第50話 突然の同行者
「儂の名前か……サブロウだ」
男性は自分の名前を名乗って近づいて来た。
「カイルと申します。サブロウさんはなんでこんな山で何をしているんですか?」
「儂か? 儂は……」
グー。
サブロウの話の途中で、腹が鳴る音が大きく響いた。
その音を聞いて、ノアールがランチボックスを差し出した
「あ、サブロウさんも食べますか?」
「これは何が入ってるんじゃ?」
サブロウはランチボックスをのぞき込んで、リンゴのコンポートのサンドウィッチを指さした。
「ええ、リンゴですよ。砂糖で甘く煮ています。デザートですね」
「これを貰おう。ありがとうな」
サブロウはそう言うとリンゴのサンドウィッチにかぶりついた。
まさかいきなりデザート用のサンドウィッチを取るとは思っていなかったノアールは驚いたが、美味しそうにサブロウが食べているのを見て、何も言わないことにした。
一通り食べ終わったサブロウは改めてお礼をいった。
「ありがとうな。儂は甘い物には目がなくてな。そうそう、儂がこの山で何をしていたかという話だったな。なあに、単純なことだ。ほこらにお参りに来ていただけだ」
「ほこらですか? この山にそんなところがあるのですか?」
ノアールはそんな話を聞いていなかった。当然、両親からも聞いていなかった。銀色の鯨が落ちた日から、この山は立ち入り禁止にしたと父親アズワルドから聞いていた。つまり十五年はこの山は立ち入り禁止にしている。そんな所にほこらなどがあるだろうか? その前から存在していたほこらだろうか?
「ああ、そうじゃよ。そらの神を祭ったほこらじゃよ。儂は定期的にほこらの様子を見に来ておるんじゃよ。興味があるんじゃったら、一緒に行ってみるか? ここからそれほど離れておらんぞ」
「じゃあ、行ってみようかな? 良いでしょう。カイル」
元々好奇心の強いノアールが食いついた。
しかし、カイルはすぐには賛同せずに、サブロウからずっと顔を背けているネーラを見た。
あの町での一件以来、ネーラは知らない人間から隠れるようになっていた。これまで知っている人間は問題ないのだが、そうでない人間が魔族である自分にどのような感情を向けるか、気にしていた。今、ネーラは無駄な争いが起きないようにサブロウからその姿を隠してた。このまま、サブロウと別れれば、気心の知れたノアールとカイルの二人で山を散策するだけであるが、サブロウと共に行動すると言うことは、自分が魔族である事を隠し続けなければいけないと分かっていた。
ノアールはそんなネーラの気持ちに気づき、サブロウに言い直した。
「あ、やっぱり、すみません。私たちはここで別行動にさせていただきます。私たちの目的は別にありますので」
「そうか? そこの魔族の姉ちゃんの事を気にしてるなら、儂は別に気にしておらんぞ。まあ、儂も別に無理強いする気もないが」
すでにネーラが魔族だと言うことに気がついていたサブロウは、三個目のリンゴのサンドウィッチを食べ終えながら答えた。
その言葉を聞いたネーラはローブを取った。
「本当かニャ」
「ああ、本当じゃ、儂は見た目や種族で差別するのは好きじゃない。儂が嫌いなのは無能な奴と儂に敵対する奴だけじゃ」
「じゃあ、あたいもそのほこらが気になるニャ」
「そうか、そうか。じゃあ、一休みしたらみんなで行ってみるかのう」
そうして、サブロウに案内されて三人は小さなほこらにやってきたのだった。




