第70話 それぞれのその後
光の勇者との戦いから約一ヶ月が経過した。
ネーラはすっかり元気になっていた。
カイル達はオーデリィ男爵領、旧クーリエ伯爵領およびその周辺の領地を取り込んで、独立国家オーデリィ王国を建国した。
王国と名乗り、カイルが王となっているが、内政はアルパカを中心に執り行った。
新興国として問題である人材不足は、アルパカが元貴族だけでなく、平民の中からも能力の高い者を雇用して、政治を行った。
アイリーンは治安部隊をとりまとめて、国内の治安を保っていた。しかし、それほど大きな事件が起こることもなかった。
風の勇者クリスは国境警備について王国軍の侵略に備えている。当然、ネーラもセットである。
カイルとノアールはのんびりと過ごしていた。
陽光が燦々と降り注ぐ暖かな日、二人は開墾作業をしていた。
二人ともコンバットスーツを身につけて、木を切り、切り株を引っこ抜き、岩をどける。
大仕事だけ二人で行い、あとは希望する領民に分け与える。そうして、畑を増やし、領地の国力を上げて行った。
開墾場所や水路作りはアルパカ率いる内政部隊の指示に従い、この一ヶ月、次々と開墾場所を増やして行った。
一仕事終えて、お昼ご飯を食べている時にノアールがカイルに訊いた。
「どうして国の名前をオーデリィにしたの?」
「だって、元々オーデリィ領だったんだから、急に名前が変わってもみんな困るだろう。それに僕はずっとオーデリィ家に助けられて育ったんだから、その名前を付けるのは自然だと思うんだ」
「そう? まあ、カイルが納得しているなら良いんだけど」
「それよりも明日からのビーエン湖の別荘ですね。なんだみんなと会うのも久しぶりですね」
「そうね。アマデウスちゃんとも、なんか久しぶりよね」
「そうですね」
涼しい風に身を任せながら、空を見上げてカイルは答えた。
カイルは闇の勇者に選ばれてから、ここまでの波乱に満ちた日々を思い出していた。
いつもノアールに守られていたカイルがコンバットスーツを使えるようになり、ノアールを守れるようになったかと思えば、逆にノアールは王国を逃げ出さなければならない事態になった。それからネーラに出会い、魔王軍との交渉、クーリエ軍との戦い。水の勇者、風の勇者との戦い。オーデリィ夫妻との再会から自分の出生を知った。光の勇者との戦い。そしてシュミレーション内のデーターではあったが、父親との思い出も出来た。ノアールとネーラを危険にさらした事はいまだに後悔している。結果として二人とも無事だったのは、運がよかっただけだと自覚している。
そしてこの幸運に感謝して、いつまでもこの幸福が続くことをカイルは祈った。
~*~*~
カイルとノアールはビーエン湖の側の幽霊屋敷、いや別荘にやってきた。
太陽が天高く光輝くお昼前。
「お帰りなさいませ~」
カイル達が別荘に着くと、女性幽霊のマリーヌが出迎えてくれた。ノアールは荷物を預けながらマリーヌに別荘を空けている間の事を訊いてみた。
「なにか、変わったことはあった?」
「特にございません。村人もここまではやってきませんね」
「そう、ならよかったわ。しばらく、ゆっくりさせて貰うわよ」
「嬉しいですわ。さっそく、お風呂とお食事の用意をさせますわ~」
「ありがとう。それより、今晩はパーティーよ。準備を手伝ってちょうだい」
ノアールは持ってきた食料をマリーヌに見せて楽しそうに笑った。
~*~*~
日が山にかかる頃、別荘には来客が集まってきた。
人魚アマデウスとその夫で貴族のアイク。
騎士団長のアイリーンとメイドのメイ。
リザードマンで諜報部部長のサラマンディーネとケットシーの支店長ベレート。
ノアールの両親であるオーデリィ夫妻。
最後に風の勇者クリスと猫獣人のネーラがやってきた。
内務大臣のアルパカにも声をかけたのだが、残念ながら孤児院を離れる訳にはいかないと今回は不参加となった。
全員が集まった頃、ネーラはノアールに話しかけた。
「ねえ、ノアール。その格好はなにかニャ? カイルもどうしてそんな格好をしてるニャ?」
ノアールは肩の見える真っ白な美しいドレスに身を包み、その闇夜のような綺麗な黒髪を結い上げて、ティアラを付けていた。
カイルは縦縞の黒いズボンにお尻の部分が長い黒いジャケットを身につけていた。胸のポケットには白いハンカチーフもおしゃれに見せていた。
「何って、ウェディングドレスよ。見て分からない?」
「それは分かるニャ。なんでウェディングドレスをノアールが着ているかって訊いてるニャ」
「え!? だってこれから結婚式をするんだもの、そりゃ、ウェディングドレスを着るでしょう」
「まさかと思うけど、誰と結婚するニャ?」
「そんなのカイルとに決まっているでしょう。他に誰がいるのよ」
当たり前だと言わんばかりにネーラに話すノアール。
ネーラは全身の毛を逆立てた。
「そんなの聞いてないニャ! ノアールだけズルいニャ! あたいもカイルと結婚するニャ!」
「ざんねん。だってもう、あたしは結婚指輪も貰ったんだもの。早い者勝ちよ」
「じゃあ、あたいは誓いのキスをもらうニャ!」
そう言うとネーラは問答無用でカイルの唇を奪った。
「何してるのよ! この泥棒猫!」
「泥棒猫で結構ニャ! 早い者勝ちニャ!」
「ちょっと、二人とも落ち着いてください」
カイルは言い合う二人を止めようとする。
そこに新たな人物が割り込んだ。
「ダメよ。ネーラちゃんはわたしのものなんだから」
クリスはそう言うとカイルからネーラを引き離した。
こうして、ノアールとカイルの二人らしい慌ただしい結婚式が始まったのだった。
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