おまけ① 『ご・ほ・う・び』
一人目のお客さん、日奈森ゆうさんが帰った後のお話。
1人目『日奈森ゆうさんはのんびり屋さん』
2人目『ゆうさんに降参』
を読んでいると、さらに楽しめます。
これは、日奈森ゆうさんが帰った後のちょっとしたお話。
「ねえねえ、響子さん?」
「あら、どうしたの。咲ちゃん」
二人は温かい飲み物とお菓子を並べて話し込んでいました。
響子さんと向かい合った咲ちゃんは何かを話すのを躊躇い、もじもじしたかと思えば、
「その、私もっとちゃんとしないといけないよね……」
申し訳なさそうに呟きました。
「あらあら」
どうやら、ゆうさんの前で泣いてしまったことを咲ちゃんは気にしていたみたいです。
果物の話を振られて元気を取り戻していたのですが、こればかりはどうしようもないのでしょう。
「お留守番も出来ないんじゃ、私助手として——」
「————咲ちゃん」
「ぇ…………?」
またまた泣き出してしまいそうな咲ちゃんを、席を立った響子さんが抱き寄せます。
「よしよーし」
それから、頭を何度も何度も、優しく撫でました。
よしよーし。よしよーしと。
「あ、あのあの、響子さんこれは……っ」
動揺する咲ちゃんに、響子さんは優しく語りかけます。
「……咲ちゃん。まだ焦らなくても大丈夫。あなたは助手になったばかり。これから慣れていけばいいんですよ」
「で、でもぅ」
「でも、じゃありません。ゆうさんも言ってたでしょう? 誰にでも失敗はあります。他の場所だと怒られるのかもしれないけれど……少なくとも私は怒りませんから」
だけど、まだ表情の晴れない咲ちゃん。
そんな咲ちゃんに、響子さんはにこにこと笑って言いました。
「それじゃあ咲ちゃん。顔を上げて?」
涙ぐんでいた咲ちゃんが、言われるがままに顔を上げます。
見つめ合って僅かに頰が赤くなる咲ちゃんに響子さんは、
「今度のお客さんが来た時、咲ちゃんがちゃんと出来たら——そうですね、ご褒美をあげます」
「ご褒美……?」
「そう、ご褒美。何でもいいですよ。苺パスタや生ハムメロン、レバニラ炒めにニラレバ炒め。咲ちゃんの好きなものを作ってもいいですし、他のことでも構いません」
変わった料理や順番が違うだけのものがありましたが、突っ込んではいけません。
でも、響子さんにふざけた様子が一切見られないことと、発言のへんてこ加減に咲ちゃんは思わず噴き出してしまいます。
「……ぷ、あは、あははははっ! 響子さん、それ同じ料理だよ!」
「あら、先に来るかどうかでも気分は変わるじゃありませんか。それに、毎回じゃんけんでニラさんとレバーさんが争って決めているかもしれませんし」
「やめ、やめて響子さん……っ、あはは!」
「レバーさんよ、今日はあんたの勝ちだ。だから今日はハナ飾ってこいよ……がくっ」
「————っ! ————っ!」
変なツボに入ってしまった咲ちゃんが、響子さんの小芝居に悶えます。
それを見て満足げな響子さんは、再び咲ちゃんの頭を撫でて問いかけました。
「咲ちゃんは何がいいですか?」
「——は、はぁっ、はぁっ、あう……」
笑い疲れてそれどころじゃない様子ですが、それでも響子さんは待ちます。ひたすら頭を撫でながら。
「…………はぅ。え、っとね。響子さん」
「どうしたんですか、咲ちゃん」
「私ね————パウンドケーキが食べたい」
「ふふ、ココア味の……ですね?」
「うんっ!」
えへへーと笑う咲ちゃんは幸せそうです。
ココア味のパウンドケーキ。
それはそれは、彼女にとって大変幸せな食べ物ですから。
二人にとっても大事で、大切な。
その理由は……いつか、彼女達の口から語られることでしょう。
「それじゃあ、明日も頑張りましょうね。咲ちゃん」
「うん、響子さんっ!」
窓から見えるお月様が、優しく二人を照らします。
明日は、どんな日になるのでしょうか。




