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第56話 カイルの基礎訓練

「ここは?」


 カイルは何もない空間に立っていた。地面はただ真っ平らで辺りの風景は真っ白だった。

 ただ地平線だけが一本、まっすぐに見えるだけの空間だった。


「やあ、こんにちは。君が今回の訓練生だね。まずは名前を登録してくれたまえ」


 いつの間にかカイルの後ろに細身の男性が立っていた。


「こんにちは。僕はカイルと言います。よろしくお願いします。あなたはどなたですか?」

「私は君のコーチだ。私だけでなく、コーチは複数存在する。そのため、いちいち名前を覚えるのも面倒だろうから、ここでは君以外の人間はコーチと呼んでもらって大丈夫だ」

「分かりました。コーチ。それで早速訓練を始めていただきたいのですが、まずは剣術でしょうか? レーザーガンでしょうか? 体術でしょうか?」


 カイルは今、話している時間さえ惜しいと言わんばかりに訓練を始めるようにコーチにお願いした。

 それに対して、コーチの答えはカイルの期待を大きく外れた物だった。


「君にはまず、たつと言うことから初めて貰おう」

「たつ……ですか? それは剣で断つと言うことですか?」

「いいや、違うね。座る立つ。立ち上がるなどの立つだよ。僕たちは二足歩行だ。まず、立つことが基本、次に歩く、走る、飛ぶなどを覚えて貰うよ」

「僕はもう立っていますよ」

「そうだね。ただ、漫然と立っているだけだね。今、君の重心はどこにある? その重心はずれていないか? ぶれていないか? まずはそこから始めよう」


 そう言ってコーチが指を鳴らすと、空中に半透明の人が現れた。それは紛れもなくカイルだった。そのお腹のあたりに煌々と赤く光る小さな点があった。


「今見ているのが今の君の重心点だ。試しに身体を揺らしてごらん」


 コーチに言われるままに身体を左右に動かすとそれに合わせて赤い点が動いた。


「まず、この重心が身体の真ん中にしてごらん。それが出来たら、その重心を動かさないようにじっとする。まずはこれからだよ」

「分かりました。ちなみにこれはどのくらい動かさなければ合格なんですか?」

「まあ、一時間も出来れば、次のステップに進もうか」

「分かりました」


 カイルは簡単に次のステップに進めると思っていた。

 しかし、次のステップに進めたのは1年後だった。

 この空間内でも時間が分かるように、昼と夜はあたりの明るさが変化していた。そして、カイルがこの空間に入ってからどの程度経過したかいつでも見られるようになっていた。

 ただ、立つことが出来るようになると、歩く、走る、飛ぶ。あらゆる身体の操作を習う。筋力、骨、重心、脱力、緊張、呼吸法、鼓動の調整。

 それができるようになると、今度は地面が動くようになり、次に水中のように浮力が働くようになり、最後に無重力となった。

 ここに至るまで、一切の休みがなくおよそ50年が経っていた。

 現実に1日8時間、訓練をしようとすると150年必要になるため、普通の人間ではこの


「これで、僕の訓練は終了だ。この先は次のコーチに託そう」


 そう言って50年間一緒だった細身の男のコーチは消えた。

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