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8人目 『星井月子さんはツいてない』



 窓の外から聞こえて来る雨の音。

 朝から降りっぱなしのその雨でなかなかお客さんはやって来ず、店内には暇を持て余した三人がいました。


「————私、実は最近占い覚えたんだ」


「あら、占いですか」


「へー、占いって言うと……タロットとか?」


 唐突な咲ちゃんの発言に、呆れるでもなくしっかりと食いつく二人。

 そもそもの人柄もありますが、暇を壊してくれるようなものがあるのなら、興味を持ってしまうのは当然といえば当然かもしれません。

 二人の食いつきっぷりに、満足げに頷く咲ちゃんは、ややキメ顔を作りつつ、


「——ココア占い、だよ」


「それコーヒー占いのパクリじゃない?」


「まあまあ梅ちゃん。聞いてみましょう」


 途端に疑いの目を向ける梅ちゃん。

 とはいえ、呆れたりバカにしないあたりやっぱり梅ちゃんです。


「それで、どういう手順なの?」


「——まず、カップに入ったココアを飲み干すんだけど」


 どこかで聞いたような始め方ですが、なおも咲ちゃんはキメ顔のまま占いを進行しようとして————、


「ちょぉーっと待ったぁ!」


 咲ちゃんがカップに入ったココアを飲み干そうとして、中断させられます。

 突然に開いた扉からは、びしょ濡れの黒いマントを羽織った怪しげな人物が入ってきて、


「占いあるところに私あり! そう、私星井月子……じゃなかった。星井ルナ抜きで占いをするなんてどういうつもりですか!」


 フードを被っているせいで顔は咲ちゃん達からよく見えませんが、どうやら女性らしく、ビシィッと指を突き出して叫ぶのですが、


「咲ちゃん、続けてください」


「えっ。いやでも、あの人……」


「続けてください。気にしなくていいですから」


「あ、うん。えっと……まずココアを飲み干すんだけどね」


 響子さんのいつもと違う笑顔と、びしょ濡れのお客さんを交互に見てどうしたものかと悩む咲ちゃん。

 気にしなくていいと言われても気になってしまうものです。

 もちろんそれは、梅ちゃんも。


 だから、


「……ふぁ、ぁぅ、くしゅんっ」


 お客さんがくしゃみをすると、すぐに駆けつけるのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「いやー、まさかシャワーを貸してもらえるなんて!」


 本日のお客さんは星井月子(ほしいつきこ)さん。

 彼女は何故か持っていたシャツに着替え、ほくほくとした顔で笑顔を浮かべています。

 先程まではフードで見えませんでしたが、前髪が丁寧に切りそろえられた艶やかな黒髪の女性で、先程までは上げ底の靴でも履いていたのか、意外にも小さいお方。

 ころっとした瞳が可愛らしく、けれど所々で女性らしさに溢れた不思議な女性でした。


「別にいいよね。ね、さくめちゃん」


「まあ、さすがにあの状態じゃそりゃね」


「おお、なんと優しいお二人……。心遣いに感謝致すでありまする」


「あんたいつの時代の人よ」


 深々とお辞儀をし、なんだかよく分からない言葉を発する月子さんに梅ちゃんのツッコミが入ります。


「しかし、よくこんな雨の中傘もささずに歩いてたわね」


「ええ、まあ。お買い物へ行こうとしてたんですが、途中で傘を忘れたことに気がついて。でもまあそれでもいいか、と走ってたんです」


「いや家出た瞬間に気づきなさいよ! 速攻でびしょ濡れじゃないの!」


「あ、でも私もたまにあるかも」


「いやあんたもか! そんなシャンプーの後に間違えてもう一回シャンプーしちゃった、みたいな感覚で言うな!」


「私はリンスの後にリンスならありますねえ……」


「どっちでもいいわよ!」


 怒涛のツッコミの連続に月子さんが感激し、目をキラキラとさせて喜びます。


「もしやあなた、噂に聞くあの……っ!?」


「いや何の噂か知らないけど絶対に違うわ」


「断言ですかっ! あ、ちなみにお二人の名前はなんと?」


 なんだかテンションの起伏が多い一日です。

 それもこれも、全ては今日のお客さんである月子さんが原因だったりするのですが……。


「ってその前に私の名前からですね! 私は星井月子と言います。以後お見知り置きを」


「……あれ? さっきルナって言ってたような」


「ああ。ルナ、というのは私の芸名のようなものです」


「なるほど、じゃあ月子さんは芸能人さんなんだ? 私は遊佐咲だよ、月子さん。響子さんの助手ですっ」


「あらあら」


 彼女に感化されたのか、ビシィッと敬礼までしちゃう咲ちゃん。

 謎の侵食率に隣の梅ちゃんは苦笑いを浮かべつつ、


「あたしは紗倉梅よ。えっと、今までの会話から考えると、二人は知り合いってことでいいの?」


「二人?」


「うん。月子さんと……響子さん」


 首を傾げる咲ちゃんの前で、月子さんと響子さんをそれぞれ交互に指指す梅ちゃん。

 確かに話を聞く限りではその通りなのですが、


「えっ、そうなの?」


「いやそうでしょ」


「えっ、そうなんですか? 梅ちゃん」


「いやそうでしょ……ってあんたの話よ! あんたの!」


「……如何にも、紗倉ちゃんの言う通り私と響子ちゃんは知り合いですとも。ええ、そうですとも」


 梅ちゃんの推測にうんうん、と頷いたのは月子さんだけでした。

 そして彼女は触れられるのを待ってましたと言わんばかりに目を光らせ、立ち上がると、


「そう! 全てはあの時から始まったのです…………」


 何だか突然変な回想が始まりました。


「……?」


 しかし数秒、十数秒経っても続く言葉がありません。

 妙だと思った咲ちゃんと梅ちゃんは顔を合わせると、沈黙状態の彼女を見つめて——、


「……どんな出会いでしたっけ?」


 そこには、困り顔をした月子さんがいました。

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