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初投稿です。
ゆるい世界設定ですがよろしくお願いします。
――この出逢いは、自分にとって最大の救済であり奇跡だった。
例え当時の自分にとって、全てを諦めるに値すると思うほどの出来事だったとしても。
✻✻✻✻✻
満天の星空を背景に、白亜に浮かび上がるロスタリア城。現在ここでは、王家主催の夜会が開かれていた。
煌びやかなシャンデリアに彩られ、賑やかな談笑と優雅なオーケストラを背景に、参加者は一時の邂逅を楽しんでいた。
そんな中、一人だけ取り残されたようにミレイラ・シュミットは壁の華となっていた。
(早く帰りたい……)
王家主催でなければ参加せずに済んだのに。
そう思わずにはいられないほどに、ミレイラは自分がこの華やかな場には不釣り合いだと痛感していた。
目線の先には優雅にダンスを楽しんでいる者や、友人や知人と交流する者達の姿で溢れている。中には新たな出逢いを求めて参加した者もいるだろう。
ミレイラには、その輪の中には入れない理由がある。
対策こそしているが、これだけの不特定多数の人間がいる中で気を抜いては、その対策が無駄になってしまう。
(エル兄様……早く戻ってこないかしら)
学院生時代の友人に無理やり連れて行かれた兄は、人だかりの中に消えて中々戻って来れないようだ。
身内がいなくなった途端、不安は心の中で大きく育つ。
いくら同世代の若者の交流を目的として開かれた夜会だとしても、こういう公の場に滅多に出ることのないミレイラにとって、社交なんて無用の長物に他ならない。
学院生であった時ですら、兄の協力のもと単位試験と数少ない出席日数のみで卒業資格を得たのだ。
正真正銘、兄以外に話した事のある者はいないのではないか。たった一人の友人も遠方に嫁いだため、今回の参加は難しいと言っていた。姿が見えないのが答えだろう。
本来なら当初の目的通り、出会いの場として参加した者達との交流をするべきなのだが。
(らしくない目的で来ても、結局いつも通り)
だからいつも通り、話し掛けて来る者など滅多にいないだろう、そう思い込んでいたのだが。
「やっと姿を見せたわね……っ!」
憎々しげに放たれた言葉を、どこか他人事のように聞き流しかけていたミレイラは、力任せに腕を引かれたことで完全に思考が停止した。
✻✻✻✻✻
「ようやく終盤と言ったところか。早いこと解放されたいものだ」
何とか欠伸をかみ殺しながら気だるげに呟く声に、斜め後ろに立つ側近は小さく主君を窘める。
「仮にも主催者が言っていい言葉ではありませんよ」
煌びやかなシャンデリアの光を反射する金色の髪を持ち、淡いライラックの瞳をした麗しい相貌は、しかし退屈の二文字を隠そうともしていない。
「招集自体が目的であり、私自身に出逢いは必要ない。将来有望な令息令嬢達に出会いの場を提供しているのだから、感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはないと思うが」
「今現在のだらけた態度について申し上げているのですよ、王太子殿下」
今日の主催者であり、このユソルディア王国の王太子であるウィルフレッド・シェル・ユソルディアは、物申し続ける側近に視線を向けることなく言葉を続ける。
「表情には出していない。気付く者はお前達二人だけだろう」
「あなたをよく知る者なら気付きかねません。現にあなたの婚約者様がこちらを見ていらっしゃいます」
そう言うと、側近の一人であるコレッド・ノスピネルは談笑を続けるグループのひとつを言葉で促す。
「さすが、愛しの婚約者殿は私に対する理解が深い」
少しは気にして欲しいと言う意図に気付いたうえで頓珍漢な感想を述べるのだから、この王太子は本当に曲者であるとコレッドは溜息をつく。
「それで?アードルフは何を警戒している」
もう一人の側近であるアードルフ・エイルースは、静かに会場を眺め続けていた。
「会場内で魔法を使っている者がいる」
その言葉を受けて、ウィルフレッドは視線を僅かに向けることで話の先を促す。
「かなり弱い波動だがずっと発動している。危険性がないから様子を伺っているが……」
「夜会が始まってからずっとか?」
その問いに頷いて答える様子を見つつ、それならば発動して既に二時間ほど経っていることになる。
「危険性がないにしても、もう少し早く申告して頂きたいのですが……」
同じ側近としては、些細なことでも共有してもらわなければ対処できない。静観するにしては悠長すぎないかと問うた。
「本当に微々たるものだ。会場の裏で使用人達が生活魔法を使っていると思った方が納得がいく程の」
深い青色の眼を細め、微かにしか感じ取ることのできないそれを必死に探り続ける。
波紋のように広がる魔法の波は、それ以上強くなることも弱くなることもない。ずっと一定のそれは、相当魔法の制御に長けた者でなければ難しいものであるはずだ。
それを、こんな場所で――?
「!」
その時、初めて波紋に乱れが生じた。
「動いた」
一瞬乱れたその波動は今度は僅かに強くなり、しかしそれ以上変わる様子がない。
「場所は特定できるのか」
ウィルフレッドからすれば感知できないそれは、トラブルに成りえるのならば排除せねばならないものだ。
アードルフは再び安定した波動の中心を正確に読み取ったが、どうにも解せない。
相変わらず攻撃性は感じ取れず、最初より強くなったそれは外側に放つものと言うよりも……。
「コレッド、任せていいか」
「自ら出向く必要があるのですか?」
「何かを守っているようにも感じる。壊す必要があるやもしれん」
アードルフ達の気配がウィルフレッドに向く。主君の判断を伺っているのだろう。壊すのであれば、確かに出向かなければ出来ない。
「微かに喧騒も聞こえる。行け」
ウィルフレッドの言う通り、確かに耳に届き始めたその喧騒は、波動の乱れを感じた場所に近いようだった。
アードルフは動揺を誘わないように、さりとて他に目を向けることもなく歩みを進める。
目的の場所には既に小さな人だかりが出来ており、中央には二人の令嬢がいた。
「お前が……っお前さえいなければ!本当なら私が優先されるべきなのに!!お前だけは絶対に許さないから!!」
鮮やかな赤いドレスを纏うダークブラウンの髪を振り乱した令嬢は、荒々しく吐き捨てると人だかりを苦々しく睨み付け、相手の令嬢を力の限り突き飛ばして走り出した。
突き飛ばされたミルクティー色の髪を持つレモンイエローのドレスを纏った令嬢は、柔らかいエメラルド色の瞳を見開いたまま、動揺を隠せずにその場に座り込んでいた。
(彼女がそうなのか?)
波動の起点は確かにこの場所だ。
疑わしい者のうちの一人は既に逃走していて、あの様子から繊細な魔法を維持し続ける状況にないことは火を見るよりも明らかだ。
「大丈夫ですか、ご令嬢」
そして正しく把握する――。
魔法の波動は、確かにこの令嬢から発せられていた。
こちらの問いが聞こえていないのか、未だに動揺したまま身動き一つせず唖然としている。
何故か周りの者達も手を差し伸べようともせず、この騒動を遠巻きに静観していた。
「失礼ですが、立てますか?」
肩をビクッと震わせた後、ようやく我に返った彼女はこちらに視線を合わせる。
しかし、返答もなければ立ち上がるそぶりも見せない。このまま放置するわけにもいかない以上、多少強引にでも事を進める他ないだろう。
――誰も助け船を出さないならば、魔法の件も含めて自分が対処する方が都合はいいか。
そう思って手を差し伸べた時、それは起こった。
「す……すみません」
煩わせることに対する謝罪と共に、今度はより強く波動を明確に感じ取った。確信を持ったアードルフは彼女の震える手を取り、そして引き上げながら自身も魔法を発動した。
――パンッ
「……え」
小さな動揺の声は、その時のアードルフには届かなかった。何故なら――。
「……っ!?」
アードルフの中に膨大な感情の渦が流れ込んできたからだ。
おおよそ自分のものではないそれは、しかし彼女が立ち上がると同時に遮断された。
溺れるような感覚から意識が引き戻されると、どうやら彼女がアードルフの手を振り払っていたようだ。
その顔は蒼白になり言葉を失っているが、瞳からはあらゆる感情の一端を表すかのように、一滴の雫が零れ落ちた。
「ミラ!!」
お互いに動けず静止していた二人の間に、一人の男が割り込んできた。
彼は彼女を抱きしめると、一人にしてすまないと苦しげに囁いた。親しげな様子と、彼女と似た色合いの髪色から親族だろうと憶測された。
そして、その男にアードルフは見覚えがあった。
「……エルネスト殿?」
彼は同じ城で働く文官で、学院生の頃に何度か顔を合わせたことのある人物だった。
「アードルフ卿、妹がお手を煩わせたようで申し訳ありません」
その場で深く礼をすると、エルネストは顔色の悪い妹の様子を確認し頬に軽く触れた後、更に言葉を続ける。
「無礼を重ねて申し訳ないが、妹は足を捻ったようです。騒ぎを起こした責任もありますし、私達はこれで失礼します」
この場で会話を続ける気はないのか、エルネストはアードルフの言葉を待たず彼女を抱きかかえ、そのまま会場を後にした。
(今のは……)
騒ぎの中心にいた当事者二人がいなくなったことにより賑わいが戻り始めても、アードルフの心中は荒れ狂っていた。
ミラと呼ばれた令嬢に触れた途端、おそらくは彼女の感情と思われるそれが頭の中に流れ込んできたのだ。
疑念、焦燥、後悔、恐怖、不信感。そして、あらゆることへの絶望――。
あまりにも負に彩られた重苦しいその感情は、彼女の見た目からは考えられないほどに暗く、鬱屈としていた。
そしてアードルフに手を取られ、おそらく魔法を破られたことを知ったと思われるその後の……あの感情は。
触れた彼女の手は冷たく震えていた。
まるで伝染したように己の手まで震えているのは、果たしてどういう理由からか。
焦れたウィルフレッドがコレッドを連れて話しかけて来るまで、アードルフは持て余した感情を必死に自分の中で消化させるのだった。




