第1話 信託の儀
「リーゼぇぇぇぇ!!」
朝から家中に響く大声に、リーゼ・アークライトはため息を吐いた。
また始まった。
毎朝恒例の父親である。
「聞こえております」
階段を下りると、父のガイアスが勢いよく立ち上がった。
「本当に大丈夫か!?」
「何がですか」
「今日だぞ!?」
「今日ですね」
「信託の儀だぞ!?」
「知っております」
リーゼは席に座った。
隣では母のエレノアがお茶を飲みながら微笑んでいる。
「リーゼなら大丈夫よ」
「そうだろうか」
「大丈夫よ」
「しかしな……」
ガイアスは真剣な顔になる。
「神殿まで一人で行かせるのは危険ではないだろうか」
「徒歩十分です」
「転んだらどうする!」
「転びません」
「鳥が落ちてきたら!?」
「どんな確率ですか!?」
町では頼れる武具店の店主として有名な男だ。
元冒険者で腕も立つ。
だが娘の前ではただの過保護な父親だった。
「やはり護衛を付けよう」
「いりません」
「十人ほど」
「いりません」
「二十人」
「増えております!」
エレノアが静かに口を開く。
「あなた」
「はい」
ガイアスは黙った。
リーゼは心の中で母に感謝した。
この家で父を止められるのは母だけだ。
今日行われるのは信託の儀。
十五歳になった子供達がスキルを授かる人生の節目である。
戦士。
騎士。
商人。
鍛冶師。
様々な道がある。
だがリーゼは決めていた。
大魔法使いになる。
そして。
(お父様から自立します)
こちらも重要だった。
むしろ半分はこちらが目的かもしれない。
「リーゼ」
ガイアスが真面目な顔になる。
「なんですか」
「どんなスキルでも父さんは応援するぞ」
「ありがとうございます」
「武具店を継いでもいい」
「継ぎません」
「冒険者でもいい」
「なりません」
「家にいてもいい」
「もっとなりません」
「結婚もまだ早い」
「その話はしておりません!」
結局いつも通りだった。
朝食を終えたリーゼは家を出た。
「気を付けるんだぞー!」
背後から父の声が聞こえる。
振り返らない。
振り返ると長くなるからだ。
神殿へ向かう途中、幼なじみのルークと合流した。
「おはようございます」
「おはよう」
ルークは苦笑する。
「おじさん、今日も元気だったな」
「聞かないでください」
「王都へ行く気満々だろ」
「当然です」
「まだスキルも分かってないのに」
「魔法系です」
「根拠は?」
「勘です」
「駄目そうだな」
「失礼です」
二人は神殿へ向かった。
神殿には既に多くの同年代が集まっている。
やがて神官が現れ、信託の儀が始まった。
一人ずつ祭壇へ進み、水晶へ手を触れる。
「剣術!」
「採取!」
「鍛冶!」
あちこちで歓声が上がる。
そして。
「リーゼ・アークライト」
名前を呼ばれた。
リーゼは祭壇へ進む。
少しだけ緊張していた。
だが不安はない。
自分は魔法使いになる。
そう信じていた。
水晶へ手を触れた。
淡い光が広がる。
やがて文字が浮かび上がった。
【X-Twenty(通常の20倍の速度でステータスが成長す
「…………」
リーゼは固まった。
見間違いかと思い、もう一度見る。
【X-Twenty(通常の20倍の速度でステータスが成長す
「成長す?」
聞いたことのないスキル名だ。
だが、それ以上に気になることがあった。
説明文が途中で終わっている。
三度見した。
やはり途中で終わっている。
「成長す?」
隣の神官も首を傾げた。
「ふむ」
「どうしました?」
「文字数オーバーですね」
「文字数オーバーですの?」
「文字数オーバーですね」
リーゼは表示を見た。
神官を見た。
もう一度表示を見た。
「なんてことですのーーー!!」




