をちらりと覗かせます。


「そうだ、遊佐さん。果物はお好きですかー?」


 しかしそれに負けないゆうさん。

 ぴくりと反応した咲ちゃんににまっと微笑みかけます。


 それによって、高校生を初めて見る小学生のような目をしていた咲ちゃんが、たちまち期待の目を向けて、


「はい、大好きですっ! りんごとかブドウも好きだし、みかんに梨にそれからそれから……あ、マンゴーも! あとスイカとか……」


 頰を染めて好きな果物の名前をどんどん出していきます。


「咲ちゃん、スイカは果物じゃなくて野菜なのだけれど……」


「なるほどー、それでしたら今度フルーツケーキを焼いて持って来ますねー」


「え、ほんとっ!? やったあ!」


 悲惨なスタートでしたが、今日一番の喜びを得てぴょんぴょんと飛び跳ねる咲ちゃん。


「揺れてますねー」


「あらあら」


 きらきらとした笑顔の咲ちゃんを見て大人の女性二人が何かを口にしましたが、気のせいでしょう。


「えへへー。ありがとう、ゆうさんっ!」


 にっこにこの咲ちゃんはそんな視線にも気づきません。

 すっかりいつもの調子に戻ったものですから、なおさらです。


「あ、さっきのはノリノリでリズムに乗っていたわけではないですよー」


「へ?」


 とはいえ、いつもの調子であっても、ゆうさんののんびりさには順応出来ないのですが。


「——さて、それじゃあそろそろ行きますねー」


「はい。道中お気をつけておかえりくださいね」


 未だ気分ルンルンな咲ちゃんが手を振り、響子さんが丁寧なお辞儀をして見送ります。


 ゆっくりと扉が閉じ、ゆうさんが出て行ったかと思えば——、


「————あ。言い忘れてましたー。私つい最近隣に引っ越して来た日奈森ゆうと言いますー。よろしくお願いします」


 再び扉が開いて、ゆうさんが衝撃的事実を口にしました。


「えっ」


「これはご丁寧にどうもありがとうございます。私、『維澄響子のお悩み相談所』をやっております維澄響子と言います。よろしくお願いしますね、ゆうさん」


「…………あれ?」


 本日のお客さんは、最後の最後までマイペースな日奈森ゆうさんでした。



一人目のお客さん


なまえ :日奈森 ゆう

ねんれい:22歳

しょく :お花屋さん

しゅみ :日向ぼっこ、お花を見る

すき  :ぼーっとする、果物、苺パスタ

きらい :予定外なこと、緊急事態

みため :のんびり系。暗茶のふわふわ髪。

     身長は165くらい。けれど一部が二人に比べると小さめ。


ひとこと:今度来たら遊佐さんを抱きしめてみたいですねー。

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