第54話 ネーラの抵抗
「……カイル、目を覚ますニャ。カイル……」
どれくらい気を失っていたのだろうか。ネーラの心配そうな声が聞こえる。
なにか温かい液体がカイルの頬に落ちる。
カイルが目を覚ますとネーラの顔が目に入った。
真っ青な顔だった。
「ネーラ、どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ」
「ああ、目を覚ましたニャ。良かったニャ」
そう言うとネーラはカイルに覆い被さるように倒れた。
「……ごめんニャ。ノアールを連れて行かれたニャ」
カイルは慌てて起き上がると、ネーラが真っ青な顔をしている理由が分かった。
左腕がなかった。ネーラの左腕は肩から先は血だまりの中にあった。
それだけではなかった。体中に打撲や切り傷だらけだった。
カイルの顔に落ちた液体はネーラの血だった。
戦闘力がほとんどなく、怖がりのネーラが、どれだけノブナガに抵抗したのだろうか。
カイルは気絶して、ノアールは肩が外れた状態だった。ノブナガの狙いがノアールならば、ネーラはおとなしくしていても、逃げ出してもノブナガは手を出さないだろう。それなのに、こんなに傷だらけになっている。ネーラは文字宇通り命をかけてノアールを守ろうとしたのだろう。
「ネーラさん!」
「ごめんニャ……」
その言葉を残してネーラは気を失った。
カイルは血だらけのネーラを抱きしめるとナビちゃんに叫んだ。
「ナビちゃん!!! ネーラを助けてください!」
『カイル、そのお嬢さんを治療ポットへ運んでください。今ならまだ間に合うかも知れません。切れた腕も一緒に』
カイルの必死な叫びに答えたのは宇宙船ドギンラの運行システムドギちゃんだった。
「治療ポットはどこですか?」
カイルの問いに、ドギちゃんは通路の光で指し示した。
それに従ってカイルはネーラを治療室に連れて行くと、人がひとり横になれるポットがあった。
治療ポットにネーラを横たえると、治療ポットは壁にすい込まれた。
「ネーラは助かりますか?」
『血が流れすぎています。助かる確率は10%程度です』
「どうか助けてください。お願いします」
『それはお嬢さんの気力次第です。それよりもカイルはこれからどうするつもりですか?』
「まずは鍵を探します。それから、その鍵と引き換えにノアールを助けます」
『カイル。鍵はあなたがすでに持っています』
「どういうことですか?」
『あなたの心臓に鍵が埋まっています。それはドギンラの鍵であり、コンバットスーツの鍵です。鍵がなくなればコンバットスーツも使えなくなります」
「分かりました。その鍵を取り出せますか?」
『可能ですが、その鍵を渡すの意味を分かっていますか?』
「……この船とコンバットスーツがノブナガの手に渡ると言うことですよね」
『そうですが、それだけではありません。私は宇宙規模の犯罪者を相手にする宇宙船です。かなりの武装を積んでいます。それを使うということはこの星を牛耳れる可能性もあるのですよ。それを犯罪者に渡してはいけません』
「でも、ノアールが人質になっているのですよ。僕は彼女を諦める事は出来ません!」
カイルは感情をあらわにして叫んだ。
カイルにとってノアールは大事な人だった。
物心ついた時からずっと側にいる存在。ノアールがいない人生など考えられなかった。
ノアールと世界のどちらを取るかと問われたら、ノアールと即答する。ノアールがそうしてくれたように。この船の鍵を渡せばノアールが帰ってくるならば、カイルに迷う事はない。
『しかし、相手は犯罪者です。鍵を渡したとして素直に連れ去られたお嬢さんを返してもらえるのでしょうか?』
ドギちゃんの心配もカイルには分かる。鍵を渡し、それだけで終われば良いのだが、ノブナガが約束を守るかどうかは分からない。ノブナガはドギンラを魔王軍相手に使うと言っていた。そうすると、魔王軍と手を組んでいるカイル達も敵ではないか。
「儂が嫌いなのは無能な奴と儂に敵対する奴だけじゃ」そう、ノブナガは言っていた。ドギンラを手に入れたノブナガが真っ先にその性能を確かめるために的にするのが、カイルとノアールではないだろうか?
「では、どうすれば?」
『案があります』
カイルに問いに答えたのはナビちゃんだった。




