うさぎとかめ
昔々、あるところにウサギさんとカメさんがおりました。
ある日、カメさんが池のほとりにある自分の家へ向かっていると、その姿を見たウサギさんが話しかけてきました。
「やあ、カメさん。相変わらず君の足は遅いね。そんなことでは日が暮れてしまうよ?」
からかうように言うウサギさんに、カメさんは怒りもせず、にっこりと笑って言い返します。
「ふっ……男ってのは、いざという時にしか本気を出さないものさ。それがスマートな生き方ってものだろう?」
「なら、本気を出せば君は僕より速く走れるっていうのかい?」
「……無粋なことを聞くものじゃないよ。それに、私は無駄に君のプライドを傷つけたくはないしね」
この気取ったカメさんの話ぶりに、ウサギさんも腹を立ててしまい、ついこんな提案をしてしまいました。
「言うじゃないか。だったらそれが本当かどうかを明日、一緒にかけっこして確かめさせておくれよ」
「やれやれ……困ったウサギさんだ。けど、いいだろう。負けない勝負はつまらないから本来はしない主義なんだが、そうまで相手をご所望なら、断るのも野暮ってものだ」
「ふんっ、今のうちにせいぜい言っておくんだね。だいたい君がどれほどかは知らないけど、そもそもウサギとカメがかけっこして、カメが勝てるわけなんてないさ。明日を楽しみにしているよ」
そうしたわけで、二匹はかけっこで競争することになりました。
翌日。
丘のてっぺんをゴールと決めて、二匹の競争はスタート直前。
ウサギは得意の上りのコースとあってさらに自信満々です。
が、そんな余裕もすぐに消し飛んでしまうことになります。
スタートラインについた時、カメさんはおもむろに深呼吸したかと思うと、
甲羅の中からするりと長くしなやかな手足を伸ばし、クラウチングスタートの態勢に入ったのでした。
これにはさしものウサギさんもびっくり。
そうこうするうち、スタートの合図とともに二匹は走り出しましたが、さすがウサギさんも負けてはいません。
レース終盤近くまで、見事な接戦を展開します。
「どんなもんだい。確かに君もたいしたものだったけど、やっぱりカメがウサギに勝てるなんてありっこないのさ」
「さあて……そいつはどうだろうね」
「どうだろうって……そりゃ、どういう意味だい?」
「……こういうことだよ」
言ったかと思うや、カメさんはせっかく接戦を繰り広げていたところで、自分の手足を甲羅の中へ仕舞い込んでしまいます。
しかも頭まで。
どさりと音を立て、地面に落ちるカメさんを見ると、ウサギさんはにっこり。
「なんだい、ただ降参するってだけだったのか。えらそうなことを言っていたくせに結局それが君の限界だってことだね」
勝利を確信して言うと、ウサギさんはラストスパート。
もう勝負はついたように思えました。
が、次の瞬間です。
地面に転がったカメさんの、手足を引っ込めて空いた穴から突然、猛烈なジェットが噴出したかと思うや、カメさんは高速で甲羅を回転させて空中へと飛び出し、凄まじい速さでウサギさんを追い抜くと、優雅にホバリングしながら静かに丘の上のゴール地点へと着地しました。
呆然とするウサギさんを前に、再び頭と手足を伸ばして直立したカメさんは一言、
「……切り札ってのは、最後まで取っておくものなのさ……」
そう言い、ウサギさんに微笑みかけましたが、ウサギさんは唖然とした状態のままカメさんに言い放ちます。
「節子、それカメやない! ガメ……」
「おっと、著作権関係で面倒になる可能性がある発言はそこまでだ。お互いにヤケドをしないためにも……ね」
「ぐっ……くそっ! そこも作戦のうちだったっていうのか……」
「当然だろう? 戦いへ赴くにあたっては、あらゆる手を使って勝つ。ウサギさん、ひとつ学んだかい?」
不敵に笑うカメさんをウサギさんが睨みながら、結局勝負はカメさんの勝利で終わりました。
しかし、本当に勝者はカメさんだったのでしょうか。
表面上、勝利したように見えるカメさんですが、真に勝利したものとは、もしかすると著作権……ロイヤリティーという存在だったのかもしれません。
大人の事情の難しさ。
そんな現代の抱える問題を教訓とするお話でした。
めでたしめでたし。