9人目 『月子さんはいつでも占いを』
「へー、月子さんは占い師さんなんだ」
「んぐ、んん。……ええ、はい。そうですとも。主にこの辺りでやってます」
本日のお客さん星井月子さん。
彼女は梅ちゃん特製サンドイッチを頬張りつつ、自身の経歴を明かしていました。
「……ふう。ちなみに最近、響子ちゃんと占いぶらり旅に行ってたんですよ」
「あ、あれって月子さんだったんだ」
「そういえばそんなこともあったわね」
それは梅ちゃんが従業員になった日のこと。
あの日は響子さんがおらず、その理由は占いぶらり旅に付き合う、といったものだったのですが、まさかこんなところで遭遇するとは思いもしなかった二人。
「ああ、そういえばあのお店の蟹さんは美味しかったですね。月子さんも大喜びでしたし……」
「当然ですよ! あの蟹は占いパワーが豊富で、食べるともりもり占いエナジーが溜まりましたし」
「ちょっと待ちなさい。占いパワーってなによ。占いエナジーってなによ。とりあえず占いつければいいってもんじゃないでしょ」
「へー、そんなのあるんだ……」
「さっちゃんも真に受けないの!」
謎の専門用語に食い付く梅ちゃん。
初めて知ったと何度も頷く咲ちゃんを除けば、月子さんと響子さんはさも当然かのような顔をして梅ちゃんを見ます。
「いやないわよ。少なくとも一般界隈でそんな用語は通じないわよ」
「……ええ、そうかもしれませんね」
「あ、納得しちゃうんだっ」
「はい。実のところ、占い界隈で私は下の下の存在で占いランゲージなるものは覚えたてなんです。 だから玄人の方々に比べればその辺りのバランスが上手く取れず……っ! 響子ちゃんは既にマスターしてるのですが」
「名前ダサっ! 胡散くさ! ただ英語にしただけじゃない! しかもなんで響……あんたがマスターしてんのよ!」
占いランゲージ。その未知なる言葉の前に梅ちゃんは全力で否定にかかります。
ですがそんな梅ちゃんを他所に咲ちゃん達は、
「そういえば響子さんの占いはよく当たるって評判なんだっけ」
「あらあら。たまたまですよ」
違和感なく受け入れてました。
「……なんかもうあたし疲れてきたわ」
ほぅ、とため息を吐く梅ちゃんはひどくお疲れの模様。
ぐったりと椅子にもたれて虚空を眺めます。
「あれ、ふと思ったんですけど……」
「ほぇ?」
抜けた返事をする咲ちゃんが見つめる先、やけに真剣な表情で口元に手を当てた月子さん。
彼女は何やら考え込んでいるようですが——、
「私、ここに何しに来たんでしょう?」
「えっ。うーん、占い話?」
「あら。お茶を飲みに来たと思っていたのだけれど……?」
「ん、んんん? どっちも違うような気がします。確かそう、雨が降っていて……雨宿り?」
三人揃ってなんだか微妙にずれた回答。
机に伏した梅ちゃんは、疲れたことだしもうつっこむまいと心に決め、ふつふつと湧いて来るものを無視します。
具体的に言ってしまうと、ツッコミ魂的なものを。
「でもサンドイッチ食べたし……あ、お昼ご飯だ!」
「そういえば私達、まだお昼ご飯を取っていませんね。何にしましょうか?」
「あ、じゃあ私が作りましょう! 響子ちゃんにはお世話になってますし、サンドイッチもご馳走になりましたから!!」
今度は別のレールを走り始め、どんどんと話が脱線していきます。
そうして当初の目的がうやむやになり————、
「……ココア占いでしょうがっ!」
耐えきれなくなった梅ちゃんが突っ込むのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「さて。改めまして占い師星井ルナです。実力はまだまだとはいえ、私にも占い電波は受信出来ます。そしてプライドも! ある! わけ! ですよ!!」
背景に炎でも巻き起こりそうなくらい燃える月子さん。
占い電波という謎の言葉は一旦スルーしつつ、言葉を受けた咲ちゃんは答えます。
「じゃあ私のココア占いと月子さんの……えーと、うんうん。水晶占いなんだ。……こほん、水晶占いの勝負だね!」
「グダグダじゃないの」
同じく燃え上がる咲ちゃん。
何やら途中で聞き出す声が聞こえましたが、そこに冷たい梅ちゃんのツッコミが刺さりつつも、進行は止まりません。
「ではまず咲ちゃんからどうぞ」
響子さんの合図のもと、とうとう二人の対決が幕を開けました。
「梅ちゃん、このカップに入ったココアを飲んでくれる?」
「え、あたしが飲むの? まあいいけど……」
ずいっとカップが差し出され、その中身を梅ちゃんは飲み干します。
それからカップを机の上に置き、咲ちゃんがそこを覗き込んで——、
「わ、これって……っ!」
「あらあら」
咲ちゃんに加え、響子さんまでもが驚きの声をあげます。
一体彼女らに何が見えたというのでしょうか。
咲ちゃんは顔を上げ、カップを再び梅ちゃんの方へやると、
「……カップの底に浮かんでるのは半月。梅ちゃんは今日、何事もなく平穏に過ごせるみたい」
「……あ、うん」
目をきらーんと光らせてキメ顔で梅ちゃんを見つめる咲ちゃん。
明らかに反対の結果なので梅ちゃんは無表情で対応しますが、やってやりましたと言わんばかりに胸を張る咲ちゃんは、そんな表情に気がつきません。
「やりますね、遊佐ちゃん。さすがは響子ちゃんの助手! ここまで見せられてしまえば、次の私も気合を入れざるを得ませんね……っ!」
そして今度は占い師が本業である月子さん。
一体どこから取り出したのか、彼女は水晶玉を机の上に置くと、手をかざして瞳を閉じたまま何やら念じ始めます。
「むー……」
「おお、なんか本格的だね……っ!」
「水晶占いって本当にあるのね」
「月子さんの占いは三割くらい当たることで有名なんですよ」
「占い界隈を知らないけど、それってダメなんじゃないの?」
なんだか会話に温度差がありますが、言葉を交わしているうちに月子さんには何かが見えたようで、目をカッと開くと、
「む、むむ! 見えました! 紗倉ちゃんの一日が!」
「ていうかまたあたしなのね」
「どうやら私の占いによると、紗倉ちゃんは今日、大人しい人と出会い、緩やかな一日を過ごすみたいです」
「おおーっ!」
またこちらも瞳をきらーんとさせてキメ顔。
こうして二人の占いの結果が出たわけですが、
「すごいんだね、月子さん」
「いえいえ、私など全然。それに遊佐ちゃん、あなたもなかなかのものをお待ちで」
「いやいや、そんなそんな」
「…………この占い、真逆なんだけど」
互いの実力を認め褒め合う二人に対して、占いを受けた梅ちゃんは引きつった笑いを浮かべて、言葉を漏らすのでした。
「あらあら……ふふ」
ただし、彼女の言葉に反応したのは響子さんだけでしたが。
五人目のお客さん
なまえ :星井 月子
げいめい:星井 ルナ
ねんれい:21歳
しょく :占い師
しゅみ :占い、旅行、犬と遊ぶ
すき :占い、シーザーサラダ
きらい :理数系科目
みため :占い師。黒髪パッツン。
身長は咲ちゃんより少しだけ高い。そこそこある。
フードのついた黒いマントをいつも羽織ってるので不審者っぽい。
ひとこと:占いといえば私! 私といえば占い! 星井ルナです!




