表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/64

おまけ⑨ 『二人と一匹と一人のバイト事情』



「そういえばさくめちゃんはここ以外で働いたことある?」


 朝日が窓から入ってきて大変心地が良い……そんなある日のことでした。


「いや、ないわね。ここが初めてよ。さっちゃんは?」


「ううん、私も初めてだよ。響子さんと出会って、ビビビって感じに決めたから」


「さっちゃんと言い月子さんと言い、なんでみんな電波受けてるのよ」


 先日の絢さんの相談は、アルバイト先を見つけてやることを作ろう、そんな形に落ち着き、解決しました。

 一応アルバイト、という形でここで働いている咲ちゃん達のように、絢さんはお仕事を見つけられたのでしょうか。


「……あれ、胡麻たんってバイトなのかな」


「突然ね。まあ、そうね……ペットだし、バイトじゃないかしら。前に絢さん達が来た時には寝てたけど」


「————わおん」


 二人に視線を向けられた胡麻たんは面倒そうに返事をします。

 ここにきてようやく本性を現した胡麻たんは、どうやら怠け者だったようで、


「これって働いてるの?」


「……インテリアか観葉植物みたいなものよ」


 机の下でごろごろごろごろ。

 見て保養、そんな存在として落ち着くのかと思えば、


「——わおんっ!」


 突然に胡麻たんは鳴き声をあげました。

 その緊迫した声に二人は冷や汗を流し、ゆっくりと視線をずらしていき——、


「ちゃーっす! ご無沙汰して…………あれ?」


 シャランシャランと鈴の音が鳴り、扉の向こうから現れたのは金髪ヤンキー古賀絢さんでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「んで、ようやくバイト先決まったわけよ」


 気分高らかに金の長髪を揺らす絢さん。

 彼女の手には飾り気のないエプロンがあり、


「可愛いねぇ、さくめちゃん」


「まあ、そうね。エプロンってことは喫茶店とか?」


「や、食べ飲みするとこじゃねーぞ」


「っていうことは……第二の相談所?」


「いやここも食べ飲みしてるじゃない。……でも、ライバル出現ね」


 これは手強い相手と言わんばかりに、メラメラと闘志を燃やす咲ちゃんと梅ちゃん。

 二人の想像通りに第二、第三の相談所があるかと思えば、


「花屋な。なんつったかなー、あの人の名前」


「え、花屋? 花屋ってあの?」


「おう、なんかたくさん花がある屋さんだ」


「花屋さんかぁ……」


 驚きを隠せない梅ちゃんに、ほえーっとする咲ちゃん。

 二人にとてもアバウトな説明をする絢さんは、


「あ、思い出したわ。ゆうって言ってたな、店長の名前。響子姉さん達の話したらいちごパスタ奢ってくれたんだよ」


「え、ゆうさん? ゆうさんってあの?」


「おう……って合ってるかは分からねーけど。なんかすげーゆっくりしてる人だったな。響子姉さん達のすごさすげー分かってたからすげー人なんだけど」


「……すごいわね、語彙が」


 すごいすごいする絢さんに梅ちゃんが冷めた目をしていますが、彼女が気がつくことはありません。

 何故なら、


「————わおん」


「うぉっ! この犬生きてたのかよ!」


「あ、胡麻たんがおめでとうだって」


「いつからあんたは通訳になったのよ」


 胡麻たんがぐうたら生活をやめ、のそりのそりと机の下から出てきたからです。

 咲ちゃんはそんな胡麻たんに朝ご飯を用意しつつ、


「そういえば……どうしてお花屋さんなの? ゆうさんのことは知らなかったんだよね」


 ぼんやりとした声で絢さんに問いかけます。


「言われてみればそうね。何か理由があったの?」


「んー、まああるっちゃある。けど」


 問いかけられた絢さんはというと、何やら口ごもってしまい、言葉が続きません。

 言いたくないことなのでしょうか。


「あ、お花が好きとか」


「単純過ぎるでしょ。そんなわけ——」


「……その通りだ」


 そんなわけありました。

 さすがにこれには咲ちゃんも驚き、しかしすぐに納得してしまいます。

 何故なら、


「絢さんって、カフェオレ砂糖マシマシミルクマシマシとんでも甘々モード飲んだり、いちごパスタ食べたんだもんね。お花が好きでも違和感無くなっちゃった」


 絢さんも可愛い部分を持っている、そう言いたげにえへへーと笑う咲ちゃん。

 ヤンキーだからかっこいいものばかりを好きになるはず……そんなイメージが、咲ちゃんの中で変わった瞬間です。


「まああんまかっこいいイメージじゃないから言い出せねーけど、好きなんだよ、花」


「じゃあじゃあ、ココアはどう?」


「いやココアは……まあ、好きっちゃ好きだけど。突然だな」


 胡麻たんにご飯をあげ終えた咲ちゃんは席に戻ると、満足げに頷きます。


 次に絢さんが訪れたときにはとびきり美味しいココアを淹れよう、そう咲ちゃんが決め込んだところで、


「——んじゃ、そろそろ行くわ。今度はあれだ、花持って来るからよろしくな」


 絢さんが口早に別れを告げ、相談所を出ていくのでした。

 ヤンキーではない二人と話していて楽しかったと、そう言うように笑みを浮かべて。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「絢さんが花屋さんかぁ」


「……正直今でも信じられないんだけど」


 絢さんが去った相談所には、再び二人と一匹です。

 一匹さんは絢さんが帰ってすぐに寝てしまいましたが。


「次来た時にはお花の髪飾りとかつけてたりして!」


「変わるの早すぎでしょ、一応あの人ヤンキーよ?」


 咲ちゃんの未来図に梅ちゃんが指摘し——顔を合わせ、不思議な笑いが生まれます。

 彼女達の頭の中では、どちらともが絢さんの幸せそうな顔があって。


「…………私達も何か変わるのかなぁ?」


 ひとしきり笑って落ち着いて。

 そうして咲ちゃんはぼうっと天井を見つめて呟きます。


「……さあね。あたしはもう変わってるところもあると思うけど」


 釣られて梅ちゃんも視線を上に移しますが、


「え? 何が?」


 咲ちゃんは首を傾げて梅ちゃんを見つめます。

 そしてそのまま数秒見つめ合った結果、梅ちゃんがため息を吐いて、


「……ほら、姫ちゃんとかめぐさんとか友達になったじゃないの。あたしとさっちゃんも、ね」


 顔を真っ赤にしつつ言いました。

 それに対し咲ちゃんは、


「……そっか、うん。そうだよね。えへへへ」


 甘くとろけるような笑顔を浮かべ、梅ちゃんの手を繋ぎます。


「………………もう」


 長い間、ずうっとずうっと。

 手を繋いでいるのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ