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転生探偵~殺人事件よりも、俺はキスがしたい。  作者: 長月透


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2/15

転生探偵2  情報収集

挿絵(By みてみん)

俺は部屋のドアへと向かい、佐藤さんから受け取った鍵で外側から鍵をかけた。よくあるドアノブ式の鍵だ、外開きとなっている。部屋を出ると、ちょうどチェックインの手続きを終えた坂本と斎藤が、会話をしながら階段を上がってきた。

「も〜身体中痛くて死にそうだよ〜」

「里香ちゃんほぼ休憩なしで滑ってたもんね、そりゃ疲れるよ。」

彼女達もスキーを一日中やってからこのペンションに来たようだ。斎藤の事を下の名前で呼んでいる事からも、二人の仲の良さが伺える。原作でそこまで描写した覚えはないが、どこまで情報は補完されるのだろうか。俺は疑問に思った。しかし、斎藤が休みなしでスキーをしようと、二人が下の名前で呼び合っていようと起こる事件とは関係ない。考えすぎるときりがないので、俺はひとまず疑問を心に留め、今ある大きな悩みについて考える事にした。…話しかけるべきだろうか。普段の俺なら、話しかけはしなかっただろう。軽く会釈をし、足早にその場を去る、それが最適解だと考えたはずだ。だが、斎藤はともかく、坂本の方は俺と恋仲になる予定なのだ。これは決して俺がストーカー気質だからそう思うのではなく、原作でそうなっているからだ。そう思うと、謎の勇気が出てきた。話しかけてみよう---そう思うのと同時に俺は目の前の二人に向かって言葉を投げかけた。

「…ス、スキーどうでしたか?」

…最悪だ、声が裏返った。それだけではない、なんだ、スキーどうでしたかって。彼女達からしてみれば知らない男が盗み聞きした上、意味の分からない質問をしてきたのだ。気味が悪くて仕方がないだろう。

「あ、突然すいません、このペンションに泊まっている黒野といいます。僕も友達とスキーに来たので…ハハッ」

斎藤が冷たい目線でこちらを見ているのを感じた。しかし流石はヒロイン、こんな気味の悪い男の質問にも親切に答えてくれた。

「あ、そうなんですね…!私、坂本って言います、それから…」

「斉藤です」

坂本は自分たちが大学の卒業旅行としてスキーに来た事、久しぶりのスキーは思ったよりも上手くできた事などを教えてくれた。ここら辺の設定も特に変わっていないようだ。

もう少し未来の恋人と話していたかったが、斎藤の目線が痛かったのでキリのいい所で会話を切り上げ、階段へと向かった。降りる直前、二人の方を見ると、俺たちの部屋の真向かいにある部屋に入っていくのが見えた。一階に着くと、玄関で佐藤と、百八十センチはあるであろうガタイの良い男が話しているのを見かけた。年齢は三十手前ほど、男の髪は七三に分けられており、取ってつけたような爽やかな笑顔が営業マンのような雰囲気を出している。彼は新沼賢二、記者を生業としており、原作における被害者である。しかし被害者とはいっても、過去にペンションで起きた死亡事故を理由にオーナーを脅して金銭を要求するという、同情の余地もない、クズ人間である。あまり関わりたくない人間だったので、玄関には向かわず、そのまま突き当りにある洗面所の方へと向かった。ドアノブ式の扉を押して、洗面所の中に入る。洗面所に入るとまず最初に目につくのは縦横1メートルほどの鏡だ。洗面台は明るめの木材でできており、下には、小さな収納棚がついている。試しに開けてみると、中にはバケツやゴム手袋などの掃除用品から、洗剤や石鹸といった生活用品まで多くの物が置かれていた。洗面台から見て左側には二つ扉がある。左側の扉を開けると、中はトイレである。一般的な洋式のトイレであり、ご丁寧に消臭剤とスリッパも置かれている。右手側の扉は浴室につながっている。扉とは言っても洗面所入り口やトイレの扉とは異なり折れ戸となっていた。外から見ると、何となく人のシルエットが分かるような仕組みだ。この簡易な隔たりは、このペンションに泊まりに来る女性客からしてみれば心もとないどころではないだろう。それもあってかどうやらこの浴室はあまり使われていないようだった。壁にはいたるところにシミがあり、床にはよく見るとほこりが積もっている。男性にとっても、自室にユニットバスがあるのにも関わらず、わざわざ一階の浴室を使いには来ないだろう。一通り探索を終えた俺は、洗面所を出てリビングの探索をしようとした、が、その時ちょうど新沼が洗面所へと入ってきた。新沼は浴室を眺めている俺を見て、何をしているんだと不思議そうな表情を一瞬見せたが、すぐに嘘くさい笑顔を作って気さくに話しかけてきた。

「どうも、こんにちは。あなたも私と同じこのペンションの宿泊客の方ですよね?私は新沼と申します。今夜だけの付き合いですが、どうぞよろしくお願いします。」

とても人を脅すような人間には思えない丁寧な挨拶である。

「あ、黒野と申します。こちらこそよろしくお願いします。」

なんだか新沼の丁寧な口調が移ったかの様な挨拶になってしまったが、無礼な対応になるよりはいいだろう。いや、相手はどうしようもないクズなのだから多少無礼になってもいいのだが。挨拶を済ませると 新沼はトイレへと入っていった。俺はそのまま洗面所を出ると、ほぼ真向かいにある扉を開け、リビングに入った。中は相変わらず暖かい。ひとまず手前のソファに座り、周囲を見渡す。薪を入れるタイプの暖炉、その側にある薄型のテレビ。何となく電源を入れてみたが、問題なくついた。清楚そうなアナウンサーが今日あったニュースや明日の天気について放送している。そういえば…原作では述べていないが俺はここが何県なのか気になった。北海道や青森といった東北なのか、はたまた新潟や長野の方か、俺はスマホを開き、位置情報を検索した。するとどうやらここは新潟県のようである。確かに、金のない東京の大学生がスキー旅行をするなら、北海道ではなく新潟に行くだろう。俺は一応納得し、リビングの探索を続けた。だが、特に不可解な物が見つかることはなかった。世界の裂目や見覚えのない血まみれのナイフを発見、なんて事はまったく無く、壁にかかった風景画やティッシュの箱くらいしかそもそも物がなかった。情報収集と息巻いたはいいものの、特にめぼしい収穫はなく謎が深まるだけだった。やはりここは、部屋ではなく登場人物達と会話するのが得策だろうか、そんなことを考えていると、ちょうど玄関の方から声が聞こえた。

「すいませーん!誰かいらっしゃいませんかー??」

声だけでもその快活さが伝わってくる。このペンションの最後の宿泊客、白石凛がやってきたのだ。どうやら佐藤さんは新沼の部屋の準備をしているようで、反応がない。せっかくなので玄関に出て彼女と会話する事にした。リビングを出ると玄関で立ち尽くしている彼女と目が合った。相当雪が強くなってきたらしく、全身が雪で真っ白になっている。時刻は午後六時二十分、外もかなり暗くなってきているようだ。「こんばんは!このペンションの方ですか??」

二階にいる佐藤さんにも聞こえるんじゃないかと思うほどの声量で話しかけてきた彼女に、自身も同じ宿泊客であること、オーナーは二階にいるので、もう少ししたら来ることを伝えた。何も手伝わないのも変なので、彼女がもっていたカバンを受け取り、室内に運ぶ。

「わざわざすいません…私、白石凛っていいます!今は大学一年生で、スキーをしに旅行に来たんですよ!」

彼女は常に語尾にビックリマークがつくような声量と勢いで、フルネームまで述べて丁寧に自己紹介をしていった。

「僕は黒野雪っていいます。今は大学二年生で、僕も友達とスキーをしに来ました」

「えー!じゃあ先輩ですね!敬語使った方がいいですか!?」

そんな事を言いながら彼女は楽しそうに笑っている。はっきり言おう、苦手なタイプの人間である。いい子なのは間違いない、だが、コミュ障の俺にとっては会話の消費カロリーが高すぎる。こういうタイプの子を見るたびに、どこからそんなエネルギーを捻出しているのだろうと不思議で仕方がない。しかも…距離が近い。荷物を運び終えてカウンターに背を預けていた俺の隣に当たり前のように並び、会話を続けている。丸みの帯びたショートヘアに、どこか日焼けの名残を感じさせる肌色、いかにもスポーツやってましたと言わんばかりの明るい表情。美少年と言ってもギリギリ通じるであろう見た目をしている。彼女は一人旅行が好きで、キャンプや登山を頻繁にするらしい。だが、時折鼻をかすめる甘い匂いで俺は全く話の内容が入ってこなかった。苦手なタイプとは言ったが、当然、可愛いは可愛い。しかしダメだ、俺には坂本さんがいる。彼女を裏切るわけにはいかない。そんな事を考えながら彼女と話していると、部屋の準備を終え、一階に降りてきた佐藤さんが申し訳なさそうにしながらチェックインの用紙を持ってきた。これ以上ここに居てもチェックインの妨げになるだけなので、白石に会釈をしてその場を去ることとした。まるで恋人のように手を振る彼女を見て俺は、彼女に恋心を抱く男性は、決して少なくないだろうと思った。それこそ森田のような馬鹿で真面目で正義感の強いタイプは彼女と気が合うだろうなと、自室でいびきをかいて寝ている友人の姿を思い浮かべた。他に探索していない所は佐藤さんの部屋やキッチンなどだが、佐藤さんの部屋はもちろん、宿泊客が勝手にキッチンに入るのも変なので俺は大人しく自室に戻ることにした。部屋に戻る途中、坂本さん達の部屋をちらっと見た。友人と旅行に来たのにも関わらず、二人はそれぞれ違う部屋に泊まっている、それは当然ミステリーで部屋が同じだとアリバイなどの都合で面倒くさいのが理由だ。しかしどうやら、今は同じ部屋に二人でいるようである。奥側の坂本の部屋から楽しそうに話す二人の声がかすかに聞こえてくる。夜も一緒に寝ると言い出したりするのではないかとも思ったが、流石に設定そのものを崩すような補完のされ方はしないだろう。聞き耳を立てている所を誰かに見られると変態扱いされそうなので、俺は早めに自室に入った。相変わらずいびきを立てて気持ちよさそうに寝ている友人を横目に俺もベッドに横になり軽く目を閉じる。夕食まで少し頭を休ませることにしよう。あまりにも情報量が多すぎる。いったい誰が何の目的でこの世界を作り、俺を転生させたのか、考えることは数えきれないほどあったが、所詮は人間。迫りくる眠気には勝てず、いつの間にか意識は深い場所へと沈んでいった。

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