第35話 合同訓練
夏休み課題の発表から数日後。
リーゼ達は再び学院へ呼び出されていた。
「またですの?」
リーゼが首を傾げる。
教師は咳払いした。
「お前達に特別実習の話が来ている」
教室がざわつく。
「特別実習ですの?」
クラリスが聞いた。
教師は頷く。
「ああ」
そして。
次の言葉で全員が固まった。
「タンク養成所との合同訓練だ」
沈黙。
リーゼは遠い目になった。
「そうですの」
反応が薄い。
教師が驚いた。
「嫌じゃないのか?」
「もう諦めましたわ」
教室が静まり返る。
教師は何とも言えない顔になった。
数日後。
王都タンク養成所。
巨大な訓練施設だった。
盾。
鎧。
筋肉。
筋肉。
筋肉。
「場違いですわね」
リーゼが呟く。
その時だった。
「君がリーゼ君か!」
大声が響く。
大柄な男が近付いてきた。
養成所の教官長だった。
「はい」
「素晴らしい!」
いきなり褒められた。
リーゼは瞬きを繰り返す。
「そうですの?」
「夏休み課題の報告書を読んだ!」
教官長は興奮していた。
「第三層到達!」
「変異種討伐!」
「ロックゴーレム撃破!」
「素晴らしい!」
リーゼは少し照れた。
最近こんなに褒められたことがない。
「ありがとうございますわ」
「しかも十五歳!」
「はい」
「さらにヒール持ち!」
「はい」
「マジックバリア持ち!」
「はい」
「かばう持ち!」
「はい」
教官長は天を仰いだ。
「完璧だ!」
リーゼは少し嬉しくなった。
「そうですの?」
後ろで。
クラリス達が嫌な予感を覚えていた。
そして。
能力測定。
大きな水晶へ手を置く。
数値が表示された。
ざわっ。
周囲が静かになる。
「VIT……265?」
教官の一人が呟く。
「十五歳で?」
「馬鹿な……」
「あり得ん……」
養成所中が騒然となる。
リーゼは首を傾げた。
「そんなにですの?」
教官長が両肩を掴んだ。
「そんなにだ!」
力説された。
「君は逸材だ!」
「そうですの?」
「歴代最高クラスだ!」
リーゼの頬が少し赤くなる。
悪い気はしない。
むしろ嬉しい。
「ありがとうございますわ」
クラリスが頭を抱えた。
「乗ってますわね……」
ミーナも頷く。
「乗ってるね……」
その後。
模擬戦が始まった。
訓練生が木剣を構える。
「行きます!」
全力で突撃。
ドゴォ!
リーゼへ命中。
「少し痛いですわ」
訓練生が固まる。
教官が固まる。
訓練生がもう一撃。
ドゴォ!
「少し痛いですわ」
さらに固まる。
教官長は震えていた。
「美しい……」
リーゼが聞き返す。
「なんですの?」
「理想だ!」
教官長は断言した。
「理想のタンクだ!」
リーゼは照れた。
「そこまでですの?」
「そこまでだ!」
教官長は力強く頷く。
そして。
決定的な一言を放った。
「魔法学院を辞めないか?」
沈黙。
クラリス達が固まる。
教師も固まる。
リーゼも固まった。
「え?」
「今すぐ養成所へ来て欲しい!」
教官長は真剣だった。
「君の才能を埋もれさせるのは国家の損失だ!」
周囲の教官達も頷く。
「その通り!」
「ぜひ来てくれ!」
「歓迎する!」
人生でこれほど褒められたことはなかった。
リーゼは少し考える。
そして。
「そうですわね」
全員が息を飲む。
クラリスが慌てる。
「リーゼさん!?」
ミーナも叫ぶ。
「待って!」
だが。
リーゼは教官長を見る。
「そこまで言っていただけるなら」
教官長の顔が輝いた。
「おお!」
リーゼは微笑む。
「移りますわ」
沈黙。
そして。
養成所中に歓声が響いた。
「やったぁぁぁぁ!!」
教官長がガッツポーズした。
クラリス達は頭を抱えた。
こうして。
リーゼ・アークライト。
魔法学院一年生。
わずか入学数ヶ月で。
タンク養成所へ転校が決定した。




